死神取引

ショー・ケン

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死神取引

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ある青年、大病を患い死期が近い。病院で死期が近い人間をみるとその人間の背後に黒い影をみるようになった。死が近ければ近いほどそれは色濃く、死神の姿形になる。

そうして人のものばかり見ているうちに、彼もまた、体が動かせなくなり死神がまとわりつくことになった。彼に身よりはなく、かつ恋人にも死ぬときを見ないでくれときつくいってあるので、誰も病室には来なかった。

【……の前】
(……?)
【前に……】
(??)
 体が動かせなくなってから、耳元で声が響く、それもあの死神が自分に顔を近づけたとき。あるとき、それははっきりと聞こえた。
【死の前に……何か願いはあるか?ただ一つだけ叶えよう】
 死神はその後、3日間の間一度だけお前が一言発する力を与えるといってさった。青年は、その日からじっとふと考えた。しかしいくら考えても、考えつくのは一つの事だけだった。そして3日目の夜、死神につげた。

「恋人に幸せが訪れるように」

 そして、彼は死んだ。

それから、彼の“恋人”は新しい恋人をつくった。といっても、彼の“恋人”は彼の事をもともと“恋人”などとは思っていなかったのである。そもそもが、男性恐怖症だったその女性は、かねてからある男に付きまとわれ困っていた。その男こそその青年だった。同じ大学に通う二人だったが、いつも青年が自分の前にでてきて、そのまま何もいわずに立ち去っていくので、おびえていたのだ。

その青年が死んだと聞き安心していたところ、なぜか自分に男性恐怖症の症状が消えていることにきづいた。それから、なぜか気さくに話しかけてくれた別の青年と恋におちて、結婚した。

死んだ青年は、知らなかった。その結婚相手の青年が、人込みの中、あのとき話しかけられずにいた青年、青年を背中をおし、何度となく彼女にぶつけようとした犯人だったこと。

死んだ青年が入院していたころ、時折一人の見舞い人がきた。それが件の青年だった。意思が朧気な彼に、暗示術をかけた。
「お前は……彼女と付き合っている、いいか?」
「俺は……彼女と、つきあっている?……」
「覚えたか?」
「確かに、そんな気がしてきた……」
 そして青年は、彼に黒魔術をかけ、こういった。
「この数週間後に、お前は死神が見えるようになる……俺がそう用意しておいた、身よりも何もなく、才能も能力もないお前に、俺がひとつだけ、チャンスを用意しておいてやる……“彼女の幸福を願え”そうすれば、死神は答える、彼女の欠点は一つだけだ、そうだろう?“男性恐怖症”だ」
 そういって、何度も刷り込み、彼は死んだ青年を利用し、やがて彼女を手に入れたのだった。

 なぜこの男があの“死神”の能力をしっていたかどうか。彼は子供の頃、生まれついての病にくるしんでおり、高校生の時分にはかつて死にそうなほどの闘病生活をおくっており、あるとき死神が現れ死を覚悟した。そして願いを一つかなえてもらったのだ。その願いとは“闘病によって自分を見放した恋人が不幸な目にあいますように”そして、その頃彼を捨て新しい恋人をつくっていた元恋人は不幸にも事故で即死した。

 やがて彼はこの世界への復讐を誓い、死に行く人間を見て、利用してほしいものを手に入れるようになった。彼の背中には地獄の鬼や、死神や、彼が殺した死霊がまとわりついているのを彼はしっている。彼は死後地獄の苦しみに襲われるだろう。それでもかまわないのだ。彼が生きるうちに受けた種々の苦しみに比べれば大したことはないのだ。
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