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37.最終作戦:大事な話を君に -晴海視点-
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オレ、こと八草晴海は柄にもなく緊張していた。
それもそうだろう、今日この日が来ることは付き合った時から考えていたけど、どんなに綿密に計画を立てても頓挫しそうな気がしてやまない。
今日この日、オレは美里ちゃんにプロポーズする。
年度末、有休を消化しろと言われたオレ達は2人揃って連休を取ることができた。ぶっちゃけ引っ越しは2月の連休をうまく使ってやってたからとってなかったんだよね。
オレは他にも休みが取れそうだったから、こっそりとあるものを準備することができた。
正直なところバレないか不安だったけど、藤島さんや狛柴さんに聞いてサイズも測ることができた。というか、測るときも熟睡してて全く気付く気配がなかったから楽なことこの上なかった。
デザインとかの好みに関しては、困ることはない。お互いの好みなんて熟知している。一応山部さんにも聞いたけどばっちり。ただ、返信は殺意高かったけど。
それにいわゆる流行り、というものはすっかり仲直りして山部さんとの距離を詰めたらしい上機嫌な藤島さんが嫌と言うほど詳しく教えてくれた。
「でも、1年前の今頃は悟りを開いたような顔をしてた八草くんがプロポーズなんて感慨深いね。」
誘いという誘いを断っている藤島さんと元よりノリの悪いオレ達の元にちゃらけた女性達が来ることは今や殆どない。
食堂の傍らで藤島さんにしみじみと言われた。
「婚姻届とかはいいの?」
「それは大丈夫ですよ。」
オレがそう言うと藤島さんは何故か驚いたような顔をした。
「どうしたんですか?」
「八草くんのことだから何なら九重さんが書く欄以外全部埋めて準備するかと思って。」
「いやー、何となくなんですけどね。それはしなくていいかなって。」
「ふぅん?」
あくまでも勘。
でも、美里ちゃんは今回の旅行の意図、気づいているかいないかは知らないけど、何か仕掛けてきそうな気がするのだ。
「まぁ、土産話楽しみにしてるよ。今回はスキー事件みたいにならないといいけど。」
「大丈夫です。同音異義語に気をつけます。」
オレの自虐は藤島さんのツボに嵌まったらしい。ぶは、と噴き出すと暫くタガが外れたように笑っていた。
その日の夕方には、何かを嗅ぎつけたかのように涼から連絡があった。要件に関しては旅行の前日に飲みに行こうという全く嗅ぎ付けていない内容だったが。
丁重にお断りすると、涼は勝手に思い出していた。
家に帰ってしまえば、美里ちゃんがいるわけだから、妙なことを口走られた時に備えて会社を出たところで電話を繋ぐ。
『そっかー、タイミング悪かったな!』
「本当だよ。全く。」
『拗ねんなって、とりあえず旅行終わったら雑賀さんと2人んち遊びに行くから。』
「絶対あの人来ないでしょ。来るとしても君とじゃなくて狛柴さん達と来るよ。」
『あー、ごもっとも。』
電話の向こうで苦笑する声が聞こえる。
涼は、何やかんやと中学からオレの片想いを知って何かと元気つけてくれていたなぁ。
タイミングの悪さには呆れるしかなかったが、このまま切るのも何となく惜しまれる。
「涼。」
『ん?』
「……その、さ。色々とありがと。」
『何、お前死ぬの?』
まぁ確かに。死亡フラグっぽかったな今の。
あまりゲームをやらない涼の発想に笑ってしまう。普段なら絶対こんなこと言わないしな。
「なーんて、冗談。よくよく考えたらこんな大事な日に被せて飲み会誘ってくるんだからね。」
『はぁー、よく言うぜ! 相変わらず可愛くねーの。』
「思われたくないし、そもそも君に思われるのが嫌。」
『辛辣が過ぎるだろ。ま、楽しんでこいよ。』
「言われなくても。」
こんな憎まれ口を聞いても笑ってくれる。
本当にいい友人に恵まれたよ。
