新時代のマイノリティ

ショー・ケン

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新時代のマイノリティ

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ある未来の東方国家。古来から擬人化や、近代では周囲から指摘される“キャラ”になりきる文化が愛されていた。やがて近未来、コンピューターとインターネットが発達した時代はもうとうにすぎさり、アバターを介した仮想現実への没入。SF小説でかたられた電脳世界、各人がメタバースへアクセスする時代へすでに突入していた。

もともと相性のよくないからだと精神を持つもの。“個性”と周囲の指摘する“キャラ”があわない人間。男女だけではなく自分の体と心が一致しないものが、自分を救うために、整形手術といった方法ではなくアバターへ体を映すことでその生きづらさを軽減する流行も栄えた。

ある高校、お嬢様学校で一つの悲しい事件が起こるまでは。

『優しい子だったのに』
『あんなに容姿端麗で』
『クラスのマドンナだった』

そう語る学校関係者の中に彼女のつらさを理解する人間はほとんどいなかった。発端となったのはAという少女。その少女は、周囲から称賛される見た目を持っていた。本来、それは喜ぶべきものである。しかし彼はちがった。“周囲から語られる美少女のイメージ”である、自分の女らしくかわいらしく小さな身長を嫌い、強い女になりたいと願い続けていた。なぜなら彼女は幼少期から多くのセクハラ似合っていた体。

彼女がそのアクセス用端末と個人用pcを手に入れると、メタバースにすぐはまったが、彼女の家は貧乏であり、月一回の彼女の大奮発は初めに彼女自身の一人暮らしを、その後仕送りをしていた家族の家系を崩壊させた。彼女はすぐに借金を背負い、そのことを家族に打ち明けると、家族はすぐに彼女に学校をやめさせ働かせる道を選んだ、彼女のその後のくらしは貧乏なものであり、やがて彼女のいかりは、金持ちへと向かい、整形をできる人間たちに向いた。

 メタバースで人々が幸せな第二の世界をそれぞれもち、それぞれの居場所を現実のほかにもう一つ持つ時代にあって、整形手術はあまり必要とされず、人間の容姿はそれほど重要ではなく、貧富の格差が拡大していた。それゆえにかかる値段はさらに高額になっていた。

 その後彼女Aは、もともと通っていた高校を襲撃する事件をおこした。もともと身分をいつわり、高額な学費がかかるお嬢様学校に無理やり入学した彼女にとって、周囲の金持ちへのステロタイプな怒りがあった。

『生まれが違うだけで、姿かたちが違うだけで、どうしてあなたたちだけが自由に生きられるのか』
そうしてナイフによる無差別襲撃事件がおきた。死人はでなかったが多くの重軽傷者をだし、それからその国のメタバースは、現実の自分とと大差のあるアバターの使用を禁止した。

牢屋にいる彼女の近頃のインタビューで彼女は自身の自由と不自由についてこう語る。
『生まれながらの体と心が合う存在は、私のような苦痛をもたない、私は強い女にあこがれていた、それが、周囲からはよかれとおもって、かわいく優しい女になれと“キャラクター”を要求されつづけた、この国では人間“周囲の評価”を押し付けられがちだが、だれもがそうなりたいわけじゃない、そうした私の怒りは、当たり前のことだとおもっていた、誰かが理解してくれる、それだけでよかった』
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