26 / 38
幕間
しおりを挟む
朝、志津馬は洗面台の前で己と向き合っていた。
彼の手元――洗面台の比較的平らな部分に置かれているのは目薬、と、そのパッケージ。
今しがた開封したであろうその箱はクールタイプによく見られる水色や青色を基調としたデザインでなく、死の淵を思わせるような黒に近い青。
ディープブルー、ダークブルーをも超越したそれは、深緑、ダークネイビーなどとは到底比べるべくもない、限りなく黒に近い青である。
本体も同じ色が使われており、形はサンタシリーズのものと同じと思われる。
通常の目薬との相違点はもう一つあり、それは、パッケージと本体に大きく禍々しいフォントで書かれた内容がはっきりと示している。
『――メンソール100%!!!』
その下に小さく、
『どんな眠気眼もノックアウト! これでダメなら一生目が覚めない!!!』と文字が並んでいる。
謳い文句まで読み返した彼は鏡に映った自分を見つめ、
「すぅー。はぁー。すぅー。はぁー。……オーケイ。……I'm fine. ……I'm alright. ……It's gonna be all all all right.」
流暢な喋りで鼓舞してから目薬を手に取り、
「大丈夫。俺はやれる。俺は飛べる。俺はなんにでもなれる。俺はテニプリの赤目覚醒状態にだってなれるはずなんだ」
栓をひねって開け、ゆっくりと逆さにした目薬を自らの右目に持っていき、
「……I make it」
言い終わると同時に力を込め、一瞬で両目に雫を落とした。
二滴が網膜に触れ、浸透していく最中、
「あは。あ、は……………………」
「――あ゛、う゛、ぐ、す゛、と゛ぅ、す゛ぅぅぅううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
彼の目は強烈な痛みとともに光を失くした。
「あぁぁぁあああああ! あぁあああああぁあぁぁ! 目が! 目がぁぁぁあああああぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああああああああ!」
洗濯機のある部屋で絶叫し、立っていることすらままならなくなった彼は床に倒れ、仰向けのまま両目を押さえてゴロゴロしている。
その声と雑音を聞いた母は、「まーたバカやってるわね……」と呆れ半分に言った。
「あああぁぁぁぁぁぁぁああああああ! ヤムェルォオオオオ! ヤメルゥオあおおあおおあおおあおああおおあぉあぉあぁおおあぉぁおあぁおああああ!」
まるで、存在しない誰かに目を抉り出されているかのよう。
「おほぉぉぉおおおおおおおおお! うほぉぉぉおぉぉぉぉおおおおおおぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお! にょほほほぉぉぉぉぉおおぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その時、空中に光とともに天使が現れた。
背に二対の小さな羽を持った天使は、二対の結われた御髪をはためくように揺らして、一言祝福した。
「ばるす」
「Whe……!?」
それと同時に天使は姿を消し、また、彼の苦痛も光のように消えた。
「あっ、はぁ。はぁ。はぁ。はぁ……」
息が整うまで深い呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着ける。
それが終わると、彼は言った。
「……見えた! 見えたぞ! 水の一雫ッッ!!!」
立ち上がった彼は黄金バットになっていた。
だが黄金バットは自分のものを確認するまでしか保たず(その時の志津馬の反応は「Oh~ m~y god!!! This……this is the golden bat!!!」)、そのあとは放課後まで赤目の状態であった。
その日の彼は放課後になるまで異常であった。教壇から飛んできたチョークをよそ見をしながらデコピンで弾き返して窓の外のカラスを撃ち落としたり(幸いカラスに怪我はなかった)、テニスの授業で天衣無縫の極みに達しコシマエの真似をして男女ともに沸かせてみたり、木刀を使ってチャンバラごっこをしている時にアカメみたくバッサバッサと男子を斬り倒したりしていた。
志津馬は変身、黄金バット(条件・時間制限)を手に入れた。
志津馬は覚醒、赤目またはアカメ(条件・時間制限)を手に入れた。
彼の手元――洗面台の比較的平らな部分に置かれているのは目薬、と、そのパッケージ。
今しがた開封したであろうその箱はクールタイプによく見られる水色や青色を基調としたデザインでなく、死の淵を思わせるような黒に近い青。
ディープブルー、ダークブルーをも超越したそれは、深緑、ダークネイビーなどとは到底比べるべくもない、限りなく黒に近い青である。