いつも通り、変わらない夜を過ごしながら過ごす。
そして、翌日。
オレ達は予約した便に乗り、石垣島に向かう。卒業旅行生が結構おり、混み合ってるにも関わらず、美里ちゃんが推してきたのだ。
どうして? と聞いてみた所、彼女曰く「久々に見たアニメの聖地だし、ゲームのグラフィックの参考になりそうだから。」だそうだ。そんなこと言われたらオレも履修するに決まっている。
ただ、マリンスポーツだとかいわゆる定番どころを挙げてこなかったあたり相変わらずだなぁ、なんて思うけど、今回はシュノーケリングを提案してきただけ進歩か。
「晴、晴! 見て、いきなりクライマックスなんだけど!」
「ああ、空港?」
「うん! いきなりここから見られるなんて!」
周りを見てみるけどこんな出入り口でテンション爆上がりしている人なんて早々いないらしい。
マイペースに目を輝かせる彼女は気にしてないみたいだけど。
「というか、飛行機も初めて乗ったから楽しかったよ!」
「大学の卒業旅行は行ってないんだっけ?」
「うん、サークルの友だちと1週間引きこもりどう森やってた! しかも、なぜか季節外れのインフルエンザにも罹ったし……。」
「あの時か。」
確かに就職前に何やら寝込んでいた気がする。
それに、就職先の事前研修も入ってたしな。
ちなみにオレは学部生の時もそうだけど大学院卒業の時にも旅行に行っており、後者の時には海外も行った。
1人がロストバッゲージして大変だったけど。
「でも、飛行機乗るのも晴とが初めてだったね。何しても晴が初めてになるんだもんね。」
「……。」
ふにゃりと無防備に笑う彼女にオレは固まる。
学生達の生温い微笑みに居心地の悪さしか感じない。
加えて厄介なことに、このタイミングで急にプロポーズのことを意識してしまい、さらに居心地悪く感じてしまった。
だけど、そんな穏やかな気持ちも束の間。
空港からレンタカーで移動するかってなってたんだけど、何を血迷ったのかこのペーパードライバーは意気揚々と運転席に乗り込んだ。
「……何してんの?」
「何って、運転!」
いやそんな元気に言われても。
「はいはい、冗談はやめて。さっさと降りる。」
「冗談じゃないよ! 私だって運転したいもん。」
「何血迷ったことを言ってるの。」
「真顔で言わないでよ!」
おっと本音が。
だけど、彼女は一向に降りる気配がない。ここでぐずっていても店の人に迷惑かけるし、コンビニで適当に代わるか。
「はぁ~。まさかこんな所で君に命を預けるなんてね。」
「これから、こういうことあるかもしれないんだから早いか遅いかの問題でしょ?」
「いや、そうかもしれないけど……。」
さて、人によってはここでこの子はオレとずっと一緒にいるつもりなんだな、ってときめくかもしれない。
だけど、オレの中にはある疑念が浮かんでいた。
この子はプロポーズを察しているわけでなく逆プロポーズを目論んでいるのではないかと。
普通ならありえないだろうけど、美里ちゃんの場合こちらの目論見を崩すことに定評がある。こちらの意図なんて察しているようで察していない可能性なんて大いにある。
「どうしたの?」
「何でもないよ。」
「ふーん、じゃあ早速行こうか!」
「あー、アクセルはゆっくり……。」
オレの言葉は聞こえていないらしい。
勢いよく発進する車に身を任せながら色々と大丈夫かなぁ、なんて諦めの境地に達していた。
「うぅ~、車は気持ち悪かった。」
「自分の運転に酔うって滅多にないよ。凄いね。」
「褒めてないでしょ。」
「まぁね。」
運転して10分で酔うとは何事か。
早々に交代し、オレが運転することになった。一生運転しないとぼやいている彼女に笑ってしまう。何回聞いたことやら。
ちなみにオレたちが来ているのは洞窟。
珍しく美里ちゃんがシュノーケリングをやりたいなんて言うものだから、ツアーに参加している次第だ。船に乗ってしまえば先ほどまでのげっそりした表情はどこへやら。目を輝かせている。
