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55話 暗黒地底
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島の港に補給艦を横付けするが、埠頭にある管理小屋から人が出て来る気配は無かった。
タラップを下ろし、同乗していた海兵も含め総勢56名が埠頭に降り立った。
「…連絡船も、非常用の中型高速船も全く動いていないな」
港湾を調べていた海兵が呟いた。
「この先の作業員居住区を抜けた先が坑道入り口で、シャフトになっています」
選抜された海兵二個小隊によって案内され、大淵達はその後に続いた。
港エリアを抜けると鬱蒼としたジャングルになっており、蚊の羽音が鬱陶しい。…当然、リスクは避けたいので大淵は収納から虫除けを数本取り出し、全員に回した。…誤って吸い込んだ海兵が噎せている。
…作業員宿舎も静まり返っていた。いかにも南国のバンガローらしく木造の高床家屋が数十と建ち並んでいるが、人の気配はない。
「救助隊だ!誰かおらんか!?」
…返事を返す者は居ない。
「…林からティラノサウルスとかゾンビとか出てきそうでゾッとしねーな…」
「うーむ、往年のパニック映画やホラーゲームの、お決まりの序盤だもんな」
大淵も腕組みしたまま頷いた。
「アリッサ、アレ好きデス!小さな町の住人が次々未知の寄生虫に寄生サレテ町全体が乗っ取られていくの!」
「知ってるぜ。それまた古いな」
黒島が応じた。
大淵は海兵に家屋の捜索を任せつつ、一際大き目の倉庫か、石造りの建物を覗いた。
食堂だった。厨房内には作りかけの鍋料理がそのまま放置され、得体のしれない虫が匂いに釣られて集まっていた。数十人分のテーブルと椅子は荒らされた様子もなく、今にも腹を空かせた作業員が戻って来そうだった。
「居住エリアには誰も居ません!」
「食堂もだ」
「隣接する酒場も…荒らされた様子はありませんが…」
「都市伝説で、料理をそのまま残して人だけ消えた町とかは往々にして見るが…」
…道中で海洋モンスターがあれだけ襲って来たのは何故だ?
…仮にこの奇妙な事件と関係があるとして、なぜあのタイミングで襲って来た?…完全に島に引き込んでから、もしくは島から出ようという時に襲うのではダメだったのか?それともこの後も襲って来るのか?
「仕方ない。エレベーターシャフトで坑道を捜索しよう。…この島に他に人が行くような場所は無い」
海兵小隊が先行し、もう一つの海兵小隊、部隊長と共に大淵達が後に続いた。
「ところで、ここでは主に何を採掘していたんですか?」
「はっ、魔法石の他に金銀、そしてミスリル原石を採掘しておりました。」
「ミスリル…」
大淵は自分の刀剣に使用されている金属を思い出した。
「現時点で、人類が加工できる金属の中で最も硬度の高い金属です。合金化する事で様々な特性を持たせることができますが、極めて希少な上、精製すると原石より遥かに少なくなってしまいます。その為、剣一本作るだけでも数年はかかると言われて居りますが、直近では現陛下の剣が最後に作られた一振りとなります」
お前は観光ガイドか、と言いたくなる程、部隊長は淀みなく説明してくれた。
…とすると自分の剣を鍛えるのに、ヴェルンは一体どれだけのミスリルを消費してくれたのだろうか。
「ん?待てよ、リノーシュ王は高位弓士でしょう。剣を作っても…」
「えぇ、普通の剣なら儀礼以外の価値はありません。…しかし、ミスリルで作られた剣は別です。たとえスキル恩恵を受けられなくとも、扱えさえすればその武器自体の攻撃力がそのまま加算されます。…例えば銃士が扱っても、ミスリルソードが通用する相手であれば倒す事も可能です」
「そ、そうだったのか…じゃあこのツヴァイハンダ―や騎兵刀も…」
「…ですが、貴殿のツヴァイハンダーは恐らく、他人ではまともに扱えないでしょう。きっと、見た目通りに恐ろしく重くなる筈です。…従者のように従うそれは…所有者であるあなたにリンクしているようですから。そんな武具はこの大陸で見たことがありません」
エレベーターが最下層に到着し、扉が開いた。最下層には誰も居なかった。
