脅迫恐怖症

ショー・ケン

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 その少女は常に怯えていた。というのも彼女の怯えは自分に対する怯えだ。いわば、おびえることに怯えているような不思議なものだった。一体何にそんなに怯えているのだ?と父や母が尋ねても、怖いのだからしょうがないというばかり、だが、彼女が怖れを恐れるようになって悪い事ばかりじゃなかった。

 元来その少女は無気力に悩まされ、あらゆる刺激に鈍感だった。それがあるとき“怖れ”をしってから、勉強、趣味、他人とのコミュニケーションをうまくとれるようになったのだ。だがその反面“怖れを恐れる”ことへの恐怖は彼女の不安を強くし、彼女は一種の精神病になってしまった。

 そこで、彼女の両親はあらゆる医者にあたった。脳神経外科医、精神科医、あらゆる内科医。しかし、いかに有名な医者たちをたよりにしても、結果は芳しくないものだった。そこで、両親はある〝闇医者〟を頼ることにした。とてもグレーな医療もするが、もともと正式な医師で、腕は確からしい。

 医者は、すぐに彼女の原因をつきとめ、彼女の不安を、最先端の技術で取り除いた。しかしそれはサイボーグ化技術をもちいたものだった。彼女は言い知れぬ名もない怖れがおそったとき、後頭部の下、首筋のスイッチをおすだけで、それをしばらく制御できるようになった。
 そして彼女の精神病はしだいによくなっていった。暫くの間何も問題はおこらなかった。

 しかし、問題は水面下、別の場所で起こった。医者は黙っていたが、その“怖れを怖れる”現象は別の人間に伝染したのだ、実は……闇医者に伝染した。だが医者は黙っていた。なぜなら、それは“贖罪”だと思ったから。医者は実はかつて国にやとわれていて、時折現れる超能力者を実験していた。そしてそうした超能力者が将来どうなるか、つまり国のモルモットになることをしっていて、国に報告をしていたのだ。その暮らしが嫌になり、闇医者となり、そうした人間の相談にのっていった。だが彼も次第に病んでいき、ノイローゼのようになっていった。

 
 その後の経過。彼女にサイボーグ化を施した医師。何の問題もなく実験の経過は進んだが、彼女は時折、自分でその恐れをとめるスイッチを押さずにいた。医者が尋ねる。その寝不足でひどいクマのある目で。
「きみはおっくうでそうしているのかい?薬をのまない患者がいるように、君は自分の恐れをきにいってしまったのかい」
「いいえ、とんでもありません」
「じゃあなぜ、怖れを時々あえて感じるようなことをするのだ、怖れを感じているのに、スイッチをいれない時があるじゃないか」
「もし、私がこの“真実”をいって、私の“能力”について話して、先生や社会の実験台、モルモットになる事を恐れているからです、でも怖れがあるという事は、これは先生になら話しても構わないのでしょうね」
「いったいどういう事なんだ」
「これは、ある種の“虫の知らせ”のようなもの、あるいは“予知能力”であるといったほうがいいかもしれません、私はいくつもノートをつけ、あらゆるパターンで“私の恐れ”を分析しました、本来人が物事を恐れるときは、野生からの習慣で、危険を察知したときです、でも私はそういうわけではなかった、だから逆に考えた、たとえば、人間が十分な食料をへたとき、肥満がうまれたように、これは人間の予知能力、危険察知能力の余剰の結果なのだと。逆転の結果、つまり私にとって未来があまりに“安全”な時に、この怖れは作動するのではないかと、事実私の恐れはあまりに退屈なのです、私が恐れていること自体を恐れているのですから、ですが私があるものに怖れを感じたとき、必ずその物事やその時、その選択の結果は比較的温和で安全なものになるのです、私は未来を予知したいとき、このスイッチをおさず、“怖れを恐れる”ことに耐えるのです」

 医者は納得した。というのも、今まで黙っていたが、医者に伝染した“怖れ”はそれ以上他人に広がることがなかった。医者の恐れは“この患者を自分が裏切るかもしれない”という恐れそのものだったが、医者は今の今まで、その患者をうらぎらなかった、その患者はいった。
「やはり、あなたに危険を脅かされる怖れはありません、なぜならこんなにも“理由のない怖れ”が私を襲うのですから、あなたはいい先生です、これからもよろしくお願いします」
 やがて二人は数年後に結婚した。医者は償いのために“怖れ”を供給してくれる彼女を必要として、彼女は贖罪を全うする自分を何よりも安心させてくれるが、彼女もまた、“刺激的な怖れ”をくれる医者を必要としたのだった。
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