説明を受けた美里ちゃんは躊躇うことなく海の中に入った。
「綺麗だね! 最近出たモンスタースナップも超綺麗って思ってたけど想像以上だよ。」
「最近のはグラフィックも綺麗だよね。でも、本物の良さもあるでしょ?」
「うん!」
彼女は決して泳ぎは得意ではないが、オレと一緒ならと、今回の旅行はチャレンジ精神旺盛だ。
嬉しい反面、腹の奥を探ってしまう。
「晴!」
「何?」
水面から顔を出したタイミングで声をかけられ、オレはそちらをみる。
するとゴーグル越しでもわかる満面の笑みを彼女は浮かべていた。
「楽しいね!」
何かそんな顔を見たら、余計なことを考えている自分がアホらしくて。
「……そうだね。」
「うん!」
まぁ、どうでもいいか。
青い世界に悠々と浮かぶ美里ちゃんがどうしようもなく眩しくて。オレはただただ、目を細めるばかりだった。
ここからは冒頭に戻る。
オレが決戦の場として選んだのはホテルからさほど遠くない、星の見える海岸線だ。天気になってよかったな、なんて思いながらオレはぼんやりとしていた。
美里ちゃんは気を紛らわすかのように、ずっと海岸線で水と戯れながら歩いている。服も少し濡れている気がするけど大丈夫かな。
「美里ちゃん。」
「ふぉいっ?!」
ふと声をかけると明らかに動揺した反応を見せた。
ああ、たぶんバレてるな。
推測が確信となる瞬間だった。
バレてるプロポーズほど嫌なものってないかも。オレはポケットに入れた例の物を無意識に握り込んだ。
「大事な話があるんだ。」
春先には少し早い、喉の渇きを感じる。
意を決して口を開こうとした瞬間だった。
「待って!」
「うん?」
さて、ここからの展開、たぶん予想がついている人もいるだろう。いかに余裕が無かったか、思い知らされる出来事である。
オレはここで美里ちゃんが差し出してきた物を見て目を見張ることになる。予想はしていたけど、予想していないことが起きたからだ。
そしてオレは何回か目を瞬かせてから、腹を抱えて笑った。
昔から彼女には攻略されっぱなしだけど、こんなアイテム出されたら裏ルートに転がってしまいそうなくらい、愛らしいものを見せつけられることになるのだ。
それもそうだろう、今日この日が来ることは付き合った時から考えていたけど、どんなに綿密に計画を立てても頓挫しそうな気がしてやまない。
今日この日、オレは美里ちゃんにプロポーズする。
年度末、有休を消化しろと言われたオレ達は2人揃って連休を取ることができた。ぶっちゃけ引っ越しは2月の連休をうまく使ってやってたからとってなかったんだよね。
オレは他にも休みが取れそうだったから、こっそりとあるものを準備することができた。
正直なところバレないか不安だったけど、藤島さんや狛柴さんに聞いてサイズも測ることができた。というか、測るときも熟睡してて全く気付く気配がなかったから楽なことこの上なかった。
デザインとかの好みに関しては、困ることはない。お互いの好みなんて熟知している。一応山部さんにも聞いたけどばっちり。ただ、返信は殺意高かったけど。
それにいわゆる流行り、というものはすっかり仲直りして山部さんとの距離を詰めたらしい上機嫌な藤島さんが嫌と言うほど詳しく教えてくれた。
「でも、1年前の今頃は悟りを開いたような顔をしてた八草くんがプロポーズなんて感慨深いね。」
誘いという誘いを断っている藤島さんと元よりノリの悪いオレ達の元にちゃらけた女性達が来ることは今や殆どない。
食堂の傍らで藤島さんにしみじみと言われた。
「婚姻届とかはいいの?」
「それは大丈夫ですよ。」
オレがそう言うと藤島さんは何故か驚いたような顔をした。
「どうしたんですか?」
「八草くんのことだから何なら九重さんが書く欄以外全部埋めて準備するかと思って。」
「いやー、何となくなんですけどね。それはしなくていいかなって。」
「ふぅん?」
あくまでも勘。
でも、美里ちゃんは今回の旅行の意図、気づいているかいないかは知らないけど、何か仕掛けてきそうな気がするのだ。
