ある芸術家

ショー・ケン

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ある芸術家

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 その人は変わった画家で、一癖も二癖もある人間だった。というより悪癖の方が多い。女癖は悪いし、酒癖も悪いし、嘘もよくつく。それでも人から良く好かれていた。特に芸術方面の人だ。

 いくつかのインタビュアーが彼にそのことを尋ねたが、彼は中々口を割らず、最近ようやく話しをしたのだ。
「まあ、私の重要な記憶の一部を彼らに分け与えているからな」

 その時代には脳の一部を機械化する人々がぽつぽつ出始めていて、記憶もデータ化し、取引に使われることもあった。特に芸術家によってその技術は重宝されていた。というのも蓄えられる知識に“言語で伝えられるもの”を超越したものがあるのが芸術だ。いわば、センス。それを師から弟子に受け継ぐのが一番苦労するのが芸術の分野だろう、彼はその一部のデータ、記憶をやすやすと人に分け与えているという。ほとんど無償で。

 彼をよく知る人物が、その真相を別のインタビューで話した。
「彼は“脳の機械化”をする前には、ひどいスランプにあった、若い芸術家や才能のない人間は、人から“才能や能力を受け継ぐ”ことを望むが彼の場合は違う、まったくもって逆なのだ、彼は恵まれた才能を持ちすぎていたため、意欲のほうが縮こまり、何をみても食指が動かない、かつ才能というのは、何かが欠けてこそ、強みと弱みがあってこそ、ようやくエッジがきいて、能力を発揮するのだ、彼の受け売りだがね」

 やがて彼は、老齢になり、記憶のほとんどを他人に受け渡した。それでも彼は外見上、普通の人とかわりはなかった。記憶のほとんどを渡しても、彼の悪癖が止まぬという事は、もはや遺伝的な問題なのだろうか、そうして、彼はある種哀れみや同情を集めているのだという。まあ、もっとも、重要な記憶、日常生活や私生活といったものには、手を付けていないのだが。
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