「…ランター隊はどこに行ったんだ?」
部隊長が困惑しながら周囲を見回した。
「先に捜索活動を始めたのでしょう。ここに五人残します。我々は北側の坑道を調べてきます」
「うむ、任せたぞ」
「…空気の心配は?」
「各所に風の魔法石を壁に埋め込んであります。誰かしらが触れば新鮮な空気が循環されます」
ちょうど、エレベーター横にも設置されていた。それを小隊長が押して見せると、風が坑道内に流れて行った。
「俺達もこの辺を調べてみるか。…思ってたより遥かにデカい坑道だ」
大型トレーラー三台が余裕を持って並べる広いトンネル…ちょうどそんなサイズだった。
「…取り合えず落盤の心配はない」
壁の地質を検めていた尾倉が呟いた。
「…ただし、構造的に海底下を通っている。…竜騎兵と大淵は火力の調整に気を付けた方がいい」
「あっ、俺、やりすぎちゃいました?…ってのはナシで頼むぜ、大淵」
「…わかった。いつものメンバーで行くぞ。こっちは火力が高い。いざという時は戦闘より退避を優先するため、人数を絞って行く。浮田、射方は黒島チームへ」
黒島チームは南側坑道へ向かった。
マオ、香山、斎城、アリッサを連れ、西側坑道へ。百メートルも歩いた所に、明かりの灯った部屋が見えた。壁の中に空間を掘り、そこに扉を設置するという構造だ。
「お、ビンゴじゃないか?」
「んー、そうデスね…血の匂いがシマス」
「…何だって?…俺が先行する」
大淵は空間からポピュラーな短機関銃を取り出し、初弾を装填した。威力は最弱クラスだ。これならやりすぎちゃった、は無いだろう。
「…気をつけてね」
ドアノブに手を掛け、蠟燭の火が揺れる部屋の中に突入した。
…部屋の壁際には所狭しとベッドが置かれ、その上で人間が横たわっていた。部屋の中心には手術台らしきベッドが置かれ、一応清潔なシーツに交換されていたが、床には血の跡が残っていた。…その傍らで、テーブル上のトレーに外科手術器具を並べている男が居た。
男は大淵を見てフリーズし、やがて手を上げて後退ったので、銃口を下ろした。
「安心してくれ、救助隊だ。…一体何が起きた?」
「見たことも無い化物が島に現れて…皆を…」
見ると作業員の男達は体のどこかしらを怪我して昏睡していた。…誰一人目覚める者は居ない。
「私はここで、掘削中に起きた事故の為に備えていた当番の医者だが…こんな事は初めてだ。地上から逃げてきた皆は怪我をしていた。…やがて皆、毒か何かのせいで意識を失って…」
「大輔君、私、この人たちを見ておきますね。ここは先生と私に任せて下さい」
「助かるよ。 何かあったら無線で連絡してくれ」
香山に患者たちを任せ、大淵は通信機を使った。
「西側坑道の医務室で生存者を発見した。医師と、三十人の作業員たちだ。そっちは?」
『…まだ誰も見ていないな。あと二十人はこのどこかにいるはずなんだが…まさか地上で…いや、生存者からの情報は?』
…地上でそのモンスターに捕食されていれば、人数が合わない辻褄も合う。黒島が言いかけたのはそういう事だろう。
「地上でモンスターに襲われたらしい。…怪我をしながら逃げ込んで来たが、毒のせいか誰一人目覚めない、と」
『…やべーな。どんなモンスターか知らんが、俺達も下手に攻撃を受けないようにしないとな』
「ああ。気を付けてな」
「…」
「どうした、マオ?暗すぎて怖いか?」
自分の背に負ぶさるマオに呼び掛けた。
「む?…いや、あの者、随分と透明な無心だったのでな。まるで生粋の聖職者のような…」
「そりゃ、医者ならそれくらい高邁な精神の人だって居るだろ」
「ふむ…」
マオは要領を得ない様子で唸っていた。
それらから更に坑道を進むうち、壁に鉱物が見えてきた。
「魔法石だな」
「うん、原石だね。星村さんが居れば大喜びだけど。これを、ここから外に運び出すんだね」
「…ア」
アリッサが声を上げた。
「どうした、アリッサ?」
「私も何か気になると思って、考えてマシタ。…あのドクター、ナンデ「見たことも無い化物が島に現れて」なんて知ってるんデショウ?…ずっとここに居たから難を逃れたんデスよね?」
「…避難してきた人から詳細を聞いたとか」
「その割には自分で見た口振りデシタよ?」
