転生先はパラレルワールドだった

こぶたファクトリー

文字の大きさ
60 / 71

59話 奇妙な村

しおりを挟む
 ブレメルーダから南にある漁村…リーデへは、切り立つ断崖を迂回し、50キロほど離れていた。

「あれが郵便か」
 村へあと10キロという所で、リーデとブレメルーダを繋ぐ郵便局員が、幌馬車を走らせていた。
 郵便局員は大淵達の姿を認めると顔を青褪めさせ、馬車の中から武装した傭兵が弓やマスケットを身構えて馬車の前席から武器を覗かせるが、彼らも大淵一行…三台のバイクと二台の鉄車を見て、戦意を喪失したように武器を下ろした。

『どうやら郵便強盗だと思われたらしい。アレは用心棒だろう』
 黒島から通信が送られてきた。
「誰が他人のお手紙を盗むってんだ? 恋文覗きか?」
『あのなぁ…それこそ今でも現金書留とかあるだろう? ATMや口座振り込みができなかった大昔はそれこそ重要な書類や、取引の現金が送られている事もある。 まぁ、お前がラブレターに飢えてるのは分かるが』

「なんだ、ダイス?恋文が欲しいのか?さもしい奴だな。 仕方ない、私が一筆くれてやろう」
「…そりゃどーも。とりあえず誤解を解いて話を聞こう」

 小隊に停止を命じ、大淵は徐行速度でバイクを歩かせ、馬車に向かってすれ違うように近づいていった。

「驚かせてすまない。見た目は派手だが、ただの旅の者だ。…リーデの村に行きたいと思っていたんだが、この方向で合ってるかな?」
 
 幌の陰から用心棒二人と、御者である郵便局員が大淵とマオの奇妙な二人組をこわごわと見下ろしていたが、少女…子連れの姿を見て安心したか、御者は頷いた。

「あ、ああ。この先だよ。小さな林を抜けると、すぐに村を見下ろせる筈だ」

「ありがとう。…村の様子はどうだった?」
「どう…って?」
「何か、変った様子とか、困っている様子は無かったか?」
「いや、いつも通りだと思うが…そう言えば最近、村の人たちは個人で手紙を書かなくなったね。今日の荷は、ブレメルーダにある会社や商店との取引関係の書類ばかりだ」

「…そうか。ありがとう。驚かせてすまなかった」

 …例のラーマからの手紙の内容を踏まえると、その取引の内容も気になるが、まさか荷台に乗り込んで取引の中身を調べる訳にも行くまい。 …それこそ恋文泥棒だ。

「村に行ってみるしかないな…」

 手を上げ、再び小隊を前進させた。


 言われた通り、あと五キロという所で小さな林に両側を囲まれた。たった五十メートル程の道の両側を、薄暗い樹林が光を遮っている。…夏には涼しくて快適そうな地形だが、今は別の薄ら寒さを感じていた。

「…私、嫌な予感がする」
「アリッサもデス」
「じゃあ俺も…」

 言い終わらぬうち、林の藪を割ってモンスターが現れた。
 新種…!

 武装している。オークと言うのか、猛々しい猪型のモンスターが、人の手のようにある程度器用に扱える蹄にロングソードや斧を持ち、小隊を包囲していた。

「運転手以外全員降車!銃士は車上から援護、射方はライオットゴム弾装填。浮田も射線に気をつけろ火つけ犯にはなりたくないからな」
 グレネードの爆炎が下手に燻ぶれば、海から吹き込む潮風が瞬く間に奥に見える別の森にも飛び火し、大規模な森林火災を引き起こすだろう。…そんな真似をしたら、目も当てられない。

 ライオットゴム弾はヘビー級のパンチャーが放つ一撃並の威力がある。砲兵が使えば、拳闘士のジャブに近いくらいの牽制力にはなるはずだ。

『さっきの郵便屋がグルだと思うか?』
 黒島は落ち着いた様子で問いかけてきた。
「いや…操られている様子も無かった。意図的に見逃されていたんじゃないかと思う。…こいつら自体が侵入者防止用の衛兵、とか」

 オークが槍を繰り出し、斎城がそれを切り払い、返す刀で袈裟切り。
 アリッサも一体のオークを蹴り飛ばすと、脇から襲って来たオークの筋骨隆々とした腹部にロングソードを深々と突き刺した。