本体も同じ色が使われており、形はサンタシリーズのものと同じと思われる。
通常の目薬との相違点はもう一つあり、それは、パッケージと本体に大きく禍々しいフォントで書かれた内容がはっきりと示している。
『――メンソール100%!!!』
その下に小さく、
『どんな眠気眼もノックアウト! これでダメなら一生目が覚めない!!!』と文字が並んでいる。
謳い文句まで読み返した彼は鏡に映った自分を見つめ、
「すぅー。はぁー。すぅー。はぁー。……オーケイ。……I'm fine. ……I'm alright. ……It's gonna be all all all right.」
流暢な喋りで鼓舞してから目薬を手に取り、
「大丈夫。俺はやれる。俺は飛べる。俺はなんにでもなれる。俺はテニプリの赤目覚醒状態にだってなれるはずなんだ」
栓をひねって開け、ゆっくりと逆さにした目薬を自らの右目に持っていき、
「……I make it」
言い終わると同時に力を込め、一瞬で両目に雫を落とした。
二滴が網膜に触れ、浸透していく最中、
「あは。あ、は……………………」
「――あ゛、う゛、ぐ、す゛、と゛ぅ、す゛ぅぅぅううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
彼の目は強烈な痛みとともに光を失くした。
「あぁぁぁあああああ! あぁあああああぁあぁぁ! 目が! 目がぁぁぁあああああぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああああああああ!」
洗濯機のある部屋で絶叫し、立っていることすらままならなくなった彼は床に倒れ、仰向けのまま両目を押さえてゴロゴロしている。
その声と雑音を聞いた母は、「まーたバカやってるわね……」と呆れ半分に言った。
「あああぁぁぁぁぁぁぁああああああ! ヤムェルォオオオオ! ヤメルゥオあおおあおおあおおあおああおおあぉあぉあぁおおあぉぁおあぁおああああ!」
まるで、存在しない誰かに目を抉り出されているかのよう。
「おほぉぉぉおおおおおおおおお! うほぉぉぉおぉぉぉぉおおおおおおぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお! にょほほほぉぉぉぉぉおおぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その時、空中に光とともに天使が現れた。
背に二対の小さな羽を持った天使は、二対の結われた御髪をはためくように揺らして、一言祝福した。
「ばるす」
「Whe……!?」
それと同時に天使は姿を消し、また、彼の苦痛も光のように消えた。
「あっ、はぁ。はぁ。はぁ。はぁ……」
息が整うまで深い呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着ける。
それが終わると、彼は言った。
「……見えた! 見えたぞ! 水の一雫ッッ!!!」
立ち上がった彼は黄金バットになっていた。
だが黄金バットは自分のものを確認するまでしか保たず(その時の志津馬の反応は「Oh~ m~y god!!! This……this is the golden bat!!!」)、そのあとは放課後まで赤目の状態であった。
その日の彼は放課後になるまで異常であった。教壇から飛んできたチョークをよそ見をしながらデコピンで弾き返して窓の外のカラスを撃ち落としたり(幸いカラスに怪我はなかった)、テニスの授業で天衣無縫の極みに達しコシマエの真似をして男女ともに沸かせてみたり、木刀を使ってチャンバラごっこをしている時にアカメみたくバッサバッサと男子を斬り倒したりしていた。
志津馬は変身、黄金バット(条件・時間制限)を手に入れた。
志津馬は覚醒、赤目またはアカメ(条件・時間制限)を手に入れた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです
空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった!
ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。
「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。
個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー!
※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる