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二刀流令嬢・ラファエルと朝稽古する・2
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そこから少し雨に打たれ、離れの道場に二人で行った。
基本的には、外で修行をするものだが雨でも風でも修行がしたい! という変わり者は道場を作る。
「こんな道場を作るのは、数代前の剣狂いしかいないって……はは。曾祖父の時にさ、剣狂いの時代だって言われただろ」
「あぁ! 私の曾祖母も……」
曾祖母マルテーナが二刀流剣術を編み出した頃だ。
しかしラファエルに、マルテーナの話はしないほうがいいだろうとヴァレンティーナは思い直す。
自分の正体がバレてしまう。
「ヴァレン?」
「いや、平和が一番なのはわかっているが、剣技全盛期というのは少し羨ましいよな。剣豪達と剣を交え、自分の高みを追いかけ……剣に生きる」
「あぁ! わかるよ」
「わかってくれるか、ラファエル」
男同士で貴族という身分もなければ、こんなにも気持ちが通じあえるのか……とヴァレンティーナはまた感動してしまう。
いや、それはラファエルが相手だからだろうか。
「俺も今、道場をして生徒も増えて剣では生きていることになるのかもしれないが……本当は、もっともっと強いやつと戦ってみたい」
わかる、わかると思う。
そして、この目の前の剣士が強い事を……お互いに理解している!
「ラファエル、身体を温めたら手合わせをしよう」
「いいのか?」
「当然だ。見た目はお前の方が腕っぷしはいい。だが、遠慮などするなよ」
「へへっ言うじゃないか」
ヴァレンティーナも日々、鍛えてはいるが女の筋肉には限界がある。
逆にラファエルは肌寒いのにシャツを袖までまくり、がっしりとした筋肉質なのがわかる。
これは……マルテーナ剣術をどこまで封印できるかな? とヴァレンティーナは思った。
屋敷から少し歩いた庭の先に道場はあった。
ラファエルが鍵を開けて、中に入る。
「おお……素晴らしいな」
「だろ? これまでの稽古の気迫が伝わってきて、気持ちが凛とする」
古いが大切に使われた道場は、ヴァレンティーナの家にあった道場とよく似ており懐かしさで涙が滲み出そうになる。
そして準備運動と道場内を軽く走った。
ガウンはもう脱いでいるが、ゆったりとしたシャツとジレは女性的な身体の膨らみを隠してくれる。
ラファエルは自分を男と接しているし、わかりはしないだろうとヴァレンティーナは思う。
自分の女性としての魅力があまりに欠落しているのだな……とも思った。
そして手合わせ。
もちろんヴァレンティーナは一般的な一本の剣での剣術も相当だ。
二刀流は正式な試合では認められない事も多い。
二人の白熱した木刀での手合わせは、あっという間に長い時間が過ぎた。
床に寝そべる二人。
「はぁ……はぁっ……流石だなヴァレン」
「はぁ……はぁ……そちらこそ、流石だ。ラファエル先生」
構え向かい合った時から、わかっていた。
いや、剣士の直感がこの男はできるとわかっていた。
もちろん木刀とはいえ、当たれば大怪我をする。
荒唐無稽に突っ込んで剣を振るのではなく、剣技の流儀を極めた者だけがわかる動きがあるのだ。
相手の強さを知りながら、この太刀筋は通用するのか!? という期待で剣を振るう。
ラファエルはその期待を裏切る事はなかった。
一振りするごとに興奮し、更に追撃への返しで興奮する。
「いや~すごかったな。全く余裕がなかった」
「何を言うラファエル、ところどころで笑っていただろう!」
「それは圧倒されて……なんか嬉しくてさ。君も笑っていたぞ、ヴァレン」
「ふふ……私もだ。嬉しくて、楽しくて」
「あははは! 俺達は最高の剣術バカだという事がわかったな!」
ラファエルが笑って、ヴァレンティーナも笑った。
基本的には、外で修行をするものだが雨でも風でも修行がしたい! という変わり者は道場を作る。
「こんな道場を作るのは、数代前の剣狂いしかいないって……はは。曾祖父の時にさ、剣狂いの時代だって言われただろ」
「あぁ! 私の曾祖母も……」
曾祖母マルテーナが二刀流剣術を編み出した頃だ。
しかしラファエルに、マルテーナの話はしないほうがいいだろうとヴァレンティーナは思い直す。
自分の正体がバレてしまう。
「ヴァレン?」
「いや、平和が一番なのはわかっているが、剣技全盛期というのは少し羨ましいよな。剣豪達と剣を交え、自分の高みを追いかけ……剣に生きる」
「あぁ! わかるよ」
「わかってくれるか、ラファエル」
男同士で貴族という身分もなければ、こんなにも気持ちが通じあえるのか……とヴァレンティーナはまた感動してしまう。
いや、それはラファエルが相手だからだろうか。
「俺も今、道場をして生徒も増えて剣では生きていることになるのかもしれないが……本当は、もっともっと強いやつと戦ってみたい」
わかる、わかると思う。
そして、この目の前の剣士が強い事を……お互いに理解している!
「ラファエル、身体を温めたら手合わせをしよう」
「いいのか?」
「当然だ。見た目はお前の方が腕っぷしはいい。だが、遠慮などするなよ」
「へへっ言うじゃないか」
ヴァレンティーナも日々、鍛えてはいるが女の筋肉には限界がある。
逆にラファエルは肌寒いのにシャツを袖までまくり、がっしりとした筋肉質なのがわかる。
これは……マルテーナ剣術をどこまで封印できるかな? とヴァレンティーナは思った。
屋敷から少し歩いた庭の先に道場はあった。
ラファエルが鍵を開けて、中に入る。
「おお……素晴らしいな」
「だろ? これまでの稽古の気迫が伝わってきて、気持ちが凛とする」
古いが大切に使われた道場は、ヴァレンティーナの家にあった道場とよく似ており懐かしさで涙が滲み出そうになる。
そして準備運動と道場内を軽く走った。
ガウンはもう脱いでいるが、ゆったりとしたシャツとジレは女性的な身体の膨らみを隠してくれる。
ラファエルは自分を男と接しているし、わかりはしないだろうとヴァレンティーナは思う。
自分の女性としての魅力があまりに欠落しているのだな……とも思った。
そして手合わせ。
もちろんヴァレンティーナは一般的な一本の剣での剣術も相当だ。
二刀流は正式な試合では認められない事も多い。
二人の白熱した木刀での手合わせは、あっという間に長い時間が過ぎた。
床に寝そべる二人。
「はぁ……はぁっ……流石だなヴァレン」
「はぁ……はぁ……そちらこそ、流石だ。ラファエル先生」
構え向かい合った時から、わかっていた。
いや、剣士の直感がこの男はできるとわかっていた。
もちろん木刀とはいえ、当たれば大怪我をする。
荒唐無稽に突っ込んで剣を振るのではなく、剣技の流儀を極めた者だけがわかる動きがあるのだ。
相手の強さを知りながら、この太刀筋は通用するのか!? という期待で剣を振るう。
ラファエルはその期待を裏切る事はなかった。
一振りするごとに興奮し、更に追撃への返しで興奮する。
「いや~すごかったな。全く余裕がなかった」
「何を言うラファエル、ところどころで笑っていただろう!」
「それは圧倒されて……なんか嬉しくてさ。君も笑っていたぞ、ヴァレン」
「ふふ……私もだ。嬉しくて、楽しくて」
「あははは! 俺達は最高の剣術バカだという事がわかったな!」
ラファエルが笑って、ヴァレンティーナも笑った。
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