流刑の人

ロコ

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一か八か

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深夜、街が寝静まったころ。
深川の両替商、富士見屋をほっかむりした、輩が消防桶の陰に身を潜めて、辺りを伺っている。

ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
野犬の遠吠えが、静寂を破った。
震えるその手に、ノミを持ち喉の渇きと、シツコイ位催すションベン。高鳴る心臓の鼓動が耳元で脈打つ。

火の用心!
カチン、カチン
火の用心!
カチン、カチン
夜回りが近くを行く。
じっと、消防桶の陰で、身を縮めている。
やがて、夜回りは去って行った。

しーん

静かだ、静寂に音があるのを初めて知った。
よし、やってやる!
ノミと、風呂敷を懐中に再確認すると、陰から出てきた。
月光冴える街、三日月に照らされて。
賊は単独。
富士見屋の、裏木戸をノミで削りこじ開けた。
邸内に忍び込むと、蔵を探す。
広い邸内で、迷っている。
油汗が、全身から滲む。

どこだ!
金蔵は!

ウロウロしながら。

あった!
賊は、蔵の錠を掴むと、錠外しで、ガチャガチャ
こねくり回している。
中々開かない。焦る賊。
ガッチャーン!!!!

開いたぞ!
その時である。

あっ、お前は誰だ!
店の番頭に、見咎められた。

くっ!
賊は、番頭に相対時した。

賊め!
賊は、ノミを右手にして、突き出す。

死にたいか!

おーい、賊が入ったぞ!
皆んな出てこい!
番頭が叫んだ。

クッソー!
賊と番頭が組み打つ。
揉み合う内に、賊のノミが番頭の首を貫いた。

ゲッ!
蛙を踏み潰した様に、唸り番頭は倒れた。
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