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4.遠く離れていく君。
しおりを挟むエリスが王都グリムガルドに旅立って3ヶ月の時が過ぎた日のまだ陽がジリジリと照りつける時間に村に一報が知らされる。
「おーい!祝報だーー!!」
右手に新聞を握りしめた1人の男が大慌てで村の中央広場へと走っていく。
その声に釣られ広場近くに住む者達や周辺にいた者達が皆その男の元へと駆け寄っていく。
「何だ何だー?」
気づけばそこは村人によって小さな円になっていた。
「エリスちゃんがA級ダンジョン踏破したって!」
広場に置かれた小さなステージの上へと広げられた新聞を見るとそこには大々的にエリスの居る勇者パーティがダンジョン踏破と大きな見出しに一面にエリス達の写真が掲載されていた。
勇者パーティは最近エリスが加入したパーティのこと。
勇者エリス、賢者ラティス、戦士アルカイナ、魔女エミリーら4人からなるチーム。
そして、賢者ラティスという男はとてつもなくイケメン。なんか無性に腹立つ。
「エリスちゃんすごいわねー。」
「これなら魔王が倒される日もあっという間だね!」
村人達は我が子のようにエリスのダンジョン踏破の話を喜んだ。
まあ、この村は人口70人程度。
全員が知り合いのような者だし喜ぶのも無理はないかな。
だが、それにしてもエリスはもうA級ダンジョンを制覇したのか。
村を旅立って3ヶ月しか経っていない。
彼女が今のパーティに加入したのはまだ1ヶ月前のことだ。
1ヶ月でのA級ダンジョン踏破は異例中の異例。騒がれるのも無理はない。
「お前はどんどん先にいっちまうな。」
本当は他の村人達と一緒に喜ばねばならないところだが、素直には喜べない。
俺とは違うどこか遠い世界へ行ってしまっているみたいで、何故か喜べないんだ。
俺も早く追い付かないといけないと思ってエリスが旅立ったあの日以来ただひたすらに木で作った木刀を振るっていた。
だけど、やっぱりスキルの差なのか俺は強くなった実感を全く感じない。
俺のスキルの効果は自身の身体能力を0.5倍増加させるだけ。
スキルを持たないものよりほんの少し強くなれるだけなのだ。
だが、あんまり弱音を吐いている時間はない。
俺がこんなことで落ち込んでいる間にも彼女はもっと遠くへ行ってしまうから。
俺は俺の今やれることをやろう。
「教会でもう一度鑑定してもらうか。」
スキルは本来授与される日に能力を知らされるが稀にその日以降に新たに能力が上書きされることがある。
俺のスキルはただでさえ聞いた事もない謎が多いスキル。
ひょっとしたら何かスキルが上書きされているのかも知れない。
そう思い俺は教会へ行き再び鑑定してもらうことにした。
********
町外れにあるスキル授与の日に行った教会へと到着した俺は神官様へスキルの再鑑定をお願いした。
「では、君のスキルの再鑑定を始めましょう。」
「お願いします。」
スキル授与の日と同じ手順で神官様は透明な水晶へ両手を添えて詠唱に始める。
そして1分後俺のスキルの鑑定が終了した。
「うむ・・・。見たところ君のスキルは身体能力0.5倍増じゃな。」
「そうですか。」
何か今の状況を改善する上書きがされていればと我にも縋る思いで来てみたが成果はなかったみたいだ。
やはり、ただのゴミスキルだったってことかな。
と諦めて帰ろうとした時神官様が再び口を開いた。
「待て、何やら文字が見える。何々・・・影は光と表裏一体。光あるところに影は本来の力を示す。」
表裏一体?なんだそりゃ。
意味が分からない。
でもまあ、あの時に言われなかったと言うことは恐らく上書きされた文書なのかもしれない。
それはほんの少しだけの進歩ということだな。
その後俺は神官様へお礼の言葉を言い教会を後にした。
≪影≫と言うスキルについてはまだまだ謎だらけだが、今後また何かしらの変化があるかも知れない。それまでは剣術の訓練でもしながら待つしかないな。
よし、今はただやれることだけやろう。
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