 マオをバイクに座らせたまま、大淵も騎兵刀を抜いた。一体を撫で切りに伏せもう一体には防ぐ間も与えずに喉笛を突いた。
 マオに向かったオークはマオに魅了され、動けなくなっている所を後ろ回し蹴りで森林奥まで蹴り飛ばした。…巻き込まれた樹木が倒木する。

 香山、川村もそれぞれオークを倒している。…藤崎はオーク対決よろしく、盾を構えて二体のオークと押し合っていた。 それを脇からリザベルが突いて仕留める。 

 運転席の黒島も射撃で援護し、尾倉は車体に近づいたオークを処理した。

 50体近いオークが一方的に殲滅され、戦闘は終了した。

「…しかし、こいつらが一々通りかかる旅人を殺していれば、いずれにせよもっと大騒ぎになる筈だぞ?」
「…武装した者を襲わせているのかも。…例えばブレメルーダの兵が来たら襲わせるとか」

 それはそれでもっと大騒ぎになる筈だ。兵が行方不明になれば、どう隠そうとリーデへの疑念が強まる。ブレメルーダ側による強行調査の口実にもなるだろう。
 …或いはそれが狙いか? ブレメルーダ側が強行調査して…もし証拠を発見できなければどうなる?…今度はブレメルーダの立場が悪くなるだろう。

「…しかし、人間がモンスターを使役するなんて有り得るのか?まさか日当が欲しい訳じゃあるまい?」
 騎兵刀に付着した血糊を払い、鞘に収めながら、誰にともなく大淵が呟いた。
「無い…とは言い切れんな。何かしらの魔導具が存在し、それを手に入れた人間が居たとすれば、な」
 マオが応えた。

 林を抜けると、丘の下に村が見えた。村と言っても周囲を二メートル程の高さの石塁で囲み、唯一小高い建物…教会を中心に2、300軒の小さな民家や商店が立ち並ぶ村…町と呼んでもいいレベルの規模だった。内陸側の平原部には牧場か、同じく石塁に囲まれた場所があり、その中に羊らしい姿が確認できた。

 村から離れた浜辺には漁師小屋と、何艘かの漁船が遠くない沖合に見えた。


 開きっぱなしの村の門には、ささやかな木の棒と穴あきの鍋を被った、小さな門番が立っていた。
「可愛い門番さんね」
「…こいつは手強そうな門番だ」
「大淵、ファイトデス」

「そこでとまって!」
 五歳くらいか…舌足らずな声で止められ、大淵は大人しく言う通りにした。
「あー、村に入りたいんだが」
「おじさんどこから来たの?」
「北の方から。旅をしているんだ」
 念の為、ブレメルーダから来た事は伏せておいた。

「後ろのお姉ちゃんたちも皆?」
「そうだ」

(斎城とアリッサはお姉ちゃんで、俺がおじさんとはな…)
 自分は21、斎城、アリッサは共に24である。

「門番さん、君の名前は?」
「フレド!」
「フレド、君のお父さんやお母さんはどうしているんだ?」
「二人ともお仕事。…サイキンイソガシー…って」
「何のお仕事をしているんだ?」
「わかんない」
「…村に入ってもいいか?」
「いいよ!…でも、教会の方には怖い人がいるから、行かない方がいいよ」

「…怖い人?」 
「うん。リョーシュ様の家来だって。…いばっていて、教会の広場で遊ぶと怒鳴りつけて怒るんだ」
「そうか。…宿屋さんの場所を知っていたら連れて行ってくれないか?」
「いいよ!ヘレンおばさんの宿があるんだ」

 フレドの案内に従い、一行は村の中に進んだ。…村人の姿はまばらで、商店も店番の老婆が店先で日向ぼっこをしている有様だ。

「…仕事が忙しいって、丘の上から見たらこの村、大きな建物は教会くらいしかなかったよね…?」
 斎城が大淵に耳打ちした。
「うむ…父母共に漁に出るってのもピンとこないしな…俺は海産物の加工場みたいなものでもあるのかと思ったが、それらしい建物もないし…」 

