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逆走

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 エラグの足は自然と走り出していた。これまでやっとの思いで走りぬいてきたのに。今までの失敗や、逃亡や、恥ずかしい記憶が走馬灯のように頭の中を走っていく。それでも、やり遂げなければいけない事がある、そう思えた。
「くそ……くそ……」
 件の広場にたどり着くと、いまゴブリンたちが、あの女性を丸焼きにしようとしているところだった。
 エラグは叫んだ。
「うおおおおおお!!!食べるなら、俺をたべろおおおおお!!」
 そしてその時やっと、自分が何の武器も持っておらず、作もない事に気づいた。ゴブリンはしばらく声のした方向を探る。だが、何もないのをさっして、混乱しているようだった。
「よくやった、そのまま周囲を走り回り、叫んでかき回せ……」
 背後から声がした。なぜかその声を信じていい気がしたエラグは、いわれるがままに走り出し、大声をだして引っ掻き回した。
「怖れることはない、幸運に恵まれるという事は……それだけで“才能”なのだ、今までの君は今日死ぬ、これからの君は……誇り高き“英雄”になるだろう」
 引っ掻き回しながら、その閃光のような影をみた。金色の髪に金色の瞳、銀色の鎧。さぞや名のある冒険者なのだろう。一瞬にして一人、また一人とゴブリンたちを切り裂くと、その場を一方的な殺戮の場としてしまった。ゴブリンの中には逃げ惑うものもいたし、恐ろしくて体を縮めているものもいた。そのすべてを“処理”するとようやくその人影は、姿を現した。
 美しいウェーブがかった髪、凛々しくどこか中性的な女性。しっかりと見据えられた瞳が自分をみると、身震いするような気持ちになった。これが本当の“冒険者”きっと、Sランク冒険者だろう。そんなオーラがあった。

「サーシャ!!」
 そう呼んだのは今の今までゴブリンにとらわれていたあの肌着の女性だ。思わず目をそらす。
「ふっ……エリンを助けてくれてありがとう、仲間が襲われ、離れ離れになって困っていたのだ……あまりにゴブリンの数が多く助けをよびにギルドに向かう途中で……さらわれた仲間の一人をこうして救出できた、君の名前は……」
 エラグは広場の中央で自分を指さし、俺?とジェスチャーを送った
「そうだ」
 ニコッとサーシャは笑う。思わずエラグも笑い答えた。
「俺はエラグ」
 そういうと意外そうな顔をして目を丸くしたが、彼女はいった。
「君は急いで逃げるといい、そしてギルドに救援を、私は……はぐれた仲間をさがそう、君はどうしてここに?」
「仲間と一緒に……でもはぐれて」
「かわいそうに……仲間の位置をおしえてくれるかい、私が助けにいくよ」
 そういわれ紙とペンをわたされ、エラグはその二人とはぐれ、今度こそ、村に戻るのだった。
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