パソコン物語

浅野浩二

文字の大きさ
1 / 1

パソコン物語

しおりを挟む
A子は、家が貧しかったため、また彼女は文学好きで、メカに弱く、よろず要領悪く、パソコンやワープロの使い方がわからなかった。彼女は高校を卒業して、ある会社に就職した。が、もちろんシンデレラのように、というか、さとう珠緒の走れ公務員のように、孤独な純真さをきらわれ、先輩にこき使われた。
 その会社には一台のパソコンがおいてあった。みんな時々、手慣れた様子で、パチパチと軽快なリズムでつかっている。A子はパソコンがぜんぜんわからなかった。ので、お茶くみと、そうじにあけくれていた。と、あと、灰皿のかたずけ、と雑用だけだった。A子もパソコンを使えるようにならなくては、と思った。それである日の昼休み、みんながいない時、そっとパソコンのスイッチをいれてみた。カチカチとそっとやってみたら一つの画面がバっとでてきた。A子は心配になった。ああ、どうやっておわらせたらいいのかしら。そう思っているうちにみんながドヤドヤと帰ってきた。ちょうどアラジンとまほうのランプ、でひらけゴマの、あいことば、を忘れてしまったところに盗賊の一団がもどってきたようだった。いじわるな先輩のBさんがいった。
「あなた、いったいなにをしているの?」
A子は、現行犯を逮捕された犯罪者のように、
「は、はい。パソコンをつかっていました。」と言った。
Bさんは、ひややかに言った。
「あなたパソコンの使い方、知っているの?」
A子は、うつむいて涙まじりに答えた。
「い、いえ。知りません。」
Bさんはさらにおいつめた。
「知りもしないくせに、無断でかってにいじって、こわれたらどうするの?パソコンは高いし、使い方はむつかしいのよ。」
A子は涙をポロポロ流し、
「ゴメンなさい。でも私もはやく仕事になれようと思って、パソコンの使い方をオボエなくては、と思っていました。」
Bさんはフンと鼻でせせら笑って、パソコンの使い方はむつかしいのよ。パソコンをつかおうなんて10年はやいわよ。あなたは当分、お茶くみと便所そうじ、と雑用よ。と言って、Bさんは、ことさら、みんなー、気をつけましょう。新人の子は、人がいない時に人のものに手をつけるかもしれないわよー、と言う。みなは、わー、いやだわ、といって、自分の引き出しをカタカタあけて、何か盗まれていないか調べだした。A子は、子供のようになきじゃくっている。Bさんは、フン。ゆだんもスキもあったもんじゃないわ。といって、パソコンのイスにすわろうとすると、ふん、このイスは、ちょっと具合が悪いから修理しなくちゃならないわ。つかえないからイスにおなり。といってA子をひざまずかせた。A子が四つんばいでイスになっている上に、Bさんが、どっしりとおしりをのせてすわり、パソコンをパチパチはじめた。A子はみじめこのうえなかった。パソコンはね、むつかしいけど、また同時に、サルでもできるという一面も、もっているものなのよ。トロイ人間が一番ダメなのよ。あなたなんてサル以下よ。Bさんは、仲間に目くばせして、ネコのたべのこした残飯に、のみのこした、牛乳をかけてA子の前においた。さあ、おたべ、といわれて、A子はなきじゃくりながらたべた。
 一ヵ月してやっとA子に給料がでた。そのなかから、二万五千円をだして、A子は、パソコン教室にかよった。ウィンドウ98と、ローマ字入力のしかた、ワード、表計算のし方、ファイルの移動などをおぼえた。そして次の給料で、ワープロを買った。会社がおわると、すぐアパートへもどって、ローマ字入力のしかたを練習した。もともと、何かをはじめると一心にとことんやってしまうA子のこと。一ヵ月くらいでタッチタイピングをおぼえてしまった。そして超図解のパソコンの本をよんで勉強して、パソコンの使い方をおぼえてしまった。
 ある日の昼休みのこと、A子は、前と同じように、みんながいない時、パソコンのスイッチを入れ、ワードに入力していた。この前と同じように、みんながドヤドヤともどってきた。が、みんなはシンデレラをみるように目をみはった。なぜならそこには、ほとんど音がしないほどのすばやさで、ピアニストのような神技の手さばきで完全なブラインドタッチで入力しているA子がいたからである。その手さばきは達人の域だった。みんながアゼンとしている中を、A子はサッと立ちあがって、自分の席にスッともどった。(便所そうじと雑用のA子だったが、一応自分の席はもっていた。)そのあと、その場は気まずいフンイキだった。いったいいつの間に、あんなに身につけてしまったのかしら。そのあとBさんがいつものようにパソコンに入力をはじめた。A子はモップで床をふきながら思った。フン。入力速度がぜんぜんおそいわ。これみよがしにパチパチはでな音をたててみっともないわ。ふふ。サル以下なのはあなたの方じゃない。Bさんはだんだん恥ずかしくなってきた。Bさんはブラインドタッチでは入力できず、キーボードをみながらでないと入力できなかった。パソコンが使えるようになったA子は、上司から仕事をたのまれるようになり、会社の有力な戦士の一人となり、トイレそうじはみんなで順番ですることになった。A子は、電子メールで知りあったステキな彼氏とつきあうようになり、結婚してしあわせになりました。とさ。めでたし。めでたし。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

👨一人用声劇台本「寝落ち通話」

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。 続編「遊園地デート」もあり。 ジャンル:恋愛 所要時間:5分以内 男性一人用の声劇台本になります。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...