流刑の人

ロコ

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刑罰

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慶応年間、大川の流人船着場で、小舟が出発しようとしている。
啓太は、腕の良い深川の大工であった。
其れが、何をどう間違ったのか、今流人船上の人。
啓太には、妻子がいる。
おゆう、と今年二つになる娘の、お恵。
然し、おゆう、とお恵の姿はない。
探している人がいる。妻子ではない。

居ない!
やっぱり、見送ってくれないんだ!
啓太の罪状は、傷害致死。

止むに止まれぬ大和魂であった。
舟がでるぞー!
大川岸壁から、沖へ舟は出ていく。
沖に待つ大船に向かって。その果ては、鳥も通わぬ島八丈。舟は、江戸湾を走る。

大船に、舟を寄せると乗り込んだ。
甲板に座り込む囚人たち。この内半数は初犯である。
初犯で島八丈に、送られるのは、重犯罪者。
そう、啓太は人を殺めた。情状酌量の余地無しと、白洲できつくいい渡された。
大船が、海岸を離れていく。
やがて、陸地が消えて水平線だけが、視界に入る。
カモメが伴走して。
空高く、舞う鳥に思う。

あぁ、空を舞う羽根があれば、、、!

あれば?!
どうするよ!
おれ!
又、奴等と血生臭い遣り取りか!

ふっ!
やっぱり、俺は島ぐらしがお似合いだ!

啓太の刑期は、二十年。
終身遠投を、免れたが大差はない。

俺が江戸に戻る頃、お恵は二十二歳!

あんた、誰の世界だろう!

おゆう、誰かいい男を見つけて幸せになってくれ!

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