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気付く恋・3
しおりを挟む作り笑顔を見破られた……?
どうして、この男は……こんなにも自分を理解できる?
「悪い、疲れているのかな? と思って……まぁ、今日はもう少し飲もうぜ! おーい! あの特別な酒を開けるぞー! お前らも来い!」
ワイワイとまた盛り上がる。
ラファエルも今日は沢山飲んで、ルークが歌って、アリスとローズはまるで双子のようにハモって歌い始めた。
とても綺麗なソプラノで、バースデーソングを歌う。
それにラファエルがギターを持ってきて演奏を始めた。
ルークや子供達が踊る。
メイド達が、ローズを褒めて、ラファエルがこんなに楽しく酔っているのも久々だと話す。
素晴らしい誕生日会だと、ヴァレンティーナも思う。
「ヴァレンも歌ってくれよ~」
「だ、だから、私は無理だ」
ヴァレンティーナも、輪の中心にいる。
誰も彼女を、無視したりしていない。
だけど、ラファエルがアリスと笑うたびに何故か心が苦しくなる。
まるで一人ぼっちになったような、気持ちになってしまう。
「ヴァレン、明日も朝稽古しような! 昼間は俺は書類仕事があるんだが……剣の稽古が、夕方は子供と御婦人。夜は村の若者への指導があるから是非一緒に来てほしい」
「子供や御婦人にも……」
「あぁ。そういう人達にも護身用に習ってほしい。体術も教えてるんだ」
「それは……とても素晴らしいことだな!」
マルテーナ剣術も元は、力の弱い女子供のために曾祖母のマルテーナが考え出したものだ。
曾祖母の時代には、流行り病と雨続きの飢饉で男も非力になりがちだった。
それを二本のレイピアと短剣という、剣の中では軽めの武器を使い相手の武器を手元から離して戦力を失わせる――というのが基本だ。
しかし時代は流れ、食も満足にとれるようになった。
やはり男の強い筋肉と、太い腕、大きな剣が強いと持て囃される時代になって、マルテーナ剣術は鼻で笑われるようになった。
それでも父が、マルテーナ剣術を極めていれば、もっともっと世に知れ渡る剣術になっていただろう。
いや、自分がもっと抵抗して道場を守り、戦っていれば……?
「……君はとても立派だ」
ラファエル……剣も村も守り続けている男。
だけど、自分は……マルテーナ剣術を結局守りきれていない。
結局、なにもかも中途半端だったのかもしれない。
「ありがとう、ヴァレン。君に認められて嬉しいよ」
彼がこの村でしている全ての行動は、自分と村の人のため。
素晴らしい行いだ。
それに比べて……と思ってしまう。
「あのさ、これは道場の鍵だ。ヴァレンに預けておくよ」
「えっ……なぜだ」
「明日の稽古は早いだろうし……なんていうか」
ラファエルは、照れたように頬をかく。
「わかった。開けておけと言うんだな? 寝坊しそうだから」
「あはは、まぁそうでもいいか。……君にしか頼めない」
「……わかった」
彼はネックレスのように首にかけていた鍵を、ヴァレンティーナに渡す。
「首にかけておくと便利だぞ」
「ふふ、わかったよ」
言われて首にかける。
金属の鍵は、ラファエルのぬくもりが移ってる。
「じゃあ少し疲れたので、もう休むよ」
「あぁ。部屋まで送ろうか?」
「主役が抜けてはいけないよ。大丈夫だ」
まだ場は盛り上がっている。
聞けばラファエルの誕生日パーティーは、この屋敷の者達が一番楽しみにしている行事らしい。
「はぁーい! ヴァレン様、私も一緒に行きます~! アリスは今日はローズ様のお部屋にお泊りしますから、ヴァレン様と行ってお泊りセットを持ってきまーす」
そう言って、アリスはヴァレンティーナに腕組みをする。
「アリス、飲み過ぎたかい?」
「はい! とっても楽しくって~」
大きなお屋敷を二人で歩く。
アリスは、ヴァレンティーナに腕を絡ませると甘えたように体重をもたれてくる。
甘えた仕草を、自然にできる可愛さ。
可愛い妹。
血の繋がりが何もなくても、可愛い妹。
誰よりも幸せになってほしい――妹、アリス。
部屋に戻ると、ヴァレンティーナの寝支度を手伝おうとするアリスに優しく言う。
「私は大丈夫だから、早くローズ様のところへお戻り」
「えぇ~……はいぃ……。あの、もうラファエル様はヴァレンティーナ様に、お伝えしたんですよねぇ?」
「え?」
上目遣いで、恥じらうような顔のアリス。
それを見て、ヴァレンティーナは止まってしまう。
「えっ……まだなんですか?」
「あ……あぁ。なんの事だろうか?」
「そ、それはぁ私からは言えませんよぉ! じゃあでも、うん! 私はローズ様のところへ戻ります!! おやすみなさいませーーー!!」
「部屋まで送ろうか?」
「いえ! まずは皆様のところへ戻ります! 大丈夫~~ですよ~~」
「わかった……ラファエルによろしく」
「はい! それはもう。よろしくしなきゃ……ぶつぶつ」
アリスを見送って、ヴァレンティーナは客室のベッドに寝転がる。
ラファエルとアリスは、知らぬ間に将来の約束を……? まさか婚約をした?
……それを自分に、まだ言えないでいる?
雨がまた降ってきた。
柔らかなベッドで、酒の入った少し重い身体。
ラファエル……ラファエル……。
まだ1日……24時間しか経っていない。
出逢ってまだ1日の男……。
「私は何を……バカな事を……考えているんだろう」
ラファエルの顔が頭から離れない。
たった1日なのに、彼は色んな表情を見せて、自分の心に入ってくる。
首にかけた鍵をつい握りしめて、胸が苦しくなる。
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