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26.告白
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「な、何……。」
玄関外での待ち合わせ、晴は動きやすそうなラフな格好だけど、似合ってる。
私はどうだろう。こっちじっと見てるけど。
「馬子にも衣装って言いたいんでしょ! 分かってるもん!」
「いや、可愛いよ。化粧も、髪も、オレと出かけるためにしてくれたんだ?」
ぶわわっと顔が赤くなるのが分かる。
「あ、それと出かける前に1つ。」
「何?」
晴は真剣な顔になると、頭を下げた。
「この前は怒ってごめん。美里ちゃんが言った通り、約束はしてなかったし別日でいいって言ったのに。それだけは先に謝っときたくて。」
「うん。……私も、晴が心配してくれてたのに怒ってごめんね。」
2人で微笑み合うと、私は手を出した。
「じゃあ今日は目一杯楽しもう! ゲーム以外でね。」
「うん。」
どちらかともなく指を絡めた。
それはいつものでなくて、いわゆる恋人繋ぎだ。
「わぁ。かわいい。」
「マンボウ見るとあの無理ゲー思い出さない?」
「分かる。あれのせいでいつぞやのゴールデンウィーク引きこもっちゃったもんね。」
「マンボウじゃなくて君が死ぬかと思ったよ。」
私は苦笑いするしかできない。あまりにもあっさりゲームオーバーしちゃうから悔しかったんだよね。
「でも実際にマンボウって繊細なんだよね。」
「そうなの?」
「オレもそのゲームで気になって調べたんだよ。ただ、繊細な部分もある一方で、水面に身体打って死ぬとかは事実と違うって話もあるみたいでね。」
「えっ、知らなかった!」
晴は淡々とマンボウの生態について話す。
これはガチで気になって調べたやつだ。ほらだって隣の親子もキョトン顔してるし。しかも、ついでと言わんばかりに他の魚の話もし始める。
「晴といると、お魚博士不要だね。」
「何それ。オレ博士じゃないんだけど。」
ふふ、と緩み切った笑みを見せる。私もふにゃりと笑ってしまった。
それからいくつか水槽を回ってイルカのもとにたどり着いた。キュウキュウ鳴くイルカはかわいい。ちょうどショーの時間とも合ったみたいで結構いい席だ。
ショーが始まると周りからの歓声もより一層賑やかになる。
「そういえばイルカの育成ゲームもあったよね。」
「えっ、知らないそれ!」
「君、育成ゲーム興味ないもんね~。癒し系らしいよ~?」
そうなんだ。でも、らしいってことは晴もやってないんだね。
そんな話をしていると、イルカが高く飛ぶ。
こんなに飛べるもん?
不意に頭の上に晴が持ってた薄手のカーディガンがかけられた。なんだろう、と思った瞬間、上から水が一気に降ってきた。
「わわ!」
「はは、すっげー派手!」
水飛沫が収まってカーディガンを避けると周りの人も晴もびちょびちょに濡れていた。
「ごめん、カーディガンありがとう!」
「いいって。せっかく決めてきたんだから濡れたらもったいないでしょ。」
揶揄い半分本気半分、私が小さく唸ると晴は笑っていた。
それから水族館を出るとちょうどおやつの時間。夜に行こうと予定している店に行くには早い。
「微妙に時間が余っちゃったね。」
「あ、じゃあ近くに公園あったよね、散歩コースとかもある広いとこ! 少しだけお菓子持ってきたから食べない?」
「お菓子?」
晴が意外そうに声を上げた。
「ちょっとしたクッキーだけど……。あ、お茶も持ってきたし!」
「マジでどうしたの。」
だよねー、キャラじゃないもん。
知ってた、と小さく内心で呟いていると、晴はお構いなしに私の手を引っ張って日陰のベンチに歩いていく。
「ウソだよ、早く食べよ。」
「……!」
残暑のせいか、それとも。
私は慌てて頷き、隣に座った。すると、晴が嬉しそうに笑うもんだから、耐えられず目を逸らした。
それから私たちは散歩しつつ寄り道しながらゲームの話ばかりしていた。
FPSだったらこの土地は有利だとか、こんなところで普通ならしないような話。他の人から見たら笑っちゃうよねって感じ。
時間が経つのも早くて、気づけばお店に行く時間になっていた。
晴といると時間が過ぎるのが本当に早い。
珍しく私が予約した店に行くと、晴はなんでかびっくりしたような様子だった。
「美里ちゃん、本当にここ予約したの?」
「え、やだった?」
え、私このあと告白を目論んでたんだけど。
嫌なお店の後とかハードモードすぎるよ。
そんなことを思ってると、晴はなんて事のないように教えてくれた。
「だってここ、オレがこの前誘おうと思ってた店。」
「……そうなの?」
「うん、息ぴったりじゃん?」
ハードモードどころか加点だった。
私が下を向いてニヤニヤしていたら、晴はにやけてないで行くよ、と背中を押してきた。
なんで分かるのよ……。
食事は絶品だった。
さすが晴というべきか、落ち込んでいる時にここに連れてこられたら絶対私は元気になる。
それからいつもの道を通り、家に向かう。
「どっちの家にする?」
「オレの家微妙に酒臭いから美里ちゃん家にしよ。」
「ああ~。」
私が思い出したように笑うと、晴は私の頬を抓ってきた。原因は私だけど、酒に逃げたのは自分じゃん、自業自得じゃん!
