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8話 貴族の闇

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  しばらくしてその蒸気が隙間風によって流され薄れていき辺りが見渡せるようになった。

  すると、先ほどまで倒れていたはずの彼らとは違うもの達がその場に倒れ込んでいた。

  「こ、子供!?」

  辺りにいたもの達の背が縮んでいたのだ。
  よく見たら顔もまだ幼く彼らの頭には獣のような耳が生えていて、尻尾のようなものが尻の付け根から生えていた。
  獣の耳に尻尾。
  俺はこの種族の話を父から聞いたことがある。
  そう、獣人族だ。
   
  「あーあ。バレちまったか。」

  「君たちは獣人なのか?」

  「そうさ、俺達は獣人、煮るなり売るなり好きにしていいからさ。頼むからこいつらだけは見逃してやってくれ。」
  
  「え、売るって何の話だ?」

  「は・・・?俺たちは獣人だぞ?獣人が金になることぐらいあんたなら知っているだろ? 」
  
  「いや待て待て待て。売るって誰にだよ?」

  「・・・そんなの貴族に決まっているだろ。」

  貴族に獣人を売る・・・?
  この国の貴族はまさか人身売買でもしているのか?
  俺はその後彼にその事について詳しく聞いた。
  彼の話によるとどうやらこの国の貴族達は王家には秘密裏に獣人を奴隷化しているみたいなのだ。
  しかもその目的の大半が貴族の性的欲求を満たす道具にするためとか。
  中には獣人は人間に比べると圧倒的に数が少ない種族で希少価値が高いからコレクションにするために獣人を買う貴族もいるらしい。
  もちろん全ての貴族が関わっているということではないだろうけど。
  そんな獣人の子供達は成人した獣人よりも珍しくこの国では獣人の子供1人を買うために金貨100枚もの大金を出してもいいと考える貴族もいるらしい。
  つまり、獣人を捕まえて売ると金になる。
  そんな事から大金なる彼らを攫って売ろうとする奴らがウジャウジャといるらしい。
    
  その話を聞いて正直、腹が立った。
  誇り高き貴族ともあろう者が守るべきもの達を物のように扱う。
  何ともまあ・・・胸糞が悪い。
    
  「さあ兄ちゃん、俺を連れてけよ。」

  そう言うと彼は自身の変身の魔法を解いた。

  「俺は自分の可愛さには自信があるぜ。だからきっと高く売れる。」

  そこに居たのはさっきまでの男のような彼ではなく背丈が俺の胸元ぐらいの可愛らしい彼女がそこに居た。
    
  「君、女の子だったんだね。」

  正直、ずっと自身のことを俺と言っていたので男だと思ったが目の前にいるのは髪は短いが透き通るぐらい綺麗な銀髪の髪、まだ顔に幼さは残っているが吸い込まれそうなほど綺麗な青色の瞳をした可愛い女の子だったことに驚いた。
  これは確かに自分の可愛さに自信があると言えるだけのことはあると思えるくらいの整った顔をしていた。

  「そうさ、獣人の女は男達より高く売れるぜ?だから・・・お願いだから他のやつは見逃してやってくれよ。」

  そう言うとその子は俺に向かって深々と頭を下げた。
  その姿を眺めていたら気づいたことがあった。
  その子の肩がビクビクと震えていたのだ。
  口では強く言っていながらもこんなに震えてさぞ怖いだろうにこの子は自分の仲間を庇って自身を差し出した。
  俺がこの子の立場になった時、果たして俺は同じ行動が出来るだろうか。
  そう考えると仲間の身代わりとなって自分を差し出すと言う行動がどれほどの勇気のある行動なのか理解できる。
  だから、俺はその勇気を讃えてあげようと思った。

  そして俺は膝を曲げてその子の目線の高さへと顔を下げた。
  今にも泣き出しそうなその子の頭にポンと手を置きながら俺は話した。

 「もうこんなことしちゃいけないよ。それが約束できるのなら俺は君のその勇気を讃えて君たちのことを許す。」
    
  俺がそう言うとその子は顔を上げ目を丸くしていた。

 「なんで・・俺たちは兄ちゃんを騙そうとしたんだぞ!?なのに何で兄ちゃんは俺たちを許してくれるんだよ。」

 「確かに君たちがした行動は悪いことだと思う。だけど、誰しも一度は過ちは犯すんだ。だからその度に学んでいけばいいんだよ」

 「ほ、本当に許してくれるの?俺たちを売らないの?」

 「君たちがちゃんと反省して今後一切こんなことはしないと約束できるのならね。」

  俺のその言葉を聞いた彼女はただひたすらごめんなさい。ごめんなさい。と謝りながら泣き叫んだ。
  だからその度に俺はもう大丈夫だからと言いながらその子の頭を撫でながら慰めた。
  世の中には本当に色々なことがあるものだ。俺が父上から捨てられていなければこんなことが起きていることにすら気づくことはなくただ毎日を平凡に過ごして生きてきただろう。
    
  だから俺は少し父上に感謝をしてしまった。
  こんなにも酷い環境でも力強く生き ている子達がいることを知れたから。
  そして俺にできることが何か少しでもあるのなら俺はこの子達を救ってあげようとそう思えた。

    
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