 …一体、どこで働いているんだ、この子の両親やラーマは…

 城からリノーシュの命を受け、メイド服から女冒険者の装いに変装して同行してきたヤーナも、不安げに村を見回している。
 …誤算と言うべきか、女冒険者に化けても、メイルアーマー姿の大淵小隊の面々に囲まれると、却って目立った。リザベルも21式を着込んでいたが、マオは甲冑を嫌がり、大淵が用意した服…とくにワンピースを好んで着ていた。

 宿に辿り着いた大淵は、全員分の部屋を頼もうとして、この宿が決して大型の宿では無い事に気付いた。

 恰幅の良いヘレンおばさんが「よくやった」と言わんばかりに、団体客を連れてきたフレドの頭をわしわしと撫でながら、飴玉を一つ渡した。 

「13人ね。…えーと四人部屋三つ…一人個室でお願いしますね」

 思わず男共の方を振り向くと、黒島が動揺する浮田を抱え込んで四人組を結成し終えた所だった。
「安心しろ浮田。俺達は仲間だ! アイツはぼっちにしてやる!」
「ボッチ~」
 アリッサが大淵の肩を叩いた。マオも釣られて大淵の腕をつついた。
「…個室でお願いします」
 かぶりを振りながら追加料金を支払い、チェックインを済ませた。

 一階はダイナーを兼ねた造りになっており、そこで昼食を済ませた。
 サービスだという紅茶を啜りながら、今後について方針を固める。
「例によって二手に分かれて調査だ。俺、桜、日菜子、マオ、それから浮田…」
「俺達の浮田はお前には渡さん!かわりにアリッサをやろう」
「…まぁ、今回は情報収集だ。ヤーナ、君もこっちだ。ラーマが働いていた場所とか、家の場所とかは分からんか?」
「彼の家なら分かります。案内致します」
「頼む。黒島チームは村内の聞き込みを頼む。…それと、教会には極力近づかんように。領主の家来が居るそうだ」
 
 異変が本当だとすれば、その領主が怪しい。となれば当然、家来も何かしら加担しているだろう。
 問題は連中が、自分達をどう認識するかだ。 …後ろめたい事があるなら、自分達をブレメルーダからの調査依頼を受けた傭兵だと考える筈だ。そのくらいの想像力は誰にでも働くだろう。

 とすれば、連中の前に姿を晒してリアクションを伺うというのも一つの手ではあるが、それは後からでも遅くは無いだろう。

「ついでに黒島、射方もこっちに欲しい。」
「このケダモノめ!射方、絶対に行っちゃならない!隊長命令とか言って、路地裏で何をされるか…!」
「…射方、隊長命令だ。ソイツの事は無視していい。…斎城と共にフレドの家を調べて来てくれ。両親がどこで何をしているのか手がかりを探してくれ」
 フレドはヘレンから振舞われた昼食にあやかり、今は斎城に口周りを拭ってもらっていた。

「りょ、了解しましたっ」
 …射方は斎城を尊敬している節がある。面接に当たった黒島からも、志望動機が斎城にあるのではないいかと聞かされていた。…そういえばアルダガルドのアトラクションで大立ち回りをした際、大勢の町娘に囲まれていたな…
 
「サードリーダーは斎城で。…黒島は村の中で情報収集。ダイレクトに行かず、観光客の体で行ってくれ。それでは各自…作戦行動開始」
 スイッチを切り替えたようにメンバー全員が席を立っていく。斎城は滅多に組まない射方と挨拶を交わすと、フレドに何事か話しかけ、ダイナーを出て行った。 
 黒島達も何事か打ち合わせ、ダイナーを出て行った。
「…さて、俺達も行くか」
 紅茶を飲み干し、大淵も席を立った。

「ヤーナ、案内を頼む」
「はい!」


 村の海岸側の区画にその家はあった。簡素な住宅で、木組みの小屋に板を張り付けた…少しDIYができるなら誰でも作れるような小屋だった。

「私の家もこんな感じなんですが…よく一緒に、この家や砂浜で遊んだものです」

 家の敷地に入り込み、玄関ドアに向かうと、先に中から壮年の男が出てきた。

「…ヤーナちゃんか!?」
「お久しぶりです、お父さん。 あの…ラーマは元気ですか?」
 男…父親は驚いて目を剥き、口を開けたままヤーナを凝視していた。
「こりゃまた一体なんでこの時期に……まさか、お城の命で…?」

