ホラーコントルーム

ショー・ケン

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コントルーム

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 朝方、清掃のおじさんが、その建物の5階のボタンをおしてにいやいやむかった。恐る恐るエレベーターから降りる。劇場とかかれた部屋の中に入り、小物や小道具でびっしりうまった中を、掃除できそうな箇所だけびくびくしながら、掃除をしてた。ここにくると陰鬱な気分になり、悲しい気持ちになる。
「よくここで仕事して、芸人さんたちは鬱にならねなあ」
 しかし、仕事に集中してあたりを見渡すと今日は何もなかったのだとわかった、仕事をおえたのだ。そしてまたエレベーターをよぶ、そして中に入り1階のボタンをおす。扉が閉じるその瞬間、その部屋の奥から、声がした。
「おいてかないで」
 おじさんは念じた。
「成仏してくれえ……この世への恨みと、未練をわすれてくれえ」


 その劇場では、ポルターガイストや、奇妙な物音(ラップ音)、心霊写真が撮れるなどの現象が多発していた。これは、それでもその存在に気づかなかった鈍感な男の物語である。 


 男Aはひどく悩んでうなだれていた。バイトで食いつなぐ日々、いい年だし将来に良い展望もない。それに悩みすぎて、最近は心をやんでいた。そこで決心して、強い薬と縄をその場所に持ち込んだ。お笑い芸人のための劇場だ。誰もいない、公演のおわった劇場で死のう。そう思った。だが思い通りにはいかなかった。思わずつぶやく。
「どうして死ねないんだ」
 いくら薬をのんでも首をくくっても謎の力で、跳ね返されたり縄がうまく結べず首をくくれず、いくら強い薬を大量にのんでも吐き出してしまって死ぬことができない。なぜなのか男には皆目見当もつかなかった。
「もしかして、恋人であるBちゃんの加護のせいなのか」
 よくよく考えれば、シスターである彼女は自分を大いに励ましてくれた。しかし男は全くうれなかった。今日も来客も自分の公演にはまばら、数人程度だった。ピン芸人になってから、小劇場をかり、一人取り残されたあとに落ち込む頻度が多くなった。
「俺は、笑いの才能がないんだ、今更別の仕事もできない」
 どこかから、妙な音がきこえてくる。
「ぴょろろろ~ん」
 なんだ、この物々しい音は。
「ぴよぴよぴーん」
 何かをイメージして出した音なんだろうが、口笛の演奏が下手すぎるせいか何の雰囲気もない。彼は急いでいるのだ。死ぬのが怖くなるまえに死ぬんだ。人を笑わせることもできず、自分さえも笑わせられない彼は。翌々考えるにあれは、まるで幽霊のおどろおどろしさを演出するSEを“彼女”が自分で演出したのだろう、コントみたいに。

「こぉんにちはあ」
 どこからかはっきり女性の声がする。しかし、姿はみえない。それもそのはず、ここは貸し切った小さな劇場、雑居ビルの一室をかしきった、小さなスタジオのようなもの。そして芸人もお客さんも帰って、才能のない自分が後片付けを任されている。これにさえ、いじりにさえ答える余裕もない。
「どぉして、でまちのファンを期待してまっているのお」
「いや、俺がそんな自信過剰なわけあるか!!今死のうとしているのお!!!」
 知らず知らずにつっこみがでた。だが、静けさがひびいた、男は落胆した。きっと相手は幽霊だろう。しかし……男はどうして、幽霊の一人さえ、笑わすことができないのだ。落ち込んだ。
「ぷっ」
「!!」
 男は驚きながら、どこかでうれしくなりたちあがった。
「わらった!?」
「ごめんおならでた」
「って、ぬか喜び!」
「ぷぷぷっ」
「連発するな」
「笑ってるだけだけど」
「こんどはそうなんかい」
 手でいもしない相手につっこみもした。男は、笑った、久しぶりに笑った。

 そこで、スマホに目を落とすと、電話の留守電にきづいた。母親からだった。気になって再生してみる。
「Aちゃん、元気してる?お笑いの具合はどう?あんた昔からすごい人気ものだったからねえ」
 しかし、男は大人になった今になればわかる。子供の頃の人気や笑いなど、大人の世界で通用するものではない、それから母親は父の命日にかえってくるように、無理しすぎないようにと電話を終えた。Aは、なんだかやりきれなくなった。幽霊の気配もなくなった。声に出して聞いてみる。
「女の幽霊……きえたのか?」
 薬に手を伸ばした。しかし、飲もうか迷って周囲を見渡す、そして薬から手を話し、落ち込んでスマホをとりだす、その時だった。
「そんな風に優柔不断だから、あんたのツッコミには切れがないのよ、相方も逃げるわよ」
「いまそれいう?」