「まぁ、土産話楽しみにしてるよ。今回はスキー事件みたいにならないといいけど。」
「大丈夫です。同音異義語に気をつけます。」
オレの自虐は藤島さんのツボに嵌まったらしい。ぶは、と噴き出すと暫くタガが外れたように笑っていた。
その日の夕方には、何かを嗅ぎつけたかのように涼から連絡があった。要件に関しては旅行の前日に飲みに行こうという全く嗅ぎ付けていない内容だったが。
丁重にお断りすると、涼は勝手に思い出していた。
家に帰ってしまえば、美里ちゃんがいるわけだから、妙なことを口走られた時に備えて会社を出たところで電話を繋ぐ。
『そっかー、タイミング悪かったな!』
「本当だよ。全く。」
『拗ねんなって、とりあえず旅行終わったら雑賀さんと2人んち遊びに行くから。』
「絶対あの人来ないでしょ。来るとしても君とじゃなくて狛柴さん達と来るよ。」
『あー、ごもっとも。』
電話の向こうで苦笑する声が聞こえる。
涼は、何やかんやと中学からオレの片想いを知って何かと元気つけてくれていたなぁ。
タイミングの悪さには呆れるしかなかったが、このまま切るのも何となく惜しまれる。
「涼。」
『ん?』
「……その、さ。色々とありがと。」
『何、お前死ぬの?』
まぁ確かに。死亡フラグっぽかったな今の。
あまりゲームをやらない涼の発想に笑ってしまう。普段なら絶対こんなこと言わないしな。
「なーんて、冗談。よくよく考えたらこんな大事な日に被せて飲み会誘ってくるんだからね。」
『はぁー、よく言うぜ! 相変わらず可愛くねーの。』
「思われたくないし、そもそも君に思われるのが嫌。」
『辛辣が過ぎるだろ。ま、楽しんでこいよ。』
「言われなくても。」
こんな憎まれ口を聞いても笑ってくれる。
本当にいい友人に恵まれたよ。
いつも通り、変わらない夜を過ごしながら過ごす。
そして、翌日。
オレ達は予約した便に乗り、石垣島に向かう。卒業旅行生が結構おり、混み合ってるにも関わらず、美里ちゃんが推してきたのだ。
どうして? と聞いてみた所、彼女曰く「久々に見たアニメの聖地だし、ゲームのグラフィックの参考になりそうだから。」だそうだ。そんなこと言われたらオレも履修するに決まっている。
ただ、マリンスポーツだとかいわゆる定番どころを挙げてこなかったあたり相変わらずだなぁ、なんて思うけど、今回はシュノーケリングを提案してきただけ進歩か。
「晴、晴! 見て、いきなりクライマックスなんだけど!」
「ああ、空港?」
「うん! いきなりここから見られるなんて!」
周りを見てみるけどこんな出入り口でテンション爆上がりしている人なんて早々いないらしい。
マイペースに目を輝かせる彼女は気にしてないみたいだけど。
「というか、飛行機も初めて乗ったから楽しかったよ!」
「大学の卒業旅行は行ってないんだっけ?」
「うん、サークルの友だちと1週間引きこもりどう森やってた! しかも、なぜか季節外れのインフルエンザにも罹ったし……。」
「あの時か。」
確かに就職前に何やら寝込んでいた気がする。
それに、就職先の事前研修も入ってたしな。
ちなみにオレは学部生の時もそうだけど大学院卒業の時にも旅行に行っており、後者の時には海外も行った。
1人がロストバッゲージして大変だったけど。
「でも、飛行機乗るのも晴とが初めてだったね。何しても晴が初めてになるんだもんね。」
「……。」
ふにゃりと無防備に笑う彼女にオレは固まる。
学生達の生温い微笑みに居心地の悪さしか感じない。
加えて厄介なことに、このタイミングで急にプロポーズのことを意識してしまい、さらに居心地悪く感じてしまった。
だけど、そんな穏やかな気持ちも束の間。
空港からレンタカーで移動するかってなってたんだけど、何を血迷ったのかこのペーパードライバーは意気揚々と運転席に乗り込んだ。
「……何してんの?」
「何って、運転!」
いやそんな元気に言われても。
