お守り

ショー・ケン

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お守り

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A子さんは幽霊が見える体質だ。小さなころから、幽霊が見えていた。母親も同じ体質で、

大学に入りできた友人のB子さん、仲のいいグループにいるだけでであまり深い友情があるわけではなかったが、時折A子さんにいうのだ。
「あなた、本当に幽霊が見えているの?」
 A子さんははっきりと見えているので、おかしなことを聞くなあと思っていた。

A子さんは昔から病弱でよく大病にあう。だがA子さんは、きにしていなかった。母の暮れたお守りがあったから。そのお守りは、黒い人影をとおざけてくれる。事故にあうときとか、大病に会う前には、それをさけるようにして霊がA子さんの傍にくる、A子さんいわくその黒い影は病気の原因となる怨霊で正体がわからないそうだ。

そんなある時、A子さんはまたひどい病気にあった。なぜかお守りの効力を感じることができず、病院に入院して日に日にやせ細っていく。治らない病気ではないので医者も疑問視していた。それでも徐々に体はよわっていき命の危機を感じるレベルだった。

 そんな時、お見舞いにB子さんが仲のいいグループの友達と一緒にいた。一番なかのいいC子さんと談笑するA子さん。B子さんは隅でずっとおどおどしてこっちをみていた。帰るときになって、C子やほかのグループが先にでて、最後にのこったB子さんが突然言い放つ。
「A子ちゃん、ごめんね、あなたのためを思って言うけれど、あなた、見えてない霊がいるよ……はっきりと見えてない霊が」
 そういって、B子はA子さんが大事に握っていたお守りを手に取り、ひったくっていってしまった。
「あ……」
 あまりの事に声もでないA子さん。ふと思い出した。
(そういえばあの子(B子)も霊感がちょっとあるっていってたなあ、なんだろう、私に嫉妬したのかなあ)
 そんなことを思いながら、お守りをとられた事に混乱していた。それでも、もうお守りの効力を感じないし、別にいいか、と思い眠りぬついたのだった。

その翌日、たった一日ねただけだというのに、体の底から元気がわいてきて、気力もわいてきた。医者も、突然状態がよくなったという。どういう事だろう、とお守りの事を思い出す。

そのお守りは実の母からもらったものだ。実の母はA子さんの父が子供の頃なくなってから、義理の父と結婚した。よくある嫌な目にあったことなどはなく、義理の父はA子さんを溺愛した。姉がいたのだが、姉よりも自分を愛してくれたのだ。

しかし二人の折り合いはある時期からわるくなり、離婚で別れる際にA子さんはそのお守りを母親からもらった。母親は、高校の頃病気でなくなったが、小さいころは一緒に幽霊をみたり、父の影や父のだしているだろう物音、ラップ音を家の中できいたりして、二人で笑いあったいい思い出しかなかった。

退院したあと、A子さんはまず姉に連絡をとった。姉は母にひきとられ、遠くで暮らし始めてからは年に数回会う程度だ、電話で連絡し、そしてあったことをすべて説明したのだ。
「……そうかあ、そのお守り、お守りじゃなかったのかもねえ、影はお守りをさけたというより、そこからでてきたから、そうみえたのね、その影っていうのも、お母さんだったかも」
「え?どういう事」
「あなたのお母さん、あなたを恨みながら死んだじゃない、離婚した原因も、あなたを小さなころから二人でかわいがっておめかししたりして、義父が段々自分にかまわなくなったからって、まあ、小さな嫉妬だったようね……それでも、母さんさみしがりやだったから、別れるときも恨みをこめてそのお守りを渡したのかも」

その話をきいたあと、Bさんに連絡をとった。
「ねえ、B子ちゃん、私についていたものがみえていたの?」
「うん、女の人の霊、A子ちゃんがいつも握りしめてるこのお守りの中から、うらめしそうにずっとみてた、そのお守りの中はきっとその人のツメと髪の毛が入っているわ」
 話をきくと人相やホクロの位置が、母親の特徴にそっくりだった。
「どうしていってくれなかったの」
「だって、信じてくれないとおもったし、たしかにあなたのほうがはっきり幽霊が見えているはずなのに、どうしてあの女の人だけ見えないんだろうって」
「なるほどね」
 そうだ。よく考えれば離婚の原因を自分はどこかで気づいていたのかもしれない。でも気づかないふりをしていた。だから影が、母親の姿だとわからなかったのだ。

やがてA子さんはお守りをお焚き上げした。A子さんとB子さんは、お互い知らない世界を知る仲としてそれまで以上になかよくなったようだ。
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