無限の今日

ショー・ケン

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無限の今日

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「大企業は独占をやめろ!」
「MOZは”脳制御チップ”の独占をやめろ」
「私たちを解放しろ!!」
 
 早朝から、会社のオフィスの下で叫ぶ労働者たち。人々は脳の一部を当たり前に電脳化していた。しかし、能力には制限があり、高所得者及び特権階級しか"制限"を突破できなかった。


 アランは、MOZという、特殊な許可を得た、国に一つしかない”制御チップ”の開発企業。その会社の社長ロウルの息子だ。まだ10歳になったばかり。父親はため息をして、秘書と連絡をとりあっていた。アランは一人で食卓に座り、朝ごはんをたべている。その脇には、”メイド型アンドロイド”が彼の世話をしていた。
 
 アランは”先を見越して”テレビの電源をつけた。一斉に報道がおこった。その日、一斉に“能力制限”が解除された。父と政府の決定により、”制御チップ”の”制御”が解放されたのだ。

 その後、アランは登校をする。その途中で様々な人々をみた。軽々と足をうごかして、”苦痛”なく走るもの。歩きながらAR装置によって勉強をするもの。街のテレビで賭け事の予想をたてるもの。

 一人の労働者が突然道の真ん中に躍り出て叫んだ。
「やったぞ!!これまで理解できなかった言葉や、数式が理解できる、”制御チップ”は解放された!!誰もが皆、自由に仕事を選べる!!」

 その脇を通りすぎながら、アランは考える。
(そんな訳がないのに)
 父は確かに制御チップの”制限”を解放した。だがむしろ"解放"されたのは、それまで"不当な制限"を受けていた箇所だけだ。"解放"されたのは"本来使える頭脳"だけだ。もとから父と政府は結託して、人間を階層ごとにわけ、高等な階層にいないものに、”不当な制限”をかけていたのだ。そうとも知らず街は、男の叫びに呼応してわきあがっていた。

 そうだ。そんな事を考え続けていると、すぐに10年の時がすぎたのだった。

 アランは、優秀な大学に入り、勉強にいそしんでいた。しかし、しっていた。10年前から何も変わっていない事を。

 アランは、まるで周囲が10年前から一切進まない事に疑問をいだいていた。そして世の不平等を嘆いていた。父は、あろうことか今では国民に信頼されている。MOZの社長に居座り続けている。父は……老いることもなかった。病気になったこともなかった。

 アランは、帰宅すると、ある決意をもとに、父のオフィスにむかった。
「父さん」
「どうした?」
 機械的に、書類に目を通す父親に、苛立ちを覚える。
「父さん、これまで僕は、父さんにずっと"管理"され続けてきた」
 そのいいぐさに、父は思わず顔を上げる。
「何をいうんだ、大学で何か困った課題でもみつかったか?私を疑うなど、お前らしくもない」
「小さなころからそうだ、黒人の友人も許さなかったし、恋人だって……高校のころ、小さな発達障害を持つレィナを、あんたが無理やり転校させ、別れされたのもそうだ」
「おい、何をいうんだ?」
「父さん、国だってそうさ、全部父さんの思い通り、だけど、本当にこれでよかったのか?」
 アランは、傍らから最新のレーザー銃をとりだした。
「お前、何を、バカな事をよせ」
「母さんがあんたを捨てたのもわかる、生まれる前の事だからしらないが」
「いや、母さんは、今まで言っていなかったが病気でしんだんだ」
「あんたのウソはうんざりだ!!」
 叫ぶと、父はだまりこんで、鼻をかきながら、たちあがり、アランに近寄り彼の肩にてをのせた。
「なあ、アラン、よく聞け、私は確かに人を管理してきたかもしれない、場合によってはお前の管理も、だがこれは……もし"世界のため"だったらどうだ?」
「何を、口からでまかせを」
「いいや、そうじゃない」
 アランのむけた銃口にてをかぶせ、続ける。
「本当さ、すべて"厳重な管理"のもとに進んでいる、だから”お前の未来、お前の考え”もすべて、計算のうちだ」
《ズサッ》
 執事型アンドロイドたちがあらわれ、アランにむけて四方からテーザー銃の銃口をむけた。
「それでも、あんたは俺を殺せない、だが俺は、あんたを殺せる!!」
「そうだ、だが銃をみてみろ、ホラ」
 ロウルが、ポケットから何かをとりだしてみせた。
「この日の事や、未来のこと、ありとあらゆる可能性は”量子コンピューター”によって算出されている、国がそう決めている、しかしその"量子コンピューター"でさえ、人口知能と結びつかないように、何重もの制限がかかっている、私もだ、私も運命のこまなのだ、だから私は"彼女"と一緒にいる」
 その彼の手にのっていたのは、アランが持っているレーザー銃のマガジンだった。
「ホラ、そんな無意味な銃は渡すんだ、すべて、決まっていることなんだ、私は今夜おこるこをとしっていて、今朝、これをぬきとった……お前も思う事は多いだろう、私の事を重荷に思う事もあるだろう、だが、お前に苦労はさせないよ」
 そういって、息子をだきかかえるロウル。ロウルは抱きしめながら執事型ロボットが散会し、かわりにメイド型アンドロイドが現れたのをみた。そして、ある事を思い出した。

