虚ろ青年、水の巫女に転生する

ショー・ケン

文字の大きさ
13 / 29
第一章 スキル授与

急変

しおりを挟む
「急げエエエ!!!何も考えずに走れエエエ!!!」
 柄にもなく、エイブスは叫んだ。

 それもそのはずだ。ヘリオの背後には3匹ほどの、こちらで見たよりも巨大な、大人の馬ほどある背丈の“ケルピー”が追いかけてきていたから。非情にまずいと思った。瞬時に近づく手がない。ふとケローネに目を向ける。口をあけ、冷や汗をかき、目を見開いている。
(仕事とはいえ、年端のいかない少女をこんな目に合わせるなんて、何度やってもなれない)
 そうして、逡巡する。
(“アレ”を使うか、迷っている暇もない)
 エイブスは右腕の前腕をおおう鎧に手をかけようとした。

 その時だった!。瞬間的に、何かを決意したように、ヘリオは後ろを振り返ると、ケルピー三体をすばやい身のかわしで相手の攻撃(水の魔弾、ひっかき、くみつき)をよけながら、細長い剣で、一体ずつ串刺しにしたのだ。

 剣を引き抜いて、わけもなげに、ヘリオはいった。
「はあ、暗くて……死んじゃうかと思った」
 エイブスは口をあんぐりとあけ、ヘリオに近づいていった。
「お前……いったいどうして……まだ“祝福の儀式”を終えたばかりの子供が……あの強敵をそんな……ハッ!!」
 エイブスは驚いた。間違いない。ヘリオの背後に黒い靄が見える。これは“印”だった。
 
 その脇を、エイブスより早く素早いものが駆け抜けていった。ケローネだ。ヘリオを抱きしめると、涙を流した。ヘリオは、驚き、しかし安堵させるようにやさしい笑みを浮かべ、ケローネの頭をなでた。
「大丈夫だよ、ケローネ……」

【――“英霊の邪魔をするものを、殺すべし”】
 エイブスは背中に恐ろしい殺気を感じる、振り返るより先に叫んだ。
「散れ!!!散れええ!!!!」
 しかし、時すでに遅し、冒険者の一人が軽々と吹き飛ばされる。そこには、3メートルはゆうにありそうな巨大なケルピーが立っていた。

「“守護使者”だ!!皆、逃げろ!生存確率を少しでもあげろ!!」
 慌てて訳も分からず、クドウは冒険者の言う通りに叫んだ。
「逃げろ、逃げろ!!いいから!!」
 散り散りになる冒険者。エイブスは、ケローネとヘリオを庇うように、左肩上で剣を構えた。
「刺し違えても、やる――だが」
 エイブスは後ろに目をやると、目端で訴えた。
「お前たちは、逃げろ……ここは俺に任せて……」
 ヘリオはエイブスの背中からぞっとする黒い靄が立ち上っているのを感じた。ヘリオが粘っていると、ケローネがいった。
「ヘリオ!!急ぐぞ、私もほとんどまともな術をもっていない、早く!!」
 ぐいぐいと手を引っ張られるので、仕方なくヘリオは、ケローネについて全力で走ったのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...