「…いえ、お城はお暇を命じられました。今はこうして、旅人の方を行く先々に案内して身銭を稼いでいます」
 ヤーナに合わせ、大淵とアリッサ、マオと香山は二人から離れていって物見遊山のフリをした。

「…ヤーナちゃん、悪いコトは言わねぇ。…もうこの村はお終いだよ。…今日中にブレメルーダへ逃げた方がいい」
「ど、どうしてですか?」
「…この村は貧しいが平凡に暮らしていたのに…半年前にアイツらが来てからおかしくなった。そして…」
 父親は周囲を横目で伺いながら声を潜めて言った。 …やがて、何か見たのか、慌てて視線を逸らした。 ヤーナもその方角を見ようとすると、鋭い声で遮られた。
「見るなッ… とにかく、ここには倅はいない。…いいか、もう二度とここには来るな…でないと、天国のお父さんお母さんも悲しむ事になるぞ…」

 そう言うと作り笑顔で手を振り、家の中へと戻って行ってしまった。

 後に残されたヤーナは困惑したまま、潮の波音だけがいつまでも聞こえてきた。


 夕方まで村を観光する体で情報を収集していたが、目ぼしい情報は得られなかった。
 
「あとは虎穴だけか…」
 教会の様子を探りに行ってみた。
 時刻は六時に差し掛かる頃…大淵の到着を待ち受けていたかのように教会の扉が開き、ぞろぞろと人が出てきた。
「なんだ…?」
「ミサとか行事…じゃないですよね…」
 建物の陰に隠れ、様子を覗った。
 出て来る人間は十代の後半から40代まで。いずれも疲れ果てた顔色を露わに、帰宅するのか、生気を感じさせない足取りのまま方々へと去っていく。
 大淵らを見ても何の反応も見せなかった。
「…原因はあの教会で間違いなさそうデスね」
「どうだ、ヤーナ?ラーマはいるか?」
「んー…すみません、誰かの陰になっているのかな…見当たらな…」

「何をしている?」

 声に振り返ると、異様に背の低い男が大淵達を見上げていた。…小隊最小の123㎝というマオより少し高い程度。だが、子どもでは無かった。その口周りには薄らと髭を生やし、腰にはレイピアを差し、明らかに上等な身なりをしていたから。
 …何より、悪意と疑念を滲ませる鋭い眼は、子どものそれでは無い。件の、領主の家来か。

「どうも。旅の者です。たまたま通りかかりまして…今日は何か祭事でも?」

「フン…たまたま通りかかって、ねぇ?」
 男はアリッサ、香山、マオ、大淵を順繰りに睨み、最後にヤーナを見上げ…口元を歪めた。
「…お前、この村の出身者だな?」
「え…」
 ヤーナが顔を強張らせた。
「やはりな。お前は来い」
 男はヤーナの手を掴み、教会の方へ連れて行こうとした。

「いきなり何をするんですか」
 大淵が男の前に立ち塞がる。

「よそ者はさっさとこの村から去るんだな。俺が寛大な内に」
「それは構いませんが…ウチの子をどうしようというのですか?」
 低姿勢ながら夕日の中でその鋭さを増す大淵の眼光に、ヤーナは自分の腕を掴む男よりも恐怖を感じた。
「お前に知る資格は無い…ほれ」

 お手玉程の布包みが放り投げられ、石畳の上に金・銀貨が零れた。
「それで満足か?…ブレメルーダから来たなら、一つ警告してやる。この村に商売以外で干渉するな。…さもないとお前らの牝王が、髪だけでなく顔まで青くなることになるぞ」

 そう吐き捨てると、再びヤーナを連れ、大淵を押し退けて行こうとした。
「おっと失礼」
 その瞬間、大淵は男の手の一点を、曲げた人差し指の背で突いた。 

「おぉッ…!?」

 レイスの技を盗んだものだ。…途端に男はヤーナを手放し、その場に四つん這いになって痺れたように倒れ込んだ。その隙にヤーナが大淵に駆け寄った。

「おや、大丈夫ですか?どこか具合でも?」
 言葉とは裏腹に冷たい眼差しで男を見下ろす。男は憎悪を滾らせた目で大淵を見上げるだけだった。
「…まぁ、命には別条無さそうだ。…多分、直に痺れもとれますよ。残念ながら自分達ではどうにもできないので失礼する。…ああ、忘れ物を」
 布包みを男の目の前に返し、大淵はその場を後にした。

