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婚約破棄された二刀流令嬢・1
しおりを挟む「ヴァレンティーナ! お前なんか、婚約破棄だ! この下品な剣術女め!」
屋敷でのパーティー真っ只中。
ヴァレンティーナと呼ばれた黒髪の令嬢が、主催である白豚のような伯爵息子に婚約破棄を言い渡された。
当然にパーティー会場は、驚きの声で溢れかえる。
彼等の周りに円を描くように人が集まった。
しかし円の中にいるのは、婚約者同士の二人ではなく三人だ。
白豚伯爵息子の横には、一人の娘。
二人は手を取り合っていた。
金髪の巻き毛が愛らしく、淡いピンク色のドレスが可憐さを引き立てる。
何故か、彼女はハンカチを口元にシクシクと泣いている。
「ヴァレンティーナ様が睨んできますわ……怖いですわ」
「わかったか!? ヴァレンティーナ!!」
対して、婚約破棄された令嬢ヴァレンティーナは黒髪を一本にまとめ、灰色の装飾もない足元まで隠れる細身のロングドレス。
薄化粧だが、睫毛の濃い瞳は冬の氷のような蒼色で唇は紅色。
整った顔は、まるで神が創った彫刻のように美しい。
長身のヴァレンティーナは顔色も変えずに、ひとつ溜息をつく。
「婚約は家同士での決め事……。このようなパーティーで宣言するものではありませんよ」
当然の言葉なのだが、金髪巻き毛の娘は更に泣き出す。
「こ、怖いですわ……! こんなにも恐ろしい殺意を向けられて……私、気を失ってしまいそうです!」
「だ、だからだ! お前のような人殺しと話し合いなどしたら、僕達は斬り殺されてしまうだろ!」
その言葉でパーティー会場は、更にざわつく。
「私が人殺しというのは、どういう意味合いでしょうか?」
「お、お前みたいな女なのに、アホほど強い、剣なんか振るう二刀流令嬢なんか! こ、怖いんだよ! 馬鹿め! ががが、我流のダサい二刀流なんか、流行らないんだよ! どどど、どうせ何人も殺してんだろ!? 人殺し!」
後半は証拠もない意味不明な、ただの罵倒だ。
ヴァレンティーナは呆れて、また溜息をつく。
『あれが二刀流令嬢か』
『先ほど挨拶はしたが、さすがの気迫だった』
『確かに何人か斬り殺していそうな凄みだ』
『悪役令嬢というやつか』
ザワザワと場は収まらない。
パーティーは台無しだ。
バカな白豚伯爵息子の配下達は、このとんでもない事態に涙目になっている。
彼の父親はこの場にいないが、いたら卒倒しているだろう。
「どうか……どうか……私達の愛を引き裂かないでくださいませ……ううう。あぁ怖い! 怖いですわ!」
金髪娘は、女の世界では泥棒猫だと評判の男爵令嬢だ。
多分、少し色目を使ったら白豚息子がなびいてきたので、手に入れる事にしたのだろう。
「だ、大丈夫だよん! 此処のみんなが証人になってくれるさ! 僕達の愛を引き裂く二刀流令嬢とは婚約破棄し、僕達は愛を貫く!! さぁ、婚約破棄しろ! 僕は僕より背の高い女なんか嫌だね!」
周囲の人間も、このバカ息子の寸劇に面白がって拍手をしだす。
退屈な貴族どもの暇つぶしには、もってこいのショーだ。
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