霊能力の父

ショー・ケン

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霊能力の父

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 地方で会社員をする真面目で自身のことは、“ごく平凡”と語るAさんは大学生の頃の話。その頃BとCという友人がいた。三人はとても仲が良く、Bはお人よしで、困っている人がいたらほっておけないタイプ。Cは自由奔放で何も考えていないが、裏表がないので憎めないタイプ。

Bは霊感があり、父が拝み屋をやっており、その関係で人から不幸が続くときや幽霊に取りつかれた話などがあると無償で人助けをした。その父親は悪名が高く、高額の依頼料を請求し、かつ人を呪い殺すなどといったこともしていたようだ。そんな父とBは不仲で疎遠であるらしかった。

三人はよく心霊スポットに遊びに行ったりしていた。Bの霊能力は大したもので、幽霊の過去や心霊スポットの過去などをズバズバと言い当て“何かあってもBさえいればなんとかなる”と三人はいつもいっていた。

だが、ある時からBは大学にこなくなり、心配してAとCでかけつけると、Bは布団の中でがたがたと震えている。
「どうしたんだ?」
と訳を尋ねると。
「AとCの後ろに、死神がついている」
 という。死神というワードはこれまで聞いたことがなかったので、どういうことかと尋ねると、近頃、死神を払ってくれという依頼があった。親族の依頼だったため、断るに断れなかったが、幽霊や運気を見ることはたやすいが、仮にも神と名のつく存在を相手にしたことがないため不安だった。

かけつけると、依頼者の息子がその“除霊”対象であるらしく、まだ中学生だという。彼の背中には、たしかに一つ目でガリガリにやせた鎌をもった死神がついていた。

 父の見様見真似でやってみたところ、三日三晩の死闘の末死神を払う事ができ、感謝された。いわくB父は信頼できないため、息子に頼んでよかったと。Bもそれでよかった、とほっとしていたが、その数週間後、視界の端に黒い者がまとわりつくようになり、それを目で追いかけると、ようやくそれは姿をあらわした、やがてそれは暫くのうち自由にさまようと、ついにBはAとCの後ろにまとわりついた。その姿ははっきりとガリガリに痩せた一つ目の……件の死神だった。そいつは自分をみてにやにやとしている。

 自分のせいだと落ち込んでいたがなかなかいいだせず、そして今日、件の親戚の子が亡くなったという知らせがきた。親戚はそれも、Bのせいではないし、良くやってくれたとと言ってくれたが、死神にちょっかいをだしたために、こんなことになってしまったとうなだれた。

AとCは、Bを責めなかった。それどころか
 Aさんは
「何か方法があるかもしれない」
 Bは
「俺はお前を信じる」
 とBを慰めた。

 しばらくして、大学に来るようになったBは二人にお土産といってあるものをさしだした。それは、黒い人形であり、Bによると特別な祈祷をささげているために、それが二人の身代わりになってくれるという、だがそれから二日後に事件がおきた。

 3人でBのアパートで深夜まで飲み明かしていると、酒がたりなくなった。外にでてコンビニから戻る最中の歩道で、Cが知り合いから電話だといって立ち止まったので、仕方なくAとBもまた立ち止まった。直後
《キキィイイッ》
 というけたたましい音とともに、そこにトラックが突っ込んだ。

 奇跡的にAとCに怪我はなく、Bだけが右足を骨折した。Bは病院に運ばれて、二人が事情聴取にたちあった。
 
 しばらくしてある刑事が二人のもとを訪ねてくるようになった。刑事は、なぜかA、B、入院しているCでさえ三人をしつこくつきまとっていた。
“違和感があるために、調べさせてください”といっていた。
 確かにあの時間、何もない歩道にたむろしていたというのもおかしいといえばおかしい。それも二週間ほどでやめたようで三人はほっとした。

 AとCはわかっていた。あの時、いち早く危険を察知したBは、二人を逃がすために叫び、もっとも危険な位置にいたCを突き飛ばしたのだ。それでCは怪我を免れた。

 刑事の追跡もやんだ数日後。何度となく見舞いにきて通いなれている、Bの入院している病院に、AさんとCで向かったときのこと。
「今度こそ、二人とも終わりかとおもったよ」
 と笑うB、自分が一番悲惨な目にあったのにできたやつだなと、Aさんは関心していた。
「それでも、俺がいながら危険な目に合わせてすまなかった」
 と、Bが落ち込むので、Cは右手から黒い人形のお守りをもちだした。
「大丈夫だって、これがあれば、俺たちは守られるんだろう?」
「あ、ああ……」
 Bは苦笑をした。Aさんは、その苦笑いはBさんが苦戦を強いられているか、あるいは右足を骨折したBに対するCの無遠慮な自分たちだけを気遣った態度さえ許しやさしく微笑んだのかと思った。

 Bの様態が急変したのは、それから三日と絶たないうちだった。病院内で黒い影を目撃した看護師が不審者と思い追いかけたところ、Bさんの病室にはいっていった。Bさんは、急性の心臓病にかかり、そのまま命をうしなった。

 そして、葬式が行われ、Bと仲の良かったCとAさんは、Bの親戚たちと最後まで立ち会うことになった。その通夜ふるまいの会食の際に、Bの父は、CとAさんをみつけて、二人の正面に座ってBの昔話を話していた。
 聞いていた印象とは違う優し気ないいひとで、噂も当てにならないなとCとAさんは笑った。しかし、父とは不仲だったはずでは?という違和感も、追悼の想いと酒とその場の雰囲気でどこかへ消えてしまった。

 だが酔いも回って、一通りの話がおわったとき、親父さんは妙な事をいいだした。
「まったくねえ、あいつは優しいやつだった、俺と最後に和解できたのも君たちのおかげだ」
「どういう事です?和解?」
「君たちは聞いていなかったか?そりゃそうか、俺がそうアドバイスしたんだ、お前さんたちに死神がついているように立ち回れって、そうすりゃ騙せるってね、実は……死神がついていたのは、あいつ自身だったんだよ、色々まよっていたみたいだが、人形を渡したってことは、あいつは最後に決めたんだ、誰かに自分の死神を移すことができないかって、それで俺をたよった、君たちの誰も、やつの気持ちがわからなかった、だから、君たちを犠牲にしてでも助かろうとしたが、やさしさ故に呪いきれなかったみたいだな、……あの事故で右足をおったとき、BはC君を突き飛ばして殺そうとしたが、死神がそれを察知して、Bを転ばせたようだな、しかし、君たちのBを思う態度をみるに、突き飛ばした事をうまく言いくるめたようだがな」
 むっとしたCが立ち上がり、親父さんに叫んだ。
「なら、このお守りはなんなんです、あいつは最後まで俺たちのために!!」
「その腹を裂いてみな」
「……」
 Cは勢いよくその場にあったナイフで人形の腹部を割いた、するとその中から、血のついた札や髪の毛がでてきた。
「うわあ!!」
 驚いて転ぶC。
「あいつはなあ……人を助け続けたが、そのせいか死神に恨まれちまったんだ……そしてつけ狙われた、お前たちに取りついているという嘘までついて、お前たちを変わりに生贄にしようとした、だが失敗した、人の髪の毛やそいつの血なんざ、まあ、そんなもの、人を呪うためにしか使わねえだろ、所詮、蛙の子は蛙ってこった」
 親族は皆Cや親父さん、Aさんの方を向き、またか、といった様子であきれてため息をついたあと、食事を続けたのだった。
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