「自業自得じゃんって思ったでしょ。」
「なんで分かるの!」
ほんっとーに侮れない人だ。
私の部屋に入ると、晴は慣れた手つきでお茶を淹れ出す。なんで私の家なのに晴がお茶淹れてるの。
私はささやかなお菓子だけ出した。
先に座っていると、晴は私の横に座った。思わぬ近さに顔が熱くなる。
「あのね」「あのさ」
2人の声が重なる。数度瞬かせると、晴がどうぞ、って言ってきたから遠慮なく先手を貰った。
「その、百合さんとの話盗み聞きしてごめん。私、あの時晴に好きな人がいて、だから私との恋人のふりを続けられないんだって思ってたんだよね。
だから、その、晴の好きな人に妬いたんだ。晴に好きな人がいるなら、その人に勘違いさせちゃ駄目だから離れなきゃって。でも、できなかったんだよね。」
「……だから、あの合コンの人とデート行ったわけ?」
「デートじゃないってば。確かに晴と離れるためにって利用する気持ちも少しはあったけど、ちゃんと正面から告白されたから、ちゃんと断らなきゃって思っただけだよ。」
二度と2人きりで行かないって宣言した、と告げるとふーんと顔を背けたけど口元が緩んでいるのは余裕で分かった。
「じゃあオレのターンね。手始めに聞くけど、一昨日ウチに来たよね。その時、オレ君のこと押し倒したよね?」
「う……うん。」
「なら、隠しても仕方ないから言うけど、あの時言ったの全部本心だし事実だから。」
「スキー事件も?」
「残念ながら。」
アレだけは嘘であってほしかった。
バカすぎでしょ、そのエピソード。
でも、晴が真顔だから残念ながら現実らしい。スキー行ったのも事実だし、なんかあの時滅茶苦茶意地悪だったし。
私がくぅ、と考え事をしていると晴に手を握られた。
「美里ちゃん、オレ君が好きだよ。ずっと、小さい頃から付き合いたいって思ってたし結婚したいって思ってた。」
「……ッ、」
思わず息が止まった。
夢みたいだ。嬉しい。
しかし、目の前の晴の顔は浮かない。
「でもさ、美里ちゃんは恋人のふり、嫌だったんだよね? 揉めた時即答できなかったのもそう……、だよね?」
確かに私はその時答えられなかった。
でも、今は答えられる。
「その、ね。確かに恋人のフリは嫌だった。でも晴が思ってるような理由じゃない。」
「……?」
晴は心当たりがないらしく、怪訝な顔をした。
ほんと、頭良いのにこういう時は鈍いんだから。
「晴とはふりじゃなくて、本物になりたかったの。だから嫌だった。……その、私も晴が好きだから。」
晴は予想できなかったみたい。
完全に固まってしまった。そして、わなわなと震えながら失礼なことを言ってきた。
「その、家族的な好きじゃなくて? 友達の好きとも違う? 意味わかってる?」
「違うよ! 晴となら何でもできるし! ちゅーだって、その先だってできるもん!」
「……ほんっとーにさぁ。」
顔を覆ってはぁーとため息を大きくつくと、その手を外してこちらをじっと見つめてきた。
晴の少しだけかさついた手が私の頬を撫でる。
緊張のあまり目をぎゅっと閉じると、晴は小さく笑った。
「そんなに力まないでよ、美里ちゃん。好きだよ。」
「う……、私も。」
ゆっくりと目を開けると近くに晴の顔がある。
ああ、やっぱり好きだな。
どちらかともなく、ゆっくりと目を閉じるとそのまま唇を重ねた。
まさか幼馴染とこんなふうになるなんて。
言葉にならない多幸感に包まれながら、しばらく晴の温もりを受け止めていた。
玄関外での待ち合わせ、晴は動きやすそうなラフな格好だけど、似合ってる。
私はどうだろう。こっちじっと見てるけど。
「馬子にも衣装って言いたいんでしょ! 分かってるもん!」
「いや、可愛いよ。化粧も、髪も、オレと出かけるためにしてくれたんだ?」
ぶわわっと顔が赤くなるのが分かる。
「あ、それと出かける前に1つ。」
「何?」
晴は真剣な顔になると、頭を下げた。
「この前は怒ってごめん。美里ちゃんが言った通り、約束はしてなかったし別日でいいって言ったのに。それだけは先に謝っときたくて。」
「うん。……私も、晴が心配してくれてたのに怒ってごめんね。」
2人で微笑み合うと、私は手を出した。
「じゃあ今日は目一杯楽しもう! ゲーム以外でね。」
「うん。」
