上 下
2 / 2
蜥蜴人の時代

はじめてのしゅうかく

しおりを挟む

俺が異世界に生を受けてから、早3年が経っていた。
俺はなんと、人間としてではなく、蜥蜴人リザードマンとしてこの世界に降り立った。
まあだが、あまり絶望感というものはない。人間ではないが、体の構造は人間に近く、彼らは清潔なのを好むのか、あまり汚らしいモノを見たことがない。
三年間彼らと共に過ごして、不満はない。

ある一つの事を除いては、

突然だが、あの女神だが、天使だが、なんだかわかんない女に一言言ってやりたいことがある。

なんで…なんで…料理がないんだよ!!

話が違うだろーが。などと恨み節をこんな痛烈に叫ぶのには、当然だがわけがある。
単刀直入に理由わけを言おう。
この世界の、この蜥蜴人しゅぞくには、料理という概念がないのである。というか、そもそも味覚というのが極端に鈍いのだろう。

 彼らは狩猟民族なので、腹が減れば、村の戦士たちが、一狩り行って、獲物を捕らえてくる。捕らえた動物の肉は、大雑把に切り分け、狩りに協力したそれぞれの者たちに渡すという。

いや、寄生虫はどうなんだよ。という安全の面の話は、一旦目を瞑ろう。もしかしたら、そういうのはいないのかもしれない。
なので、基本的には肉ばっかりな生活を送っている。
まだ生まれて間もないが、時々胃腸薬が欲しい献立表の時がある。
こんな料理を食い続けていたら、絶対に栄養が偏るだろう。
野菜が恋しいのだが、そんなモノは食卓には出てくる日は待てど、暮らせど来る様子はない。

そうなったら取りに行くしかないな。

夜中に両親が寝静まったのを聞いて、夜の森へと向かっていく。
子供ながらにこの行動力は、ある種褒めて欲しいものだ。はじめてのおつかいがまさか生後6ヶ月に来るとは、人生とはわからない。体が鱗に覆われているからか、多少草木の中に突っ込んでも傷一つつかない。
頑丈な体に生んでくれた今生の母に心のなかで感謝する。
しかし、ハイハイで進んでいくからか、小さな茂みが森のようにみえる。今の俺の視点では、この夜の森はさしずめ霧がかかった富士の樹海というのにふさわしい。
こんな広い森の中を闇雲に探していっては、すぐに朝になってしまう。それは避けたい。両親にムダな心配はかけれないからな。仕方ない、あまり使いたくはないのだが。

俺は柔らかそうな土の中に、手を突っ込み、土を握る。
俺は前世では農業をしている親戚の家に通っていて、いろいろな事を親戚に教えてもらっていた。土や植物はそれなりに詳しい自信がある。
ふむふむ、この土には木の実がなる可能性があるな。
ここら辺を念入りに探そう。

結構探すが、やはり食べれそうな木の実がないな。
赤子の体のために、あまり無茶ができない。木を登るなんてのは、御法度だ。そうなると、落ちてるやつしか食べれないのだが、大体が虫食っている。たまに食ってないものもあるが、大体が虫が食えない程に硬い。蜥蜴人の歯はかなり鋭いが、まだ赤子なので未発達なんだよな。

どうしよう。このままだと食えないまま戻ることになる。

そんな中俺の頭に木の実が落ちてきた。どうやら今落ちてきたもので、そして虫にも食われてないようだ。
俺はそれがわかるとすぐに口の中に放り込んだ。ほんのり香ばしい匂いに、少し固い歯応え。上手いうますぎる。ただの木の実にこんなに感動したのは、前世を合わせても、これがはじめてかもしれない。

ただその味がすぐに感じなくなってしまった。やはり味覚が鈍いのだと、ここで自覚した。
朝の光が俺の目に飛び込んできた。
しかし、少しだけその光が鈍く感じられた。

光に背を向けて、俺は家の方向へハイハイで歩み出した。
そろそろ帰ろう。両親がおきてしまうから。

そして、その日もいつもの日の繰り返しであった。
食という幸福がある一点を除いては。



しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.11 花雨

お気に入り登録しときますね(^^)

パッシブの哭い鬼
2021.08.12 パッシブの哭い鬼

はじめての感想で、はじめてのお気に入りありがとうございます!

解除

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。