転生先はパラレルワールドだった

こぶたファクトリー

文字の大きさ
6 / 71

5話 幹部会合

しおりを挟む
 窓一つない、窮屈な地下室が千年前から変わらぬ自分達の会合場所だった。
 テーブルの上にはゲート先の世界の地図…これまでに我が軍の尖兵が虫共に紛れ、血と引き換えに持ち帰った、貴重な敵国図があった。だが、その探索範囲は極めて狭小で、少し大きな村程度の範囲しか分からない。ゲートの先は小さな林野となり、その周囲を取り囲むように巨大な塔が立ち並んでいるという。…とすると城下か、城塞内か。

 敵の守りに関しては、思ったよりもよく粘る…というのが率直な感想だった。が、攻めに関してはまるで話にならない。この世界の人間軍はゲート内にある、自分達からしたらゴミ同然の物質をありがたそうに持って帰るだけで満足している。大量に湧くスプリットワームを抑え込むので手一杯というレベルだ。
 そして現時点では、贔屓目に採点してやったとしても、その守りすら及第点には遠く及ばない。
 あくまでこれは自論であり、他の連中が腹の内でどう思っているかは知らない。

「十分であろう。そろそろ本格的な制圧作戦を進言すべきだ」
 ヒューノが地図に目を落したまま口を開いた。薄明りの中で酷薄な口元が照らされている。
 就任以来、最大規模の主力軍を率い、これまでの全ての戦を指揮してきた猛将だ。 …少々好戦的すぎる嫌いはあるが、間違いなくこれまで我が軍の勝利に貢献してきた。
「急ぐ理由も無いと思うが」
 ヒューノの対席に座るゴルゲが応じた。自分達の中で最大の巨躯にして、この城を守る番人だった。番人ゆえ、攻めの戦の経験は皆無だ。そのゴルゲがこの城で指揮を取ったのは、三百年前の戦と、つい先日終えた戦だ。
 この城に攻めこむ愚か者共の殆どを自分達が屠ってしまうのだから、彼の経験が少ないのは致し方のない事だった。

 そして、つい先日終結した戦は、これまでのどの戦いよりも大きな意義をもっていた。

 その意味では彼の経験こそ浅いが、歴史的戦争の勝利に貢献した一人、という点では、その軍歴に輝かしい功績を深く刻み込んだと誰もが認める所だ。
「それもそうだ」
 自分も同意した。
 終戦から五日。我が軍の兵…魔物達は戦争で受けた傷を癒している最中だ。激しい戦いの末、我が軍も多くの優秀な将兵を失っていた。
「諸隊の充足率はどのくらいだろうか?我が隊は七割強だが」
「五割だな」ヒューノが短く言う。彼らは最前線で、初戦から終戦まで戦い抜いた。それを思えば少ない損害だと言える。
「八割だ」ゴルゲが続く。
 当然、この中で唯一、部下すら持たないカロンは黙したままだ。

「全軍が十全になるまで待つのか?」
 ヒューノが問う。確かに、それも間抜けな話だ。ゲートが繋がった以上、門の向こう側の敵も備えを進めている事だろう。むざむざ敵に時間を恵んでやる必要もない。
「全軍の平均が九割に達した所で進言、というのはどうか?」
 ゴルゲが提案する。自分の対席に座るカロンを見た。
「カロンよ、どう思う?」
 
 外套を被った虚ろな髑髏が顔を上げる。
「…それで良かろう」
 この世界での五千年にも渡る人類と魔物達の戦争の歴史は、勇者と人類の完全な抹殺という結末により、遂に魔物の勝利で締めくくられた。
 勿論、平坦な道では無かった。辛酸と屈辱の歴史そのものだ。 だが、決して復讐を忘れなかった。
 我らが魔王軍は五千年の間に、何度も滅亡の縁に追いやられた。 
 少なからぬ魔王がその時代の勇者に討ち取られ、その度に敗残の魔物達が生き残った世継ぎを守って逃げ延び、生き長らえてきた。
 当代様も、百年前に先代様を殺されている。

 魔界にとっての諸悪…勇者。
 生粋の魔族殺しの一族。他の人間共とは比較にもならない、恐るべき能力を天から与えられた…全ての魔物の天敵。

 唯一の救いは、人間と魔族の生まれながらの戦闘適正の違いだった。
 人間は多様な武器を扱い、武術に精通し、魔術も操り、確かに強い。だが子を産み、その子が一人前の戦士になるまで最低でも十余年は掛かる。 
 そして武器を作り、武芸や魔術、文化を学び、食い、眠り…老いる。子を作って次の種を残さねばならない。そして、生きている限りそれらを継続するため、我々魔族から見れば無駄にも見える…複雑な経済活動をしなければならない。

 だが魔物は、例外こそあれ、その限りではない。
 生まれながらにして強靭な身体という武器と防具を備え、魔術を操る種もある。生まれて半月も待たず、大半の魔物は戦闘単位として完成し、老いは人間に比べれば無いと言って良い。ヒューノの率いる魔獣達は魔王軍戦力の基幹を占め、その魔獣は力の蓄えとして人や下級モンスターを喰らうが、餓死することは無く、人間に比べればやはり効率は遥かに良い。他の魔物は殆どが食事を必要としない。複雑で無駄な経済活動も無用だ。
 文化と言えば無限ともいえる寿命を生きる魔王族が戯れに人間の生活を模しているだけで、自分達には無用なものだ。

 この弱点の違いがあったおかげで、滅亡を免れたのも事実だ。

 そして今回の戦で勝利し、勇者を始末できたのはカロンの功績だ。
 先代の死後、カロンは勇者を抹殺する事だけに全てを捧げてきた。
 魔王様以外にそんな事が出来る訳がない、不可能だと決めつけていた。誰もが。
 しかしカロンは勇者の弱点を徹底的に探り出した。 勇者のスキルを逆手にとったスキルを得意の呪術を用いて生み出し、魔物やモンスターを素材としてそれを組み込んだ勇者殺しの兵を次々と試作した。

 そしてわずか百年の時を経て、遂に勇者の末裔を殺した。それにより全軍を沸き立たせ…逆に人間軍を絶望に陥らせ…勇者諸共この世界から人類を根絶やしにしたのだ。
 勇者はもう二度と現れない。
 カロンが魔界の英雄として歴史に名を刻んだのは、誰もが認める所だ。

 …しかし、五日前…終戦と同時に小さな懸念が生まれた。
 ゲートの出現。尖兵からの報告によれば、その先の世界にはまた人類がいた。戦闘能力はこの世界に居た人間達と同程度のものだが、勇者のような危険因子が存在する可能性も否定できない。どちらにせよ、世界が繋がった以上、人類は根絶やしにしなければならない。
 ゲート攻略の方針も一致した。椅子から腰を上げ、地下室を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...