呆然自失のアンドロイドドール

ショー・ケン

文字の大きさ
8 / 8

帰宅の途

しおりを挟む
 それからウェロウはそこを後にした。だが、職場にあるもの―思い出の写真を忘れたことを思い出してとりに帰ろうとした。それが彼女の決意と決心を後押ししてくれる気がしたのだ。ずいぶん―気が重かったが。
 その道中、彼女は大通りをあるいていた。気が緩んでいたのだろうか、周囲を見渡す気力もなかったのだろうか、あるいは彼女の中の迷いがそうさせたのかもしれない。バッグを抱える手が緩んでいた。
〝ドサッ〟
「ちょっと!!」
 初めは、それはただ単に他人に肩をぶつけられたのだと思った。だが次の瞬間、するりと抜けるバッグと不自然な軽さに咄嗟に後ろを振り返る。
「泥棒!!!捕まえて!!」
 全速力で走りだすウェロウ。彼女のバッグを盗んだのは帽子とジャンパーをはおった若い青い髪の男だった。
「まって!!大事なものが入っているの、大事な……ものが」
 そこで息切れして立ち止まる。
(大事なもの?……彼の記憶のはいったスマホや、写真たち……でも今の私にとってそれは本当に……)
 ひざをつき地面をみていると、直ぐ傍のストリートミュージシャンらしきいでたちでウェーブのかかった長髪の若い男に話かけられた。
「大丈夫ですか?すぐそこに警察がいますよ」
「!?」
「あ、あの、息が……お願いします」
 意図を組んでくれたその男が、警察によびかける。遠目には黒人警官らしい事はわかった。
「へい!!そこの警察官!!ポリス!!!」
 事情を説明すると即座に警察は走り出した。ウェロウはその警官の顔を見る余裕もなかった、息切れをととのえて、姿勢をかえたりしていたのだ。しばらくして、若い男とベンチで座ってまっていると、さきほどの警官が汗をながして、見覚えのあるバッグを手に持っていた。
「大丈夫ですか、レディ、ものは取り返しましたよ」
「……!!?」
 ウェロウは一瞬目を疑った。相手もその動作と、ウェロウの顔立ちをみてはっとしたらしい。
「あれ?あなたは……もしかして、ウェロウ?」
「見違えたわ、ホビオ」
 ホビオは元同僚だ、正義感がとてもつよく、普段はお調子者。彼女が警察をやめたあと昇進したが、正義感が強くあまりにそれが上司の気に障ったので警部補という大事な役職を下ろされたと聞いた。とても頭がよく、同年代の中でもっともすぐれた成績だったが融通が利かない所はあった。
「まさかこんなところであうなんて、少しだけ話せない?」
「あ、ああ昼休憩がもう少しだ、ちょっとまっててくれ、相棒に伝えてくる」
 ホビオもうれしそうにジャンプをしながら、傍らで犯人を捕まえていた同僚に話にいった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
過去に戻って恋愛をやり直そうとした男が恋愛する相手の女性になってしまった物語

処理中です...