男装の二刀流令嬢・ヴァレンティーナ!~婚約破棄されても明日を強く生き!そして愛を知る~

兎森りんこ

文字の大きさ
1 / 36

婚約破棄された二刀流令嬢・1

しおりを挟む

「ヴァレンティーナ! お前なんか、婚約破棄だ! この下品な剣術女め!」

 屋敷でのパーティー真っ只中。
 ヴァレンティーナと呼ばれた黒髪の令嬢が、主催である白豚のような伯爵息子に婚約破棄を言い渡された。
 当然にパーティー会場は、驚きの声で溢れかえる。
 彼等の周りに円を描くように人が集まった。
 
 しかし円の中にいるのは、婚約者同士の二人ではなく三人だ。

 白豚伯爵息子の横には、一人の娘。
 二人は手を取り合っていた。

 金髪の巻き毛が愛らしく、淡いピンク色のドレスが可憐さを引き立てる。
 何故か、彼女はハンカチを口元にシクシクと泣いている。

「ヴァレンティーナ様が睨んできますわ……怖いですわ」

「わかったか!? ヴァレンティーナ!!」

 対して、婚約破棄された令嬢ヴァレンティーナは黒髪を一本にまとめ、灰色の装飾もない足元まで隠れる細身のロングドレス。
 薄化粧だが、睫毛の濃い瞳は冬の氷のような蒼色で唇は紅色。
 整った顔は、まるで神が創った彫刻のように美しい。
 
 長身のヴァレンティーナは顔色も変えずに、ひとつ溜息をつく。

「婚約は家同士での決め事……。このようなパーティーで宣言するものではありませんよ」

 当然の言葉なのだが、金髪巻き毛の娘は更に泣き出す。

「こ、怖いですわ……! こんなにも恐ろしい殺意を向けられて……私、気を失ってしまいそうです!」

「だ、だからだ! お前のような人殺しと話し合いなどしたら、僕達は斬り殺されてしまうだろ!」

 その言葉でパーティー会場は、更にざわつく。

「私が人殺しというのは、どういう意味合いでしょうか?」

「お、お前みたいな女なのに、アホほど強い、剣なんか振るう二刀流令嬢なんか! こ、怖いんだよ! 馬鹿め! ががが、我流のダサい二刀流なんか、流行らないんだよ! どどど、どうせ何人も殺してんだろ!? 人殺し!」

 後半は証拠もない意味不明な、ただの罵倒だ。
 ヴァレンティーナは呆れて、また溜息をつく。
 
『あれが二刀流令嬢か』
『先ほど挨拶はしたが、さすがの気迫だった』
『確かに何人か斬り殺していそうな凄みだ』
『悪役令嬢というやつか』

 ザワザワと場は収まらない。
 パーティーは台無しだ。
 バカな白豚伯爵息子の配下達は、このとんでもない事態に涙目になっている。
 彼の父親はこの場にいないが、いたら卒倒しているだろう。

「どうか……どうか……私達の愛を引き裂かないでくださいませ……ううう。あぁ怖い! 怖いですわ!」

 金髪娘は、女の世界では泥棒猫だと評判の男爵令嬢だ。
 多分、少し色目を使ったら白豚息子がなびいてきたので、手に入れる事にしたのだろう。

「だ、大丈夫だよん! 此処のみんなが証人になってくれるさ! 僕達の愛を引き裂く二刀流令嬢とは婚約破棄し、僕達は愛を貫く!! さぁ、婚約破棄しろ! 僕は僕より背の高い女なんか嫌だね!」

 周囲の人間も、このバカ息子の寸劇に面白がって拍手をしだす。
 退屈な貴族どもの暇つぶしには、もってこいのショーだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

処理中です...