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ルーチェ(3-5)
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「というわけで、何か協力していただけたらと思ったのです」
戦うことをアーヴェン達と決めた日の翌日。戦闘の準備としてルーチェが訪れたのはフェクトの効果屋だった。
魔物との大規模な戦闘に向けて何ができるかを考えた結果、ルーチェはフェクトの助力を願ったのだ。
「なるほど、魔物の大移動ですか」
フェクトはルーチェの話を顔色一つ変えずに聞いて、小さく頷いた。
「そうなんです。信じられないかもしれませんが、もう近くにまで魔物達が迫っていて」
「いえ、信じますよ。この国を守る『退魔』の魔道具にあるのは魔物にとって居心地の悪い空間を生み出す程度の効果ですからね。何かから追われるなどすれば、侵入してくるのも当然です」
「よくご存知なんですね」
「多少関わりがありまして」
冗談で言っているのかもわからない無表情でフェクトがそう述べるのを見て、ルーチェは困ったように微笑む。
だがフェクトが告げた言葉の真偽はどうあれ、魔物の大移動を信じてくれるならばルーチェにとっては都合がよかった。
「ならば、協力して欲しい気持ちもわかっていただけますか?」
「えぇ、もちろんです。この国を守るためでしたら助力は惜しみません。ですが……」
深く頷いたフェクトはそこで言葉を止めて、困ったように微笑んだ。
「私の能力は、意思疎通ができる相手でないと意味を成さないんです。なので魔物相手に私は無力だと言っていいかと」
フェクトが申し訳なさそうに眉根を寄せる。
その様子に、戦いに参加してくれるつもりだったのかとルーチェは驚いた。
「そんなまさか、一商人に戦えなんてお願いしませんよ。お願いしたいのは、商人としての協力です」
ルーチェがフェクトに望んだのは、戦闘に有効な効果の販売だ。
効果を変えることによる影響が大きいことをルーチェは身をもって体験している。
だから、戦いに適した効果を貰えれば戦いにおいての強力な武器になると考えたのだ。
「なるほど。効果は何かを貰い何かを与えるのが決まりです。貴女の持つ効果を付け替えますか?」
「それは……」
フェクトの提案にルーチェは悩む。
今のルーという冒険者を構成しているのはフェクトから貰った効果だ。周りからの印象が大きく変わってしまうことを考えると、効果を容易に変える勇気はルーチェにはなかった。
「今の状態を気に入ってるわけですね。でしたら、効果を付与した道具をあげましょう」
「そんなものがあるんですか?」
「えぇ、ありますよ。対価は……、戦いのお話を聞かせていただくということで。こちらです」
フェクトが取り出したのは小さな瓶だ。その瓶の中は、黒くもやもやと渦巻く奇妙な何かで満たされていた。
「これが?」
「はい。この中に【ぞわぞわ】とした感染する恐怖の効果が入っています。これを敵に投げつければ、一時的に相手とその周囲を恐怖に陥れることができるでしょう」
「付与道具ということですか?」
「そういったものと思って問題ありません」
瓶を受け取ったルーチェは、中で渦巻く黒の靄を見つめる。
付与道具や魔道具は高価だと知っていたルーチェは、フェクトの助力は惜しまないという言葉は本当だったのだと少し驚いた。
常に笑みを浮かべるか無表情であるかのフェクトが、街のためにと付与道具を実質的に無償で渡すまでするとは思っていなかったのだ。
「こんな高価な物を、ありがとうございます。お店にとっては不利益にしかならないでしょうに」
「いえいえ。この国を守るという約束を大切な人としていましてね。国の危機となれば、出し惜しみはしませんよ」
フェクトは苦笑いを浮かべて、指輪をそっと撫でる。その動きを眺めたルーチェはフェクトの着けた指輪に見覚えがあることに気がついた。
「その指輪……」
「あぁ、これですか。大切な人の形見のような物でして」
「似たような指輪を城で見たことがあります。たしか、初代女王が大切に持っていたとか」
「……そうですか。きっと私と同じように、大切にする理由があったのでしょうね」
フェクトは優しく儚い表情で微笑む。そして、それ以上に何かを語ることはなかった。
懐かしむようなどこか遠くを見る瞳でフェクトは指輪を眺める。ルーチェはもう少し詳しく指輪について聞きたい気持ちもあったが、フェクトの表情から簡単に触れていい話ではないことを察していた。
そうしてしばらくの沈黙が流れ、昼を告げる鐘が街に鳴り響いた。
「おっと、すいませんね。少し懐かしくなってしまって。魔物の大移動が来るのでしたら、ルーチェさんは他にも準備は必要でしょう?」
「あ、そうですね。そろそろ失礼させていただきます」
