アンティーク

ショー・ケン

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アンティーク

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大富豪の元に外商が来る。あらゆる老後に役立つ品がならぶ。老人は、暮らしに困ることなどありえないほどの大金持ち。お金の使いみちもないので、あらゆるものを買った。投資もするし、金回りもよくしている。娘もいないので、ほとんどは専属家政婦たちのためのものだった。それでも家政婦たちは、仕事をさぼることはない。真面目な人たちを雇ったものだ。ずいぶん苦労して……。

老人は時計の音をきいている。
《カチ、コチ、カチ、コチ》
耳心地がいい。アンティークの巨大な縦長置時計だ。
《カチ、コチ、カチ、コチ》
 外商員が眼鏡をカチリ、と人差し指と親指で持ち上げる。先ほどまで若く短髪の青年だったのが、一瞬のうちにマニキュアをした女性に変わった、目をこする老人。
「ああ」
 と自室の時計を見る。そしてその横のテーブルとそこに置いた亡き妻の写真、少しふくよかで、優しげな瞳。だが怒ると少し気が強くなったものだ。
 そう思いだしてわらった。

 外商員が尋ねる
「いかがでしょうか」
「ん?」
「最新型の時計のことです、これらは人間の気持ちをリラックスさせたり、赤子や“生まれたて”アンドロイドの発育にもいい影響をもたらします、ここちよく、優しい思考になるように、“音”が組み込まれていますから、こちらのお宅のワンちゃんが吠えて困るときにも、心を静かにさせ、落ち着かせることができますよ」
「なるほどねえ……人の心を操るか」
「ま、まあ言いようによってはそうともいえます」
 富豪は細い輪郭のあごに手をかけ、顎髭を触る。
「本来の機能をもっておるのかの」
「ええ、もちろん」

 老人は、時計の脇の奥さんの写真に手を伸ばした。
「ふう」
 とため息。外商員は、汗を流した。今度は少しふくよかな男に変わっていた。
「だが……わしは、いいのじゃ、このオンボロで……骨董品、昨今のごちゃごちゃした機能は、人間を抑圧しすぎる、気持ちや思考などといった神聖な領域に立ち入ってはいかん、それ以外のものは買ってもいいがな……ただひとつの愚かな機能があればいい、たとえそれでワシの未来がより良いものにならなかったとしても」

 そういって、老人は手を伸ばした。そのアンティーク古時計、アンティークとは名ばかり、時空転移機能がついている。だがその時代にはその機能は当たり前で、さらに一工夫のあるものしか売れなくなっていた。
 奥さんの写真の人が変わる。細く、凛々しい若い女の顔に変わった。やがて外商員がきたこと現在さえリセットされる。微笑んで、老人は眠った。
「そうだ、この時計以上のものが開発されない世界へいこう、そうすれば、金の使い道に困らないで済む」
 そばに若く新しい奥さんが現れ、富豪の肩に手をまわした。
「私の時間ももうあとわずか、新しいものにはもう疲れた、古いものを大事にする世界にいこう、退屈で、オンボロ、わずかな機能しかないアンティークの並ぶ世界へ」
 この時代、誰もがそのような時計を手にするわけがなく、富豪の、それも権利あるものだけが時間旅行ができ、過去を書き換えられる。書き換えられた過去は存在しなかったことになるので、ただの一瞬でさえ、よい地位や暮らしをしている人間は、だれもが富豪に媚びるのだった。

 神のような力を手にした富豪にとっては、それ以上求めるものもなく、ありあまる機能さえ古くなっていくのを、科学の機能をむしろ押しとどめておくのだった。これにもこの富豪なりの考えがある。これ以上の発展をすれば、若者にチャンスはなく、経済は拡大し続け、地球環境の悪化は止まらないという事だ。富豪は手に数えるほどしかおらず、すべては彼の意のまま、仮初の神だった。
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