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しーたけの手

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逃走

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 まぁ、訳がわからない人が多いと思うので、俺の愛銃「パーティガン」について説明しようと思う。

「まぁ、俺はリアルでもそうだが、バーチャルでもぼっちを極めててな……」

「いきなり暗い回想に入りそうでなんか嫌だね……」

 そう言うと、清谷さんは顔を顰めた。

「まぁ、回想と言ってもそんなに長くはないさ。簡単に言えば暇だったんだ。ソロで狩るにも時間がかかるし、戦闘に行くのはあまり乗り気じゃなかった。そんな時に出会ったのが、生産職だ」

「うわぁ、ぼっちを極めた成れの果てって感じ……」

 そんな人を哀れむような目で見ないでくれ……。

「ごほん。それでだ。割と生産職を極めかかった時、ふとしたことを思いついたんだ。それがこれだ」

 そう言うと、俺はいかにもパーティに使いそうなクラッカーを取り出した。神殿の中の厳かな雰囲気とはまるで釣り合いの取れていないそれだが、それはゲームだからツッこんではいけない。

「パーティクラッカー?どうしたの水田くん?パーティするような友達いないよね?」

 キョトンとした顔で彼女はそう言った。

「さらっと酷いこと言うな!?い、いるぞ!?今では、生産職のお陰で人が集まってくるし!?」

「ご、ごめん、ちょっと言いすぎたよ……」

 彼女は、また落ち込んでしまった。なんだろう、そろそろめんどくさくなって来たのは気のせいかな……?

「き、気にすんなって!ちなみに言い訳をするわけじゃないけど、これはパーティに使うんじゃなく、に使うアイテムだ。一人一人握手してたらパーティを組むのに時間がかかるだろ?」

「なるほどね。みんなで集まってそれを鳴らせばパーティが組めるんだね!」

 理解が早くて助かる。

「そういうこと。で、こいつと拳銃を組み合わせたらどうなるのかと思って試したらこいつが出来たんだ。なんか都合よく二つの良いところが組み合わさってるから今でも重宝してるって訳」

「うーん?じゃあ、なんで、あの人たちの承認なしでパーティを組めたの?」

「銃で撃つのに、許可なんているか?当たりそうになった時に、『今銃弾が当たりそうです。当てても良いですか?Yes or No?』なんてやらないだろ?」

「え、えぇ……」

 彼女の妙な納得(?)の速さに、実はバーチャルやったことない詐欺なのではないかと俺は思ったが、深くは突っ込まないでおく。そういう人は割といるのだ。私全然分からなくてー、みたいな人。いや、ガキの頃からやってるはずなんだけどなぁ……。

「まぁ、都合のいいものができたから、今でも使ってる。あと攻撃用のももう一つ作ったんだけど、それも完全に性能がぶっ壊れてる。生産職は最強っていうことだ」

 まぁ、そんな感じで説明したが、残念ながら清谷さんは何も納得していない様子だ。

 今にわかるさ、何もしていないのにレベルが上がり、金が溜まる快感が。

「さて、じゃあ、まぁ次なる獲物を狙ってくる。清谷さんは、ここで待ってて」

 俺はそう言うと、足早にその場を後にしようとした。だが。

「待って……!」

 彼女は、強く俺の腕を掴んだ。俺はその勢いで、バランスを崩して転びそうになる。

「ど、どうしたんだ?」

「そ、その、一人に、しないで……?」

 彼女の目は、本気で涙を塞きとめるのに必死になっているようだった。よく見たら手は震えている。

 本当に初めてなのか?世界転移バーチャルダイブが。

「大丈夫だよ、仮想画面レイヤードスクリーンごしにいつでも連絡が取れるから。ほら、立体電話ホログラムコールをすれば、怖くない」

 そう言って、俺は宙をスワイプするように、メニュー画面を開き、小さな受話器のアイコンをタップした。

「あ、電話だ」

「俺からだよ」

 人の話を聞いていなかったのか……?