 また次の瞬間、スマホが鳴った。恋人のシスターちゃんからの電話だった。
「もしもし、今―どこ……」
「え?○○劇場だけど」
「もしもし!!大丈夫なの!!」
「全然大丈夫だけど」
「もしもし、いまどこなの!?お願い、最近あなたひどく悩んでいたけれど、私になんでも相談してね、みんなだって心配してたんだから」
(皆とは芸人仲間のことだろうか、あいつら、俺の変化にきづいていたか、最近めっきり、飲み会の場で笑いに対する情熱を語らなくなったのを)
 そして、彼女が最後に気にかかるひとことを放つ。
「もしかして……“もう”……“手遅れなの”」
 男はぞっとした。自分の体をさわってみる。たしかにおかしなことだ。こんなに大量の薬をのんだり、首をくくったりしたのに、しにきれないとは、もしかして自分はすでに死んでいる?自分の体にふれてみる、たしかに冷たい気さえする。

 そのとき、一瞬裏口があいて、清掃用の作業服をきたおばさんがはいってくる。
「こーんばんはあ……」
 恐る恐る、声をかける、するとおばちゃんは、こちらを眼鏡にてをかけじーっとにらんでいる、次に
「ヒィッ」
 と声をあげた。そしてそそくさと掃除をするとでていった。
(掃除のおばちゃん、俺の荷物や薬には一切ふれなかったし、俺を恐れているようだった、もしかして俺、すでに死んでいる……)
「ふふふ、何か疑問に思っているのね、私が答えてあげましょうか」
「へいSIRU、ここに幽霊はいるかい」
「ココニユウレイハイマセン……」
 静かな間、男は笑わない。女の幽霊がいった。
「ノってみたけどおもしろくないわね」
 ぐさっときた。
「冗談はさておき、もしかして俺はもう……この世のものじゃない?お前は仲間が欲しかったのか」
「まあ、確かにそうとも言えるわね、仲間は欲しかった」
 男は落胆した、そしてしかし、悔しく悲しい顔をした。
「そうかあ、お前は俺の最後にでてきて、俺をむかえにきたのか……だから、でもシスターちゃんとは最後に会話したかったなあ……奇跡的に生き残ってやり直すかとおもったが、そうでないならまあ、俺にふさわしい、“情けない死に方”だなあ」

 そのとき、裏口がまたひらいて、意味もないのにAは荷物を片付けた。バッグに薬と縄をしまう。そして暗い入口のほうにめろやると、よくみる顔、天然パーマの同僚がはいってきたのだとわかった。
「A~」
 彼は自分の直ぐ傍にきた。そして周囲を見渡すと、あたりをさぐるしぐさをした。
「A……」
「やっぱり……俺の姿がみえないのか……」
「A……」
 静かな間、おちこんだ同僚。だが突然ある瞬間、同僚は手をぶんぶんとふるいながら、Aにむかってビンタをした。そして、Aはその瞬間自分に実体があるのがわかった。
「ぶほっ……」
「A……お前、こんなにちっちゃかったっけ」
「って、見えてるんかい!自分の背が高いことを自慢したいだけかよ!」
 Aはするどくツッコミをした、同僚の腹部を、あまりにつよかったので同僚が、2,3あとずさりした。痛みを抱え、苦しみながら同僚は笑った。
「あ、ああよかった、みんな心配してたんだ、最近元気がないから、また、一緒にあそびにでもいこうぜ、いまじゃなくてもいいからさ」
 同僚はそれから、いろんな話をしてくれた、懐かしい話や、シスターちゃんと付き合っているのを皆が羨ましがっていること、お前の笑いを元相方が認めているという話まで、同僚の温かさにふれて、Aは泣きそうになる顔をごまかして目をそらしながら聞いていた。そして、去り際同僚は気になることをいった。
「なあ、ここは幽霊が出るって話だ、早くかえれよ、取りつかれると、話にならないって噂もあるんだ、強い霊で、売れる寸前までいった末に死んだ女芸人らしい、恨みや妬みも強いんだろうなあ、事故が多いんだよ、さ、お前も早く作業終えて変えれよ」
 そして同僚はその部屋をさった。シーンとする劇場。先ほどまで感じなかったがやはり部屋が異様に涼しく、冷たく感じる。