「…しくじった。顔を覚えられちまったな」
「仕方アリマセン。モーテルに戻って、他の皆サンの情報と突き合わせて情報を整理しマショウ」
「それが一番だな。…しかし、連中の影響力は強そうだな。…宿屋の女将も疑った方がいいか?」
「…それが一番ノーリスクデスが、宿屋の食事を残せばすぐにバレマス。…疑って何も無かったらお互い嫌な気分デスし。 …そこでアリッサのオシゴト道具・超小型監視カメラの出番デス♪これで厨房を監視シマス。なんと本物と見分けがつかないゴキブリ型で、見つかっても本物よろしく高速移動も可能デス!」
 香山とヤーナが抱き合い、おぞましさに震えながらアリッサの持つリアルなGから距離を取った。
 ならば、と大淵とマオに突きつけるが、マオにはそのおぞましさが伝わらないらしく、カブトムシでも見るように興味深そうにまじまじと見つめている。

「す、すげぇけど、んな気持ち悪ぃモンこれ見よがしに突き付けるんじゃねー! やめろ、腹を見せるな!」

 …結局、その日の夕飯に薬が盛られるような事は無かった。

「…見た目は酷いが、本当に便利だな、コイツは」
「予備のピープローチくん2号もありマス。防水・対凍結・対高湿多温。十時間フル操作も可能な、我がCIAの誇る、優秀な諜報・偵察装備デス。 本物のゴキブリが侵入できる以上、どんな施設にも確実に侵入可能デス。…因みに、滑空機能と金属切断機能を搭載した次世代モデルの研究開発が鋭意進行中デス」
「うーむ…ろくでもねー物を作ることにかけては流石世界一の国だな」
「それは日本も負けていないと思いマスが、誉め言葉として受け取ってオキマス♪」

 大淵は夕食後の四人部屋で、宿の主人にも女将にも見つからずに足元へ帰還してきたピープローチを眺めた。 …マオとリザベルを除く全ての女性達は、部屋の隅でおぞましそうに震えあがっている。

(…優秀過ぎて何だか愛着が湧きそうなのが癪だな)
 アリッサがピープローチをケースに戻し、ディスプレイを兼ねたコントローラーをユーティリティーポーチに仕舞い込んだ。

「…さて、話を戻そうか。黒島、そっちの収穫は?」

「ダメだな。サラっと聞いたくらいじゃ、「皆忙しいから」なんて言葉を濁してさっさと帰っちまう。子どもたちは気さくに話してくれるが、肝心な何をしているかは全く知らないようだ」

「…斎城達の方は?」
「フレド君の家に行ったけど、本当に両親は留守だったの。…作り置きの昼ごはんは用意してあったけど、あれじゃおやつ代わりにしかならないかな…だからフレド君、宿でご飯やお菓子ももらったけど、その昼ご飯まで食べてて…可哀そうだった」

「朝から夕方まで共働きで働いて、そんなに日当が少ないもんかね?…まぁ、どこの、いつの時代も似たようなもんと言えば似たようなもんかも知れんが」

「その割には、人攫いしようとした家来は羽振り良く金を放り投げていったがな。…労働力が足りてない訳でもあるまいに」

 アレだけの働き盛りの健康な人間を…何十人も抱え込んで、教会の中で何をしているというのか。

「早速、そのゴキブリ号で覗いてみたらどうだ?今なら教会の中だって真っ暗だぜ。そんな中でそのGを暗視装置や熱感知センサー無しで見つけられる猛者はいねーよ」

「ああ。アリッサ、俺が教会前まで運んでくるから、やってくれるか?」

「イェッサ!」

 人々の家も夕食を終え、蝋燭の節約の為か、殆どの家が真っ暗になっていた。街頭などある筈もなく、微かな月明かりだけが頼りだった。…その分、夜の町を死神のように密やかに歩く大淵の姿を見つけられた者は居なかっただろう。
 …その死神は、鎌ではなくゴキブリを大事そうに持っていたが。