「そ、そうだよねー」

 あ、聞いてなかったみたいだ。

「ってあれ?水田くんが二人?」

 彼女は急に現れた立体映像ホログラムに慌てふためく。

立体映像ホログラムだよ……。現実世界リアルでいう立体映像オルタナみたいなものだよ」

 俺はそう説明すると、少し笑ってみせた。

「わわっ!?水田くんが二人とも笑ってる!?」

「そういうもんだからな……」

 本気でバーチャル経験のない方なのだろうか……。本気で分からなくなってきた。

「これで大丈夫だろ?」

「う、うーん。まぁ、大丈夫、なのかなぁ……」

「まぁ、すぐに帰ってくるから、それまでは通話は切らないでおくよ」

「わかった……。とにかく、早くね!」

「分かった分かった」

 そう言って、俺は彼女を置いて、神殿の中を罰当たりにも駆け回る。創造主は人間だから、何しようが別にいいか。

 先ほどやったように、物陰から友達が多そうな人を見つけた。俺は、時代の遺物みたいないじめの常套手段的に引き金を引いてすぐに物陰に隠れた。

『どうしてこんなことしてバレないの?』

 そんな不正行為こうしきチートを何組かにぶち込んだところで彼女は画面越しにそう聞いて来た。

「そりゃ、何人も仲間がいれば矢印が一つ増えたところで気にはならないだろ?それに、チャットのログを流し読んで、バレそうなら、すぐにおさらばするし」

『……とりあえず、水田くんが、クズだってことはハッキリわかったよ』

 そこまで、ダイレクトに言われるとなかなか来るものがある……。しかし、事実だから反論はできないのが悔しい。

 そう思いつつもやめられない。俺はチャットのログを、仮想画面レイヤードスクリーンに表示し、各チャットの様子を眺める。

『こっちは、大丈夫だ!右翼から一気に叩け!』

『くそ、こいつめっちゃ硬いぞっ!?』

『ねぇ、アスカちゃん?俺と一緒に遊ばない?』

『ボム置いた!だれか誘導よろ』

 なかなか頑張っている奴らが多いようだ。

『もう、終わった?』

「あぁ。こんなもんかな。あとは待つだけだ。動いてないよな?」

『そりゃ、怖いもん。動いてないよ……』

 彼女の声は沈んでいた。なんだ?歴史の教科書に載ってたあれか?異世界恐怖バーチャルフォビアってやつか?

「すぐ行くよ」

そう言って、俺は仮想画面レイヤードスクリーンに映るチャット画面を切ろうとふと顔を向ける。

『清谷舞花のログを確認した。只今ログイン地点を解析中』

「は?」

『了解、アルファチームは解析に加われ。ブラボーは予想地域の捜索を行え』

 いや、待て待て待て。

 どういうことだ!?

「え、何かあったの?」

 清谷さんの立体映像ホログラムはキョトンとした表情を浮かべている。

「清谷さん」

『何?』

「そこから逃げろ!!!今すぐに!」

 くそ、何が大丈夫だ。そうだ、何も起こらないから油断していたが、俺たちが相手にしているのは国家だった。

 そもそも、そう簡単に逃げられるはずはない。システムのゲームマスターかもしれない組織を相手にバーチャルに潜るなど自殺行為にもほどがある。迂闊すぎるだろ、俺!!!

『解析完了、対象はスタート地点から動いていない模様。急ぎ確保せよ』

 喉の水分が干上がった。

「清谷さんっ……!!!」

 俺は一気に足を回し始める。こんな終わり方は許されないっ!!!

『不明人員のパーティ参加を確認。現在、身元特定中ナウ、アイデンティファイング

「っっっ!?」

 俺は、全てのパーティ設定を解除した。だが、それはつまり。

『あっ!?消え……』

 最後に見たのは、彼女の驚いた顔だった。立体映像は一瞬ノイズが入ると、一気に空気に解けるように消えてしまった。

「あぁっ!?こんな時にこの凡ミスかよっ!!!」

 俺は同時に清谷さんとのコネクションも断ち切ってしまった。

 こうなれば、もう彼女と連絡を取る手段はない。

 また、直接彼女に接触エンカウントする他に道はない。

「清谷さん……!!!今行くぞっ!!!」

 俺は、走り出した。

 そう遠くないはずの元来た道を。

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