怖い藁人形

ショー・ケン

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怖い藁人形

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カメラマンをしているAさんにはBさんという、高校、大学と学生時代の先輩がいた。昔からあこがれで、高校時代にさえ名をはせていた彼は、カメラマンになるのが当たり前、将来有望とされていた。

そんなBさんに憧れてAさんもカメラマンを目指した。そして、大学も同じ所にはいって、そこではより有名でキラキラとした存在になっていた。Aさんは高校時代に写真をやっていたのはいいものの、Bさんのようにはうまくいかなかった。努力しても研究してもなかなか評価がもらえない。そんな日々に、Aさんが大学はいりたての頃に、Bさんだけが彼を評価し、同じサークルに誘ってくれたのだ。

それからの日々は輝かしいものだった。カメラマンになってからよりも、学生時代のほうが輝かしいものだった。Bさんは徐々に頭角をあらわし、Aさんが大学4年になるころには、名だたるコンテストを競い合い、二人の名前は知れ渡っていた。
だが、卒業を機に二人はライバルになる事をちかった。

Aさんも卒業し、それから、数年がたったころ。AさんはBさんに久々に連絡をしようとした、意図的に距離をおいている身としては後ろめたさもあったが、それでも懐かしいあの頃を思い出したくなった。なにせ、カメラマンになってからはいいものの、うだつの上がらない感じで、大した成果もなく、食いつなぐのがギリギリといった様子だったのだ。

そしてBさんの家を訪ねる、Bさんは、豪邸にすんでいた。華やかな生活、そしてたまたまその日はいなかったが、奥さんもいるという。自分とはかけ離れた世界にいるようにみえて、悔しかった。
 Bさんは様々な賞を取っているといって、いろんな写真やトロフィーを見せてくれた。Aさんは、意図的にBさんの情報に触れないようにしていたので、うれしくもあり、羨ましくもあった。
 だが、突然Bさんは険しい顔になってきいてきた。
「お前の方はどうなんだ」
 Bさんは、正直にはなし、それでも、といくつかの自分が気に入っている写真をみせた。
「……」
 Bさんは黙り込んで、いった。
「全然だめだな、お前には才能がない」
 目の前が真っ暗になり、それからの事は何も覚えていない。もともとやめようと思っていたが、彼に言われるのと自分であきらめるとでは全く違う意味をもった。

 そして、周囲にBさんの事を聞きまわっていると、ある噂を聞いた。Bさんはゴーストライターならぬゴーストカメラマンをやとい、楽をして賞をとったり、成果をだしたりしている。というのだ。どうやらそれは確かな情報らしかった。

 それいらいBさんが憎くなっていった。カメラマンをやめる前に、一泡吹かせてやりたいとおもった。だが自分にはそんな知恵も、能力もなかった。そんなころだった。別のカメラマンの先輩Cが近づいてきて、飯やら、何やら面倒を見てくれるようになったのは、CはBさんの事を快くおもっていないようだった。自分の言われた事を相談した時には、こんな事をいわれたものだ。
「恨みを込めるのも芸術だ、お前は彼を恨んでもいいだろう」

 恥ずかしいとはおもったがそれ以来、彼は自宅近くの神社の裏手で、藁人形を打ち付けるようになった、自分の不出来な写真とともに、学生時代のBさんの写真をうちつけた。

 Bさんがこれほど憎んだのにも訳がった。Bさんは、あの日合って以来連絡をとれなくなっていた。どうして、事情もなくあんなことをいったのか説明もしてくれなかった。自分が憧れた、優しいBさんはもうどこにもいなかった。

 しかし、それから数か月たったころ、Bさんから連絡があった。ある病院に入院しているという。

 すぐにかけつけ、彼の様子をみる、彼は笑いながらこちらをみていた。そして、学生時代のように陽気に手を振ってきた。
「よっ」
 ふと、今までの怒りが爆発しそうになったが、その挨拶になんだかなつかしさも覚え、こぶしの力をぬいた。近づいて、彼の傍の椅子に座る。
「すまない、“お前には才能がない”だなんて、あんなことをいって、あれは嫉妬だった、俺は恥ずかしい事をして地位を維持したこともある、だがお前は、金にならなくても、認められなくてもあの頃の純粋な気持ちで、素晴らしい写真をとっていた、それが、今の自分とのギャップがあって、辛かったんだ」

そういって、深く頭をさげた、Aさんは、あまりの事に声をうしなった。

「それにすまない、突然距離を置いて、俺はお前にふさわしい人間ではなかった、それを反省して、この何か月間、いい写真をとることに専念していたんだ、その間もお前が食うに困らないように、Cの奴にお金を渡して面倒見てくれってたのんでおいたんだが、恥ずかしくて、顔もみせられなかったんだ」
「え?」
「俺はもう長くないらしい、すい臓にがんがみつかってな」
 そこは、Aさんが藁人形に釘を打ち付けた部分であった。Aさんは、背筋に寒気が走った。Bさんは色々な昔話をしたあとに、窓の外を見上げていった。
「お前より先に評価を得てからは、ゴーストライターのようにいい人間の力をかりて、確かに俺は、俺らしくなかった、もちろんすべてじゃない、賞をとった作品は俺のだ、お前のために、てことを言い訳にして、いい写真をとろうとばかりもしていた、だが、この数か月間、気づいたんだ、俺はお前と学生時代に競い合い、そしてお前に褒められたことがうれしかったんじゃない、あの青春こそが、俺にとってひとつの価値のある芸術だったんだ」

 彼はその後しばらくして亡くなった。呪いは、取り下げる事などできなかったのだ。それ以来彼は自分を呪う藁人形を作って、毎夜ある神社の裏手で木にうちつけているという。だが彼は意に反して、徐々に成果をあげ、今では有名なカメラマンになってしまった。もはや、彼自身はその名誉に誇りも何もないというのに。
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