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超能力者・パラレルワールドの住人

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 僕には、ある方法をつかい、パラレルワールドに行く事のできる同じ学生(高校生)の友達がいる。いわば超能力者だ。他人は信じないだろうけど、確かにそれはおこっていて、ある日確かに昔からあったホクロの位置がずれていたり、クセや何かがちがっていたり、記憶の行き違いがあったり、別の世界の流行を話したりする。確かにそれだけでは証拠として薄いが、僕には確信がある。雰囲気やキャラクターが全く違うからだ。それもこれも、子供の頃僕がいいだした、都市伝説でよくあるタイプの"異世界に行く方法"そのひとつを二人で実行してしまったことが原因だと彼はいう。そもそもガキ大将肌だったあの頃の僕は一種のカリスマ性と権限をもっていたし、何でも人に命令した。その事自体は強制的だ、その罪悪感があって、僕はもし彼がただおかしくなったのだとしても"彼の言葉を信用"し、彼の役に立つことを何でもやろうと考えている。
 だが彼のいうことには難しいこともたくさんある。それがなりきりや思い込みだとしても、彼が異世界にいくときは戻ってこられない、つまり、彼が転移する度に僕は転移してきた別世界の新しい彼と対峙することになるのだ。パラドクスの影響なのか、つまりこの次元にいる彼が移動するとその次元にいた彼もこちらに来るのだ。そのたび僕は新しい彼と関係を築きなおさなければならない。

 彼についての逸話はいくつもあるが、それでも一番心に来たものを話そう。その事実にふれ、僕は後悔と深い悲しみに暮れた。それまで、"ほとんどの彼"は、僕に向けて楽しい話ばかりしていたし、その超能力を使うことで起きた面白い事の話ばかりをしていた。だから僕はおもっていた。
 "なんだかんだ言いながら、運命を操り、自分の好きな世界にいくことのできる最強の能力じゃないか、芸能人と結婚できる次元があったり、大金持ちになる次元があるのだろう?"
 彼は笑った、だから否定しないということはそうだと思った、だがその幻想が打ち砕かれることがおきた。

 あるとき、ひときわ暗い彼が現れた時のことだ、"いつもの元気はどうした""今度の休日遊びに行こう"”なあ、今日は俺の家でゲームをしないか”“今度学校帰りにうまいものを食べに行こう”どんなに誘っても彼は悲しい顔をするだけ、何かを塞ぎこんで絶望しているようだった。そして今度はモードをかえ、あるとき放課後に僕の家にまねき、彼の悲しみによりそって"何があった、苦しい事があるなら僕に話してみろ"といった。すると彼は言う
「俺の恋人が死んだんだ」
「恋人?お前そんなのいないじゃないか……」
「俺の次元にはいた」
「あ……」
 僕はおもった。もしかしたら、彼は“望まずに転移してきた”のではないかと、つまりそういう事もありえるのではないかと、この次元の彼が望んでいても、向こう側が望んでいない事もあり得るかもしれない。だがそれをいうと彼はいった。
「そんな“事故”はありえない、転移を望む次元同士でしか、転移はおこらない、俺は確かに望んだんだ、今の悲しみから解放されることを、恋人が生きている次元に転送されることを……お前は驚くだろうが、その子は俺たちと同じクラスのマドンナのA子さ、彼女は、この次元では確かに生きているよな?この次元では付き合っていないが、昨日告白したらOKされた」
 僕は喜び勇み彼の肩をたたいた。
「おお!!よかったじゃないか、じゃあ何を悲しむことがある」
 正直嫉妬にも似たものがあったが、親友の悲しみが晴れることに比べればなんてことはなかった。
「……転移した彼、俺のことさ、よく考えたんだ」
「あ……奴の事を心配しているのか?でもまだ付き合っていないし、A子が死んで悲しいのは奴だけじゃないだろ」
「いや……あっちでは俺の母も死んでいる……ここは確かにまだいい方だ、だが俺たちは移動を繰り返し続けているから……そうだ、もっとわかりやすく話そう……君は俺や俺たちが俺が幸福な次元に移動してばかりいるとおもっているだろう、だけど、俺は、俺たちはそういうわけにはいかないんだ、俺たちの心の在り方のせいか、俺たちは“転移能力をもつ自分自身に同情している”、同情しながら、入れ替わる事を念じたもの同士が、転移するのさ、つまりお互いの事を気に掛ける人間どうし、ある程度辛い事を経験した相手のいる次元にしか移動できない、なぜなら……不幸を経験して別の世界に行きたい、そういう奴ら同士でしか、世界を変えたいと思わないからだ、すでに幸福な人間は、それを手放したくないし、不幸な人間だって、幸福な人間を不幸にしたくないと考える、“全次元の俺”がそうなんだ、だから俺たちは不幸の螺旋を下り続ける、入れ替わり続ける、そして、俺と入れ替わった奴も不幸に……よく考えてもみろ、最後には、絶望や死がまっているだろう、どこかで入れ替わりは止めた方がいいのかもしれない」
「じゃあ、お前はずっとここにいろよ」
 そういうと、彼は言った。
「死よりも深い苦しみや絶望があるんだ、それは"代り映えのしない日常"ってやつさ」
 僕はぞっとした。彼は、悲しみにくれながらニヤリとわらっていた。
「俺は、もともと彼女と別れた次元からやってきたんだ、別れをつげたのは俺のほうさ、愛し合う事に退屈してさ、けど、俺が生まれた次元は、モラルや倫理観の厳しい世界だったんだ、浮気をしようものなら、まともな社会生活は遅れず、別れを告げたときには、彼女は別れるなら死ぬといいだしてな……、まあ俺をうらやもうが、失望しようがお前の勝手さ」
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