「しかしマオ、彼は嘘を吐いていたんじゃないんだろう?」
「うむ…嘘はついていないようだった。だが、何か…」
「…例えば、操られて言わされている事だったら、例えその内容が嘘でも、あのドクターが嘘を吐いている事にはならない…トカ。トンチみたいデスけど」
「…だとしたら何の為に…」
「…ダメですね、ドクター。ヒールを試しているんですが、この人も起きる気配がありません。モンスターの特徴とか、攻撃された時の様子とか誰かから聞いてませんか?」
香山は部屋の隅で眠る患者に向かっていた。ヒールを諦め、念の為に感染予防のゴム手袋をはめ、ウェストポーチから医療キットを取り、その中から聴診器を取り出して患者の胸に当てた。
(ん……心拍・脈拍は異常なしか…)
聴診器を仕舞い、振り返ると、部屋中の患者が佇んでいた。
「え…?」
今もまた、一人がベッドからむくりと起き上がり、こちらを見ている。
自分の診ていた患者も置きあがり、生気の無い虚ろな目で香山を見ている。
…薙刀は出入口に立てかけてあった。
無線機から黒島の声が聞こえてきた。
『作業員らしき20人を発見した。今から保護…おい、何をしてやがる!?』
無線機の向こうからけたたましい物音が聞こえてきた。
「…黒島…? オイ、何があった!?」
『分からん!急に襲い掛かって来やがった!す、すごい怪力だぞ!? 筋力アシストを使って振り払え!お、おい、海兵さん、手を貸してくれ!…お、お前らもかよッ!? 尾倉、藤崎、食い止めろ! 構わん浮田、銃床で叩きのめ…』
…無線が切れた。
「な、何なんだ…一体…」
またも無線が鳴った。
『や、やめ…大輔くん!助け……』 ただならぬ物音と共に通信が途絶えた。
「桜?…桜!」
「戻るぞ!」
舌打ちし、駆け戻った。
…畜生!何故こんな訳の分からない状況で桜一人を残してきた!?
自分の間抜けさに殺意さえ湧く。
医務室のドアに駆け寄り、勢いそのままに蹴り破った。
例の医師が一人、何食わぬ顔でテーブル脇の外科器具を丁寧に拭ってはトレーの上に一つ一つ並べている。
…室内には桜の持ち物が散らばっていた。…薙刀は出入口の床に虚しく転がっている。
…桜はいなかった。
タラップを下ろし、同乗していた海兵も含め総勢56名が埠頭に降り立った。
「…連絡船も、非常用の中型高速船も全く動いていないな」
港湾を調べていた海兵が呟いた。
「この先の作業員居住区を抜けた先が坑道入り口で、シャフトになっています」
選抜された海兵二個小隊によって案内され、大淵達はその後に続いた。
港エリアを抜けると鬱蒼としたジャングルになっており、蚊の羽音が鬱陶しい。…当然、リスクは避けたいので大淵は収納から虫除けを数本取り出し、全員に回した。…誤って吸い込んだ海兵が噎せている。
…作業員宿舎も静まり返っていた。いかにも南国のバンガローらしく木造の高床家屋が数十と建ち並んでいるが、人の気配はない。
「救助隊だ!誰かおらんか!?」
…返事を返す者は居ない。
「…林からティラノサウルスとかゾンビとか出てきそうでゾッとしねーな…」
「うーむ、往年のパニック映画やホラーゲームの、お決まりの序盤だもんな」
大淵も腕組みしたまま頷いた。
「アリッサ、アレ好きデス!小さな町の住人が次々未知の寄生虫に寄生サレテ町全体が乗っ取られていくの!」
「知ってるぜ。それまた古いな」
黒島が応じた。
大淵は海兵に家屋の捜索を任せつつ、一際大き目の倉庫か、石造りの建物を覗いた。
食堂だった。厨房内には作りかけの鍋料理がそのまま放置され、得体のしれない虫が匂いに釣られて集まっていた。数十人分のテーブルと椅子は荒らされた様子もなく、今にも腹を空かせた作業員が戻って来そうだった。
「居住エリアには誰も居ません!」
「食堂もだ」
「隣接する酒場も…荒らされた様子はありませんが…」
「都市伝説で、料理をそのまま残して人だけ消えた町とかは往々にして見るが…」
…道中で海洋モンスターがあれだけ襲って来たのは何故だ?
…仮にこの奇妙な事件と関係があるとして、なぜあのタイミングで襲って来た?…完全に島に引き込んでから、もしくは島から出ようという時に襲うのではダメだったのか?それともこの後も襲って来るのか?