「はい、ご武運を」
優しく響くフェクトの声に押されて、ルーチェは効果屋を出る。
そして可能なだけの準備を済ませて、ルーチェは翌日の緊急防衛依頼に参加することになったのだ。
戦うことをアーヴェン達と決めた日の翌日。戦闘の準備としてルーチェが訪れたのはフェクトの効果屋だった。
魔物との大規模な戦闘に向けて何ができるかを考えた結果、ルーチェはフェクトの助力を願ったのだ。
「なるほど、魔物の大移動ですか」
フェクトはルーチェの話を顔色一つ変えずに聞いて、小さく頷いた。
「そうなんです。信じられないかもしれませんが、もう近くにまで魔物達が迫っていて」
「いえ、信じますよ。この国を守る『退魔』の魔道具にあるのは魔物にとって居心地の悪い空間を生み出す程度の効果ですからね。何かから追われるなどすれば、侵入してくるのも当然です」
「よくご存知なんですね」
「多少関わりがありまして」
冗談で言っているのかもわからない無表情でフェクトがそう述べるのを見て、ルーチェは困ったように微笑む。
だがフェクトが告げた言葉の真偽はどうあれ、魔物の大移動を信じてくれるならばルーチェにとっては都合がよかった。
「ならば、協力して欲しい気持ちもわかっていただけますか?」
「えぇ、もちろんです。この国を守るためでしたら助力は惜しみません。ですが……」
深く頷いたフェクトはそこで言葉を止めて、困ったように微笑んだ。
「私の能力は、意思疎通ができる相手でないと意味を成さないんです。なので魔物相手に私は無力だと言っていいかと」
フェクトが申し訳なさそうに眉根を寄せる。
その様子に、戦いに参加してくれるつもりだったのかとルーチェは驚いた。
「そんなまさか、一商人に戦えなんてお願いしませんよ。お願いしたいのは、商人としての協力です」
ルーチェがフェクトに望んだのは、戦闘に有効な効果の販売だ。
効果を変えることによる影響が大きいことをルーチェは身をもって体験している。
だから、戦いに適した効果を貰えれば戦いにおいての強力な武器になると考えたのだ。
「なるほど。効果は何かを貰い何かを与えるのが決まりです。貴女の持つ効果を付け替えますか?」
「それは……」
フェクトの提案にルーチェは悩む。
今のルーという冒険者を構成しているのはフェクトから貰った効果だ。周りからの印象が大きく変わってしまうことを考えると、効果を容易に変える勇気はルーチェにはなかった。
「今の状態を気に入ってるわけですね。でしたら、効果を付与した道具をあげましょう」
「そんなものがあるんですか?」
「えぇ、ありますよ。対価は……、戦いのお話を聞かせていただくということで。こちらです」
フェクトが取り出したのは小さな瓶だ。その瓶の中は、黒くもやもやと渦巻く奇妙な何かで満たされていた。
「これが?」
「はい。この中に【ぞわぞわ】とした感染する恐怖の効果が入っています。これを敵に投げつければ、一時的に相手とその周囲を恐怖に陥れることができるでしょう」
「付与道具ということですか?」
「そういったものと思って問題ありません」
瓶を受け取ったルーチェは、中で渦巻く黒の靄を見つめる。
付与道具や魔道具は高価だと知っていたルーチェは、フェクトの助力は惜しまないという言葉は本当だったのだと少し驚いた。
常に笑みを浮かべるか無表情であるかのフェクトが、街のためにと付与道具を実質的に無償で渡すまでするとは思っていなかったのだ。
「こんな高価な物を、ありがとうございます。お店にとっては不利益にしかならないでしょうに」
「いえいえ。この国を守るという約束を大切な人としていましてね。国の危機となれば、出し惜しみはしませんよ」
フェクトは苦笑いを浮かべて、指輪をそっと撫でる。その動きを眺めたルーチェはフェクトの着けた指輪に見覚えがあることに気がついた。
「その指輪……」
「あぁ、これですか。大切な人の形見のような物でして」
「似たような指輪を城で見たことがあります。たしか、初代女王が大切に持っていたとか」
「……そうですか。きっと私と同じように、大切にする理由があったのでしょうね」
フェクトは優しく儚い表情で微笑む。そして、それ以上に何かを語ることはなかった。
懐かしむようなどこか遠くを見る瞳でフェクトは指輪を眺める。ルーチェはもう少し詳しく指輪について聞きたい気持ちもあったが、フェクトの表情から簡単に触れていい話ではないことを察していた。
そうしてしばらくの沈黙が流れ、昼を告げる鐘が街に鳴り響いた。
「おっと、すいませんね。少し懐かしくなってしまって。魔物の大移動が来るのでしたら、ルーチェさんは他にも準備は必要でしょう?」
「あ、そうですね。そろそろ失礼させていただきます」
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