「はいはい、冗談はやめて。さっさと降りる。」
「冗談じゃないよ! 私だって運転したいもん。」
「何血迷ったことを言ってるの。」
「真顔で言わないでよ!」
おっと本音が。
だけど、彼女は一向に降りる気配がない。ここでぐずっていても店の人に迷惑かけるし、コンビニで適当に代わるか。
「はぁ~。まさかこんな所で君に命を預けるなんてね。」
「これから、こういうことあるかもしれないんだから早いか遅いかの問題でしょ?」
「いや、そうかもしれないけど……。」
さて、人によってはここでこの子はオレとずっと一緒にいるつもりなんだな、ってときめくかもしれない。
だけど、オレの中にはある疑念が浮かんでいた。
この子はプロポーズを察しているわけでなく逆プロポーズを目論んでいるのではないかと。
普通ならありえないだろうけど、美里ちゃんの場合こちらの目論見を崩すことに定評がある。こちらの意図なんて察しているようで察していない可能性なんて大いにある。
「どうしたの?」
「何でもないよ。」
「ふーん、じゃあ早速行こうか!」
「あー、アクセルはゆっくり……。」
オレの言葉は聞こえていないらしい。
勢いよく発進する車に身を任せながら色々と大丈夫かなぁ、なんて諦めの境地に達していた。
「うぅ~、車は気持ち悪かった。」
「自分の運転に酔うって滅多にないよ。凄いね。」
「褒めてないでしょ。」
「まぁね。」
運転して10分で酔うとは何事か。
早々に交代し、オレが運転することになった。一生運転しないとぼやいている彼女に笑ってしまう。何回聞いたことやら。
ちなみにオレたちが来ているのは洞窟。
珍しく美里ちゃんがシュノーケリングをやりたいなんて言うものだから、ツアーに参加している次第だ。船に乗ってしまえば先ほどまでのげっそりした表情はどこへやら。目を輝かせている。
説明を受けた美里ちゃんは躊躇うことなく海の中に入った。
「綺麗だね! 最近出たモンスタースナップも超綺麗って思ってたけど想像以上だよ。」
「最近のはグラフィックも綺麗だよね。でも、本物の良さもあるでしょ?」
「うん!」
彼女は決して泳ぎは得意ではないが、オレと一緒ならと、今回の旅行はチャレンジ精神旺盛だ。
嬉しい反面、腹の奥を探ってしまう。
「晴!」
「何?」
水面から顔を出したタイミングで声をかけられ、オレはそちらをみる。
するとゴーグル越しでもわかる満面の笑みを彼女は浮かべていた。
「楽しいね!」
何かそんな顔を見たら、余計なことを考えている自分がアホらしくて。
「……そうだね。」
「うん!」
まぁ、どうでもいいか。
青い世界に悠々と浮かぶ美里ちゃんがどうしようもなく眩しくて。オレはただただ、目を細めるばかりだった。
ここからは冒頭に戻る。
オレが決戦の場として選んだのはホテルからさほど遠くない、星の見える海岸線だ。天気になってよかったな、なんて思いながらオレはぼんやりとしていた。
美里ちゃんは気を紛らわすかのように、ずっと海岸線で水と戯れながら歩いている。服も少し濡れている気がするけど大丈夫かな。
「美里ちゃん。」
「ふぉいっ?!」
ふと声をかけると明らかに動揺した反応を見せた。
ああ、たぶんバレてるな。
推測が確信となる瞬間だった。
バレてるプロポーズほど嫌なものってないかも。オレはポケットに入れた例の物を無意識に握り込んだ。
「大事な話があるんだ。」
春先には少し早い、喉の渇きを感じる。
意を決して口を開こうとした瞬間だった。
「待って!」
「うん?」
さて、ここからの展開、たぶん予想がついている人もいるだろう。いかに余裕が無かったか、思い知らされる出来事である。
オレはここで美里ちゃんが差し出してきた物を見て目を見張ることになる。予想はしていたけど、予想していないことが起きたからだ。
そしてオレは何回か目を瞬かせてから、腹を抱えて笑った。
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