ホラー短編集

ショー・ケン

文字の大きさ
66 / 68

開けたら閉めろ

しおりを挟む
母は失敗を認めない人だった。厳格な家庭で育ち祖父は公務員で、母は、看護師をしていた。

開けたら閉めろ。
そういわれてたっけ。裕福な家に生まれて、母親は過干渉で友人さえ選別をした。父は無関心。
母親がはまっている新興宗教の関係で、風水とかが関係あるとか、ともかく開いてるものは全て閉じなければいけなかった。扉、タンス、キャップのボトル、全てそう。

心、しかし芸術の才能があって、まさか母親に芸術大学の受験を許されるとは思わなかったが。
ライバルと競い合い、結束を深める日々。あの時初めて、そして生涯で最後と思える自由をしった。
開けたら閉める。

誰かから心や感情のここからここまでがお前のスペースだという強要をされていた気がする。社会人になってからもそうだ。デザイナーをやる傍らで、個展を開いたりもした。漫画をかいたりも、でも学生時代のようにはうまくいかなかった。

そんな時、大学時代の友人と出会った。開けたら閉めろ。開かれた心、扉。
でも、青春のあのとき、すでに僕は有名な画家や展覧会に声をかけられていたけれど、自分が心を開いたと思っていたけれど、実際どうだったのか、覚えがないんだ。家に帰ると憂鬱になり、記憶がない。

開ける、閉める。母親が死んだのと、自分の能力が評価されたのはどちらが先だったっけ。
開けたら閉める。

タンスが開いているのをみた。今は一人暮らし、母親がいるわけもなく、父ともほとんど連絡を取らない。閉めるまでもないだろう。

妙なことだ。学生時代の友人と出会ってからそれまで順風満帆だったものが、全てうまくいかなくなった。ああそうだ。あの友人は母親ににていた。尻軽で、自分にはつめたく他の男に媚びを売る。母親は僕が小学生の頃に離婚、再婚をした。

閉める?何もかもうまくいかないならば、閉めてしまえばいい。
腐敗臭のする家、そんなわけはない。でもしっている、記憶はいつも腐敗している。母親の笑顔は、狂気の合図だ。腕の下で皮膚をつねるのが趣味。

開いていた。
タンスの中から母親がのぞいていた。僕は学生時代の僕の死体をそこに投げ込んだ。そして閉じた。
また順風満帆な生活に戻った。ああそうか。母親が死んだから、学生時代の友人がなくなったから、だからうまくいったんだ。学生時代の個展も、今日この日の個展も、ここまで地味な自分が頑張れるのも、開けて、閉めたからだった。

記憶を閉じる必要はあるけど、記憶は腐っているから、閉じなければいけない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

処理中です...