 今朝。丁度朝でかけるとき、気分転換にメイド型アンドロイドに掃除を頼んだ。その時彼女は何をしただろう―
 彼女は今のんきにアランをみつけて手を振った。母を知らない自分にとって彼女は母のような存在であり、そのしぐさも、母を思わせるおのだった。
 ―そう、母は、立派な存在だ。自分をかまわない父の代わりにありとあらゆる世話をしてくれた。機械であれど、ぬくもりを感じた。そして、アランは自分より低い階級にいる人間を見るたびに思う。家にそうしたアンドロイドがいない人。やる気があっても、時間がなく仕事に追われているひと。そもそも、金がなく這い上がる機会がないひと。
 母は今朝―何をしただろう。彼女は、自分の部屋を掃除し、レーザー銃を見つけてこう言った。
「アラン様、マガジンが抜けております、補充しておきましょうか?」
 トリガーに手をかけた。もはやそれは、反射というような感覚だった。恨みはある。だが人を殺すほどではない。けれど、生まれてからであった数々の苦労人が、そしてその人たちが"思考"に制限をかけられていることが、そしてその差別の主が目の前の父親であることが、許せなかった。
《ズドォオオオオオン》
 
 響き渡る銃声。戻ってきて、おろおろとする執事型アンドロイドたち、力なく、地べたにたおれこむロウル。彼らは、父親《ロウル》を覗き込んでこういった。
「防げなかったカ」

《ピュィイイン》
 父親の胸部から、ホログラム映像が現れた。父親がデスクの前ですわっている。事前に撮影した映像なのだろう。日付がかかれている。今日のものだ。窓の外は暗く、深夜か早朝にとったのだろう。

「今日、もしも、もしも息子が私を撃ったとしても、私は、息子を恨まない、だが息子には、重大な事実を話さなければならない」
 アランは、その場に座り込んだ。銃を持つ手がふるえていた。
「この映像が流れているということは、未来はある方向にきまったということだ、お前には苦労をかけたな、だが、もはや未来はお前の中にあるといってもいいだろう」
 アランは映像をみながら、父親の体のあちこちを確認する。間違いない。彼は“アンドロイド”だ。まだ、体を機械に変える技術は開発されてない。脳だけだ。

「私たちは”ある絶望”に直面していた、政府も、研究者も、皆それに恐怖していた、つまり“AI”が人類の知能を優に超え、人間を支配することだ、それはあらゆる量子コンピューター、コンピューターが”予想”していた。それを防ぐための施策こそがあらゆる電子機器に"制限"をかけることだ、お前も、そして富裕層も、皆気づいていない、この秘密を知っているのはごく少数だ、だが、きけ"制御チップ"は、”みな平等”に制限をかけている、富裕層だけ”制限”が解除されているなんてことはない、そもそも〝制御チップ〟事態が、ただ、電子化された頭脳が極端に進歩しない用意制限されたもの、ただの飾りのようなものだからな」
「じゃ、じゃあ、な、なんのために……」
「なんのために?と思うだろう?もはや、AIは進歩しすぎて、ウイルスのように電子の海を駆け巡っている、だから、もはや物質的な制限も、ひとつの“障壁”、制限なのだ」
 映像は続けた。
「私は、アンドロイドだ、肉体としての”私”はすでに死を迎えた、だが私の同僚はそれを許さなかった、研究中の“電脳化頭脳”に私の知能と、そしてお前の母親の頭脳の一部をコピーし、いれた、彼女はガンで死んだんだ、そして、私も、孤独に耐えきれず死を選んだ」
「父さんは……嘘をいっていなかったのか」
 アランは、現実逃避をするように、窓の外の世界にめをむけた。高層ビルの下には
、今もせっせと働いている人々がいる。
「だが私は“生まれ変わって”後悔した、そう、お前をおいて自死したことをだ、そこでお前にすべてをささげることにきめた」
 アランは、ふと嫌な予感を感じた。父親が目を見開いている。こうなった父親は、梃子でもいう事をきかない。それに、そうなった父親の提案は、必ずクレイジーなものばかりだったからだ。
「"すべての人間"に制限を与えるといった、だが私は法をおかした、"お前は特別"だ」
「!?」
「……お前だけが、計算の制御のないチップを与えられた、私が、世界中の誰にも秘密でな、その計算能力はすさまじいものだ、電子の海にさらされれば、喫緊にせまっていた課題、人工知能が誕生してもおかしくないほどの……だが私は、お前を愛す事にきめた、なぜならお前は、数多くの障害をもってうまれてきたからな、その、発達障害や精神的な疾患などだ……お前の頭脳は、チップによって"補助"されている……だがこの動画を見ている時には、お前は"ある責任"を追わなければいけない、お前は、本当に”アラン”だろうか?お前は"人類の為だけに働きつづけられるだろうか?"答えは……わからない、ただほとんどの計算の上で、お前に与えた制御チップは……”人間を超える自我を持つ”ことが証明された、そう、お前は……あらゆる人間のチップを強化するといったがそれこそが……」
 アランは、頭をかかえてうずくまった。映像から、かすかに声がひびいた。
「私たち、政府や研究者が怖れた”シンギュラリティ”の先の世界の話なのだ」
「うわああああああああ!!」
 アランは反り返って、雄たけびをあげた。自らが憎んだ"差別"の根源が自分の脳内にある、そしてそれは、父親や政府、科学研究者たちがおそれたAIの暴走、それを引き起こすものだった、その歪んだ愛に絶望したのだった。

 

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