どちらかともなく指を絡めた。
それはいつものでなくて、いわゆる恋人繋ぎだ。
「わぁ。かわいい。」
「マンボウ見るとあの無理ゲー思い出さない?」
「分かる。あれのせいでいつぞやのゴールデンウィーク引きこもっちゃったもんね。」
「マンボウじゃなくて君が死ぬかと思ったよ。」
私は苦笑いするしかできない。あまりにもあっさりゲームオーバーしちゃうから悔しかったんだよね。
「でも実際にマンボウって繊細なんだよね。」
「そうなの?」
「オレもそのゲームで気になって調べたんだよ。ただ、繊細な部分もある一方で、水面に身体打って死ぬとかは事実と違うって話もあるみたいでね。」
「えっ、知らなかった!」
晴は淡々とマンボウの生態について話す。
これはガチで気になって調べたやつだ。ほらだって隣の親子もキョトン顔してるし。しかも、ついでと言わんばかりに他の魚の話もし始める。
「晴といると、お魚博士不要だね。」
「何それ。オレ博士じゃないんだけど。」
ふふ、と緩み切った笑みを見せる。私もふにゃりと笑ってしまった。
それからいくつか水槽を回ってイルカのもとにたどり着いた。キュウキュウ鳴くイルカはかわいい。ちょうどショーの時間とも合ったみたいで結構いい席だ。
ショーが始まると周りからの歓声もより一層賑やかになる。
「そういえばイルカの育成ゲームもあったよね。」
「えっ、知らないそれ!」
「君、育成ゲーム興味ないもんね~。癒し系らしいよ~?」
そうなんだ。でも、らしいってことは晴もやってないんだね。
そんな話をしていると、イルカが高く飛ぶ。
こんなに飛べるもん?
不意に頭の上に晴が持ってた薄手のカーディガンがかけられた。なんだろう、と思った瞬間、上から水が一気に降ってきた。
「わわ!」
「はは、すっげー派手!」
水飛沫が収まってカーディガンを避けると周りの人も晴もびちょびちょに濡れていた。
「ごめん、カーディガンありがとう!」
「いいって。せっかく決めてきたんだから濡れたらもったいないでしょ。」
揶揄い半分本気半分、私が小さく唸ると晴は笑っていた。
それから水族館を出るとちょうどおやつの時間。夜に行こうと予定している店に行くには早い。
「微妙に時間が余っちゃったね。」
「あ、じゃあ近くに公園あったよね、散歩コースとかもある広いとこ! 少しだけお菓子持ってきたから食べない?」
「お菓子?」
晴が意外そうに声を上げた。
「ちょっとしたクッキーだけど……。あ、お茶も持ってきたし!」
「マジでどうしたの。」
だよねー、キャラじゃないもん。
知ってた、と小さく内心で呟いていると、晴はお構いなしに私の手を引っ張って日陰のベンチに歩いていく。
「ウソだよ、早く食べよ。」
「……!」
残暑のせいか、それとも。
私は慌てて頷き、隣に座った。すると、晴が嬉しそうに笑うもんだから、耐えられず目を逸らした。
それから私たちは散歩しつつ寄り道しながらゲームの話ばかりしていた。
FPSだったらこの土地は有利だとか、こんなところで普通ならしないような話。他の人から見たら笑っちゃうよねって感じ。
時間が経つのも早くて、気づけばお店に行く時間になっていた。
晴といると時間が過ぎるのが本当に早い。
珍しく私が予約した店に行くと、晴はなんでかびっくりしたような様子だった。
「美里ちゃん、本当にここ予約したの?」
「え、やだった?」
え、私このあと告白を目論んでたんだけど。
嫌なお店の後とかハードモードすぎるよ。
そんなことを思ってると、晴はなんて事のないように教えてくれた。
「だってここ、オレがこの前誘おうと思ってた店。」
「……そうなの?」
「うん、息ぴったりじゃん?」
ハードモードどころか加点だった。
私が下を向いてニヤニヤしていたら、晴はにやけてないで行くよ、と背中を押してきた。
なんで分かるのよ……。
食事は絶品だった。
さすが晴というべきか、落ち込んでいる時にここに連れてこられたら絶対私は元気になる。
それからいつもの道を通り、家に向かう。
「どっちの家にする?」
「オレの家微妙に酒臭いから美里ちゃん家にしよ。」
「ああ~。」
私が思い出したように笑うと、晴は私の頬を抓ってきた。原因は私だけど、酒に逃げたのは自分じゃん、自業自得じゃん!
