男装の二刀流令嬢・ヴァレンティーナ!~婚約破棄されても明日を強く生き!そして愛を知る~

兎森りんこ

文字の大きさ
32 / 36

伝えられる想い・1

しおりを挟む
「やめろぉ!! 触るな!! ……いやだっ!!」

「ヴァレンーーーーーーーーーーーーー!!」
 
 まるで輝く光のような大声。
 ヴァレンティーナに跨っていた男が、ふっ飛ばされた。
 どこからか、大きな木の枝が投げつけられたのだ。

「やばい! ラファエルだ!!」

 ギョッとした男達の声。

「……ラ……ラファエル……」 
 
「ヴァレン!! お前ら……絶対に許さんぞ」

 男達に土の上に転がされたヴァレンティーナを見て、ラファエルは静かに呟く。
 怒りに震えたその声には、殺意が滲み出て紅いオーラのように夜の空気を揺らす。
 
 男達はそのラファエルの怒気だけで、後ろに一歩下がった。

「ち、近寄ったら……こいつがどうなるか……」

 男の一人が、ナイフを取り出した。
 倒れたヴァレンティーナの首元に当てようと動いたのだが……。

 男が吹っ飛んだ。
 
 先程のヴァレンティーナよりも更に速く、ラファエルが右手の剣で殴打したのだ。
 峰打ちだが、肩の骨が砕けているかもしれない。

 そして鎖で拘束されたヴァレンティーナを、左手で抱き上げ立ち上がらせた。

「ラ、ラファエル……」

 黒い雲が流れ、満月の光が二人を照らす。
 ヴァレンティーナの口元に、殴られた時の血が滲んでいた。

「もう大丈夫だ。少し待っていてくれ」

 抱き寄せた耳元で、ラファエルが囁く。

 数人残った男達は、人質も即奪われ困惑しているがラファエルの殺意は止まらない。

「お前ら……俺の大切な人に、こんな手出しをしやがって……許さん!」

 ラファエルがもう一刀の剣を抜いた。
 右手、そして左手にも剣――。

「……二刀流……!?」

 自分に巻かれた鎖をどうにか解きながら、ラファエルの構えを見て驚く。
 逃げようとした男、道場に火を点けようとした男。剣で襲いかかる男。
 全てを一瞬で叩きのめす。

「強い……」

 これが封印されたラウドュース剣術……!!
 圧倒的な強さだった。
 ヴァレンティーナと同じ、剣に捧げた人生が見てわかる強さだった。

 両刃の大剣での二刀流剣術を見るのは、ヴァレンティーナにとって初めて……いや……何か胸の奥で疼く。

「ラファエル……ラファエル」

「ヴァレン……!!」

 ふらりとよろけたヴァレンティーナを、ラファエルはすぐに二つの剣を収め抱きとめた。
 鎖が絡みついたせいで、シャツのボタンが飛んでしまっている。
 胸元の膨らみの間に揺れた道場の鍵が無事だったので、ヴァレンティーナは安堵した。
 
 ラファエルは自分のジャケットをヴァレンティーナにかけると、ヴァレンティーナを抱き締める。
 突然の抱擁。

「あぁヴァレン……!」
 
「えっ……あ、あの……ラ、ラファエル……」

「来るのが遅くなってすまない。こんな怪我をさせて……ごめん」

「あ、あの……いや……ラファエルのせいではないし……こ、こんなもの、か、かすりきずだ……」

 彼の逞しい胸に、抱かれている。
 信じられない。
 こんな時に不謹慎だと思いながら、心臓の鼓動が高鳴る。
 そういえば、先程のラファエルの言葉……。

「何を言う。女性の顔に……こいつら本当なら全員ぶっ殺したい」

 ラファエルはヴァレンが女だと、知っていた……? わかっていた……?

「そ、そんな……ラファエル……」

「愛しい人をこんな目に合わせた奴らだ……必ず裁きを与える……!」

「い、いと……えっ」

「でもまずは、ヴァレン……行こう」

「ひゃっ」

 ラファエルはヴァレンティーナのレイピアを拾ってから、軽々とヴァレンティーナを抱き上げた。

「あ、歩けるよ」

「俺が離したくないんだ」

 飛び跳ねた心臓が更に、飛び跳ねる甘い言葉。
 
「わ、わ、わ、私は重たいし」

「重たくないよ。女性一人運べる筋力くらい、あるから気にしないでほしい」

 やはり、『女性』は聞き間違いではなかった。
 女性として扱われている……とヴァレンティーナは驚く。

「お、女だと知っていたのか……わかっていたのか……?」

「えっ? ……最初はごめん、綺麗な男だと思った……って、俺は色々と誤解をしたって謝ったけど……わからなかった?」

 逆にラファエルも、驚いた顔をする。

「えっ……あ、あの誤解をしたって……私とアリスと恋人のことかと……」

 アリスとの恋人関係を聞かれて、女だと思っているとは思わなかった。
 
「あ……あぁ……そうか。それも聞いたな。すまない……俺は本当に何もかも下手くそだな。女同士でも恋人ってあるから」

「……えっ……?」

「うん。ローズが昔から女の子に恋をする子だったから、女性同士でも恋人同士でも有り得るのかと思ってさ……」

「ローズ様が」

「そう……だからヴァレンの恋人なのかって気になったんだ……だから聞いた」

「それは……つまり……ええっと……」

「つまり、ヴァレンに恋人がいるのか、フリーなのか気になって聞いたんだよ」

 ラファエルの真っ直ぐな言葉が、ヴァレンティーナの心をドキリとさせる。

「……女だと……わかってたんだな……」 

「うん。これだけ話をして姿を見ていればわかるよ。夜中の茶会からもしかして? と思ったんだ。山では男だとばっかり思ってて……失礼した。ごめん」

「いや……私が男の格好をして、そう装っていたのだから……でも、よくわかったな……と」

 なんだかお互いにドキドキしているのが、わかる会話。

「剣術と一緒に基本的な医療術も習ってたから、男女の骨格が違うのは知ってたし……剣さばきを見て確信した」

「そうか……」

 ほんの少しの時間なら誤魔化せると思ったが、剣士のラファエルを誤魔化し続けるなどできるはずもなかった。

「手加減したのか……?」

「まさか! 俺は剣士として精一杯戦ったさ」

「……よかった……」

「それは絶対だ。最高に強くて、最高に楽しかった。で見ているうちに、剣術もそうだけど頭も良くて話も楽しい……だから俺は君を魅力的な女性だと思って、見ていたよ」 

「なっ! そ、そんな! アリスはどうするんだ!!」

 ラファエルの言葉で顔が熱くなるが、妹分のアリスを思えば叫ばずにいられない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

処理中です...