 男は、一瞬ためらったが、気合をいれてさけんだ。
「いや、わい生きとったんかい」
 シーンとする劇場。



 だが返事はなかった。少し怖くなった男は、掃除やら片付けを即座におえて、脳内でねんじた。早くかえることにした。幽霊を笑わせても意味がないし、はげましの言葉やシスターちゃんの心配もあるから、もう少しだけ生き延びることにした。なにより、死の原因を自分で選べないのが気に入らない。幽霊に取り殺されるなんて実に“面白くない”。
(そうそう、さっきの女性の声は幽霊じゃない、きっと、恋人の生霊がとんできているだけだ、ここにいる恐ろしい霊なんかじゃない)そう言い聞かせてかたずけをおえようとした。すべてをおえ、劇場をでようとしたその瞬間だった。
「私はすでに死んでいるのよ、生霊じゃないわ」
「!?」
「お前心が読めるのか」
「そうよ」
 男はついでに先程までの疑問をなげかけた。
「どうして俺が死んでいるような返答を?」
「面白いから」
「面白いからって……」
「知らないとおもって、ここの電波が悪いってことも、あの掃除のおばちゃんが目が悪く耳が遠いってことも、私の事は見えているみたいだけど、あなたここを使って長いけれど、まぬけだからそういう事しらないとおもって」
「ドストレートだな、まあ、そうだけど、俺は死にたかった、死ねたとおもった」
「え?じゃあ今から死ぬ?私、今度は手伝ってもいいよ」
「いやだよ!!なんで幽霊に手伝われなきゃいけないんだよ、逆に君そんな話聞いたことあるぅ?」
「……まあ、真面目な話、あなたが私の声をはっきりきいた初めての人だから、色々いたずらしちゃった、ごめんね……死を覚悟したから“チャンネル”がひらいたのかも、それがちょっとうれしくて、いままでいくら呼びかけても、いたずらしても、つっこみなんてかえってこなかったからさ」
「そう」
「あなたは、普通に接してくれた、あなたも、私の事怖いと思う?」
「いいや、たしかに一瞬怖かったけど、それは、後悔の怖さだったよ、それに君
そう、元相方に似ているんだ、相性はよさすおだ」
 ひとつ、また間が空いた……。ため息まじりに、男は入口においてある椅子にすわった。


「俺に伝えたいことでもあるんじゃないのか?理由もなく、幽霊が人にコンタクトなんてとらないだろう、俺を助ける変わりにもうひとつ、理由があるんだろう?」
「そうね……」
 なんともいえない、感傷の間らしき間があいた。5分ほどたった。そしてまた女の声ははっきりとしゃべり始める。
「私は、もともと芸人だった、それで……笑えない理由でしんだから、死にきれなかった、その際に遺書で頼んだのよ“祟る”という噂を流してくれって」
「なんでまた」
「後輩に知られたくなかったから、芸人の死が笑えない死だなんて、ただの……突然死だなんてね、私が劇場で倒れたとき、観客は悲鳴をあげたのよ、芸人が、人を怖がらせるなんて、耐えられない」
「でも、ここで事故った人間は多いときくぞ、役者だって……」
「ああ、それはね、あんたと同じように不安定な暮らしで死にたくなる人がいるのよ
、私はそのたびに彼らをとめた、その時怪我をしたの、それがたたりというなら、たしかに祟りね」

 男はしばらく黙り込んだ。そして電話をみると、チャットツールで通知がいくつもあった。それは恋人のシスターちゃんからだった。
(嫌な予感がしていたの、異常に電波が悪いし、悪霊の気配がするわ、すぐその場をはなれて)
 この幽霊がいい者であるか悪いものであるかは男にはわからなかった、それでも男には、ひとつ判明した事実があった。この幽霊は、男が死にかけたとき男に劇場で笑いをとることの喜びを思い出させてくれたのだ。
「なんか、ありがとうな、お前のおかげで考え直したし、お前に情がわいてきた、それに俺は生きる理由とエネルギーをもらった気がする、助けてくれて、ありがとう」
「ええ」
 頭をかきながら、てれくさそうに、てれくさまじりに
「それでさ……相談なんだけど、俺とくまないか?」
「いやだ」
 即答だった。
「いやなんかい!少し悩めよ、いいコンビだと思ったのに」


 男はふてくされながら、劇場をあとにした。幽霊は笑った。
「後輩たち、忘れないでね“芸人が笑えない死に方をするなよ”それにA、あんたは見込みがある、相方次第さ」
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