「自業自得じゃんって思ったでしょ。」
「なんで分かるの!」
ほんっとーに侮れない人だ。
私の部屋に入ると、晴は慣れた手つきでお茶を淹れ出す。なんで私の家なのに晴がお茶淹れてるの。
私はささやかなお菓子だけ出した。
先に座っていると、晴は私の横に座った。思わぬ近さに顔が熱くなる。
「あのね」「あのさ」
2人の声が重なる。数度瞬かせると、晴がどうぞ、って言ってきたから遠慮なく先手を貰った。
「その、百合さんとの話盗み聞きしてごめん。私、あの時晴に好きな人がいて、だから私との恋人のふりを続けられないんだって思ってたんだよね。
だから、その、晴の好きな人に妬いたんだ。晴に好きな人がいるなら、その人に勘違いさせちゃ駄目だから離れなきゃって。でも、できなかったんだよね。」
「……だから、あの合コンの人とデート行ったわけ?」
「デートじゃないってば。確かに晴と離れるためにって利用する気持ちも少しはあったけど、ちゃんと正面から告白されたから、ちゃんと断らなきゃって思っただけだよ。」
二度と2人きりで行かないって宣言した、と告げるとふーんと顔を背けたけど口元が緩んでいるのは余裕で分かった。
「じゃあオレのターンね。手始めに聞くけど、一昨日ウチに来たよね。その時、オレ君のこと押し倒したよね?」
「う……うん。」
「なら、隠しても仕方ないから言うけど、あの時言ったの全部本心だし事実だから。」
「スキー事件も?」
「残念ながら。」
アレだけは嘘であってほしかった。
バカすぎでしょ、そのエピソード。
でも、晴が真顔だから残念ながら現実らしい。スキー行ったのも事実だし、なんかあの時滅茶苦茶意地悪だったし。
私がくぅ、と考え事をしていると晴に手を握られた。
「美里ちゃん、オレ君が好きだよ。ずっと、小さい頃から付き合いたいって思ってたし結婚したいって思ってた。」
「……ッ、」
思わず息が止まった。
夢みたいだ。嬉しい。
しかし、目の前の晴の顔は浮かない。
「でもさ、美里ちゃんは恋人のふり、嫌だったんだよね? 揉めた時即答できなかったのもそう……、だよね?」
確かに私はその時答えられなかった。
でも、今は答えられる。
「その、ね。確かに恋人のフリは嫌だった。でも晴が思ってるような理由じゃない。」
「……?」
晴は心当たりがないらしく、怪訝な顔をした。
ほんと、頭良いのにこういう時は鈍いんだから。
「晴とはふりじゃなくて、本物になりたかったの。だから嫌だった。……その、私も晴が好きだから。」
晴は予想できなかったみたい。
完全に固まってしまった。そして、わなわなと震えながら失礼なことを言ってきた。
「その、家族的な好きじゃなくて? 友達の好きとも違う? 意味わかってる?」
「違うよ! 晴となら何でもできるし! ちゅーだって、その先だってできるもん!」
「……ほんっとーにさぁ。」
顔を覆ってはぁーとため息を大きくつくと、その手を外してこちらをじっと見つめてきた。
晴の少しだけかさついた手が私の頬を撫でる。
緊張のあまり目をぎゅっと閉じると、晴は小さく笑った。
「そんなに力まないでよ、美里ちゃん。好きだよ。」
「う……、私も。」
ゆっくりと目を開けると近くに晴の顔がある。
ああ、やっぱり好きだな。
どちらかともなく、ゆっくりと目を閉じるとそのまま唇を重ねた。
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