「…教会前に到着した。後は頼む」
『いぇっさ』 
 ピープローチを置き、足早にその場を去った。

 宿屋の四人部屋に戻ると、殆どの者は自分の部屋に戻り、アリッサの肩越しに黒島、マオ、斎城、香山、そしてヤーナが画面に見入っていた。
 大淵が来ると香山と斎城が場所を空けてくれた。

 A6サイズのディスプレイには、ぼんやりと薄緑色の視界が広がっていた。

 教会内部…多くの長椅子が並べられ、正面には立派なステンドグラスと祭壇。パイプオルガンなどはなく、ステンドグラスに描かれているのはこの地方で信じられているであろう女神が天から手を差し伸べる姿と、海の中から喘ぐように手を伸ばす男の姿。

「…特に変わったモノはアリマセンね。別の部屋に行きマス」
「…なんだかホラー映画みたいな雰囲気だな」
 黒島が声を震わせた。
 
 蝋燭の灯りがドアの下部から漏れる部屋があった。その明かりを頼りに滑り込むと、ベッドが二つ。光源の方を向くと、二人の聖職者がテーブルの蝋燭を囲んで何やら話し込んでいる。
 アリッサはそれ以上動かさず、そのまま音量を操作した。

「…つになったら終わるんだ…こんな事…」
「終わるまでだよ……あの男に目を付けられたのが運の尽きだ。…もう今月だけで六人は使い物にならなくなっている…このままだと…」
「やめてくれ…彼らは道具じゃないんだ」
「…そうだった…俺もどうかしている…いっそ…」
 後は個人的な話題に切り替わっていってしまった。 アリッサは機体を操作し、部屋を出て、反対側にあるもう一つの部屋に向かった。

「ンン?こっちはやけにセキュリティー厳重デスねぇ?」
 ディスプレイに映るドアは、ドアノブに頑丈な南京錠を取りつけ、扉も鋼鉄製だった。
「教会の金庫室…にしちゃ物々しいな」
「ン~…これは潜り込める場所がアリマセンね。…押してダメなら退いて見マスカ」
 高速で教会出入り口から外へ出て、芝生の上を進み、教会の外周を回ってみた。教会裏側に出ると、突き出たブロックが見えた。

「…地下室デスネ。あの部屋に繋がっている保証はアリマセンが…」
 地下室への入り口は木と鉄を何重にも重ねてガッチリとはめ込んだ頑丈な物だったが、縁には微かな…人間が指を掛けるには足らないであろう、隙間があった。 それで十分だった。

 その隙間から滑り込み、階段を下りていくと、上階への階段が見えた。
「…位置的にもここで間違い無いな」
「イエス。あとはこの地下室に何があるのか…」

 …暗視装置は光を最大限増幅して視界を確保する物だ。…その暗視装置をもってしても、地下室奥の暗闇は見通せない。手前だけは、ピープローチから放たれるささやかな赤外線で最低限の視界を確保できている。

 アリッサは地下室中央…と思われる場所に向け、ローチを走らせた。
「…何か見えた?」
 斎城が呟いた。
「えっ、ドコデスか…」

 ぬっ、と視界に横倒しの顔が映った。
 
 目は赤外線を反射して真っ白に光っていたが、瞬きすると…どういう構造になっているのか、真っ黒な眼に変わった。…人間ではない。

「ひっ…」
 香山が息を呑んだ。
「で、出たあァアァアア!」
 黒島が絶叫を上げながら大淵に抱きついた。
「は、放せ気色悪ィ!」

 ピープローチが摘まみ上げられたのか、天井を映し出した後…画面が完全に暗転した。

「…ピープローチ1号、戦死デス。いい奴だったのに…」
「…あのバケモン、教会で飼われているようだが…一体何のために…」
 …そう呟く大淵に未だにしがみ付いて震える黒島の脛を、マオが容赦なく蹴り飛ばして引き剥がした。
「…行ってみるしかなさそうだね」
「…すまんがヤーナ。もしかしたら危ない目に遭ってもらわねばならんかもしれん。…だが、必ず守ると誓う。協力してくれないだろうか?」

「…勿論です。皆さんを信じてますから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...