「仕方ない。エレベーターシャフトで坑道を捜索しよう。…この島に他に人が行くような場所は無い」
海兵小隊が先行し、もう一つの海兵小隊、部隊長と共に大淵達が後に続いた。
「ところで、ここでは主に何を採掘していたんですか?」
「はっ、魔法石の他に金銀、そしてミスリル原石を採掘しておりました。」
「ミスリル…」
大淵は自分の刀剣に使用されている金属を思い出した。
「現時点で、人類が加工できる金属の中で最も硬度の高い金属です。合金化する事で様々な特性を持たせることができますが、極めて希少な上、精製すると原石より遥かに少なくなってしまいます。その為、剣一本作るだけでも数年はかかると言われて居りますが、直近では現陛下の剣が最後に作られた一振りとなります」
お前は観光ガイドか、と言いたくなる程、部隊長は淀みなく説明してくれた。
…とすると自分の剣を鍛えるのに、ヴェルンは一体どれだけのミスリルを消費してくれたのだろうか。
「ん?待てよ、リノーシュ王は高位弓士でしょう。剣を作っても…」
「えぇ、普通の剣なら儀礼以外の価値はありません。…しかし、ミスリルで作られた剣は別です。たとえスキル恩恵を受けられなくとも、扱えさえすればその武器自体の攻撃力がそのまま加算されます。…例えば銃士が扱っても、ミスリルソードが通用する相手であれば倒す事も可能です」
「そ、そうだったのか…じゃあこのツヴァイハンダ―や騎兵刀も…」
「…ですが、貴殿のツヴァイハンダーは恐らく、他人ではまともに扱えないでしょう。きっと、見た目通りに恐ろしく重くなる筈です。…従者のように従うそれは…所有者であるあなたにリンクしているようですから。そんな武具はこの大陸で見たことがありません」
エレベーターが最下層に到着し、扉が開いた。最下層には誰も居なかった。
「…ランター隊はどこに行ったんだ?」
部隊長が困惑しながら周囲を見回した。
「先に捜索活動を始めたのでしょう。ここに五人残します。我々は北側の坑道を調べてきます」
「うむ、任せたぞ」
「…空気の心配は?」
「各所に風の魔法石を壁に埋め込んであります。誰かしらが触れば新鮮な空気が循環されます」
ちょうど、エレベーター横にも設置されていた。それを小隊長が押して見せると、風が坑道内に流れて行った。
「俺達もこの辺を調べてみるか。…思ってたより遥かにデカい坑道だ」
大型トレーラー三台が余裕を持って並べる広いトンネル…ちょうどそんなサイズだった。
「…取り合えず落盤の心配はない」
壁の地質を検めていた尾倉が呟いた。
「…ただし、構造的に海底下を通っている。…竜騎兵と大淵は火力の調整に気を付けた方がいい」
「あっ、俺、やりすぎちゃいました?…ってのはナシで頼むぜ、大淵」
「…わかった。いつものメンバーで行くぞ。こっちは火力が高い。いざという時は戦闘より退避を優先するため、人数を絞って行く。浮田、射方は黒島チームへ」
黒島チームは南側坑道へ向かった。
マオ、香山、斎城、アリッサを連れ、西側坑道へ。百メートルも歩いた所に、明かりの灯った部屋が見えた。壁の中に空間を掘り、そこに扉を設置するという構造だ。
「お、ビンゴじゃないか?」
「んー、そうデスね…血の匂いがシマス」
「…何だって?…俺が先行する」
大淵は空間からポピュラーな短機関銃を取り出し、初弾を装填した。威力は最弱クラスだ。これならやりすぎちゃった、は無いだろう。
「…気をつけてね」
ドアノブに手を掛け、蠟燭の火が揺れる部屋の中に突入した。
…部屋の壁際には所狭しとベッドが置かれ、その上で人間が横たわっていた。部屋の中心には手術台らしきベッドが置かれ、一応清潔なシーツに交換されていたが、床には血の跡が残っていた。…その傍らで、テーブル上のトレーに外科手術器具を並べている男が居た。
男は大淵を見てフリーズし、やがて手を上げて後退ったので、銃口を下ろした。
「安心してくれ、救助隊だ。…一体何が起きた?」
「見たことも無い化物が島に現れて…皆を…」
見ると作業員の男達は体のどこかしらを怪我して昏睡していた。…誰一人目覚める者は居ない。
