千物語

松田 かおる

文字の大きさ
60 / 94

小さな殻

しおりを挟む
「気を悪くしたらごめんなんだけど…」
デートの締めにバーで飲んでいたら、彼女がそう言い出した。

「何?」
僕が聞くと、
「最近、なんか刺激が少ないかなぁ…って感じちゃって」
彼女が少し申し訳なさそうに答えた。

「…じゃあ、今度のデートはエスニック料理でも食べに行く?」
僕がそう言うと、
「それは興味深いけど、そうじゃなくて。なんて言うかな…こう、新鮮みが足りないような気がして」
彼女のその言葉に『じゃあ、海鮮料理でも…』と思ったけど、絶対それはここでは間違っていると思って口には出さなかった。

「もちろんデートしてて楽しいよ。楽しいんだけど…」
彼女がそう言ったところでその話題は何となく終わって、ほんの少しだけ気まずさが残ったデートもお開きになった。

-なんかごめんね、最後に変なこと言っちゃって-
デートが終わって別れた後、彼女からメッセージが届いた。
-気にしないで大丈夫だよ。じゃあおやすみ-
僕はそう返しながら、彼女が言ったことを振り返ってみた。

何となく理由は解っていた。
自分自身が単調だから、面白みがないのだ。
毎日の生活が単調で同じことの繰り返しだから、そうなってしまうのも無理がない話だった。
変化を強く望まないあまり、自分自身で殻に閉じこもってしまったようになったのかもしれない。
だから彼女にあんな言葉を出させてしまったのだろう。
今更だけど、その辺は反省しないといけなかった。

かと言っていきなり生活を大きくを変えるのも難しいから、取り敢えず小さなところから変えてみようと思って、毎朝乗るバス停の二つ先、会社の最寄駅から一駅分先まで歩いてみることにした。

すると思いのほか新しい景色の中に、気に留まるものが見えてきた。
せっかくなので、彼女にも教えてあげることにした。
-途中の公園の桜の木が満開で、花見にちょうど良さそうだ-
-駅と駅の間に雰囲気の良いお店を見つけた-
などなど。

彼女の方も送られたメッセージをきちんと読んでくれて、ちゃんと返事を返してくれた。
それは義理で返してくるようなものではなく、本当に楽しんでくれているようだった。
その証拠に、僕が送ったメッセージがきっかけに次のデートコースが決まって、本当に楽しんでくれた。

彼女が楽しんでくれたのは何よりだった。
そして僕自身がこうして「小さな殻」を破ることで、思った以上に良い結果になったのが何より嬉しかった。

だから今度は、もう少し大きな殻を破るようにしてみよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...