「私はここで、掘削中に起きた事故の為に備えていた当番の医者だが…こんな事は初めてだ。地上から逃げてきた皆は怪我をしていた。…やがて皆、毒か何かのせいで意識を失って…」
「大輔君、私、この人たちを見ておきますね。ここは先生と私に任せて下さい」
「助かるよ。 何かあったら無線で連絡してくれ」
香山に患者たちを任せ、大淵は通信機を使った。
「西側坑道の医務室で生存者を発見した。医師と、三十人の作業員たちだ。そっちは?」
『…まだ誰も見ていないな。あと二十人はこのどこかにいるはずなんだが…まさか地上で…いや、生存者からの情報は?』
…地上でそのモンスターに捕食されていれば、人数が合わない辻褄も合う。黒島が言いかけたのはそういう事だろう。
「地上でモンスターに襲われたらしい。…怪我をしながら逃げ込んで来たが、毒のせいか誰一人目覚めない、と」
『…やべーな。どんなモンスターか知らんが、俺達も下手に攻撃を受けないようにしないとな』
「ああ。気を付けてな」
「…」
「どうした、マオ?暗すぎて怖いか?」
自分の背に負ぶさるマオに呼び掛けた。
「む?…いや、あの者、随分と透明な無心だったのでな。まるで生粋の聖職者のような…」
「そりゃ、医者ならそれくらい高邁な精神の人だって居るだろ」
「ふむ…」
マオは要領を得ない様子で唸っていた。
それらから更に坑道を進むうち、壁に鉱物が見えてきた。
「魔法石だな」
「うん、原石だね。星村さんが居れば大喜びだけど。これを、ここから外に運び出すんだね」
「…ア」
アリッサが声を上げた。
「どうした、アリッサ?」
「私も何か気になると思って、考えてマシタ。…あのドクター、ナンデ「見たことも無い化物が島に現れて」なんて知ってるんデショウ?…ずっとここに居たから難を逃れたんデスよね?」
「…避難してきた人から詳細を聞いたとか」
「その割には自分で見た口振りデシタよ?」
「しかしマオ、彼は嘘を吐いていたんじゃないんだろう?」
「うむ…嘘はついていないようだった。だが、何か…」
「…例えば、操られて言わされている事だったら、例えその内容が嘘でも、あのドクターが嘘を吐いている事にはならない…トカ。トンチみたいデスけど」
「…だとしたら何の為に…」
「…ダメですね、ドクター。ヒールを試しているんですが、この人も起きる気配がありません。モンスターの特徴とか、攻撃された時の様子とか誰かから聞いてませんか?」
香山は部屋の隅で眠る患者に向かっていた。ヒールを諦め、念の為に感染予防のゴム手袋をはめ、ウェストポーチから医療キットを取り、その中から聴診器を取り出して患者の胸に当てた。
(ん……心拍・脈拍は異常なしか…)
聴診器を仕舞い、振り返ると、部屋中の患者が佇んでいた。
「え…?」
今もまた、一人がベッドからむくりと起き上がり、こちらを見ている。
自分の診ていた患者も置きあがり、生気の無い虚ろな目で香山を見ている。
…薙刀は出入口に立てかけてあった。
無線機から黒島の声が聞こえてきた。
『作業員らしき20人を発見した。今から保護…おい、何をしてやがる!?』
無線機の向こうからけたたましい物音が聞こえてきた。
「…黒島…? オイ、何があった!?」
『分からん!急に襲い掛かって来やがった!す、すごい怪力だぞ!? 筋力アシストを使って振り払え!お、おい、海兵さん、手を貸してくれ!…お、お前らもかよッ!? 尾倉、藤崎、食い止めろ! 構わん浮田、銃床で叩きのめ…』
…無線が切れた。
「な、何なんだ…一体…」
またも無線が鳴った。
『や、やめ…大輔くん!助け……』 ただならぬ物音と共に通信が途絶えた。
「桜?…桜!」
「戻るぞ!」
舌打ちし、駆け戻った。
…畜生!何故こんな訳の分からない状況で桜一人を残してきた!?
自分の間抜けさに殺意さえ湧く。
医務室のドアに駆け寄り、勢いそのままに蹴り破った。
例の医師が一人、何食わぬ顔でテーブル脇の外科器具を丁寧に拭ってはトレーの上に一つ一つ並べている。
…室内には桜の持ち物が散らばっていた。…薙刀は出入口の床に虚しく転がっている。
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