割り込み禁止

ショー・ケン

文字の大きさ
1 / 1

割り込み禁止。

しおりを挟む
 男は一貫して優れたタスク処理能力をもっていた、しかしマルチタスクは苦手だったので、男はあらゆるタスクを整理したかった。仕事、趣味、友人関係。つまり、男の望むように。だが周囲はそんな男のわがままを最後まで聞いていた。男にはある種の魅力があったのは確かだったから。彼が本気をだすと、すさまじい集中力と才能と知恵を発揮した。

 しかしそれでも、中年になると男の心のわがままは度が過ぎていた。ちょっとしたことでひとのする事なすことが気になる。音、匂い、話しかけられること、まぬけな人間の介入。偉そうで仕事のできない上司。そうした時に趣味である副業の絵画の創作に支障が出たりもする。仕事だってそうだ。彼は一流のサラリーマンであったが、少しても他人に下手な干渉をうけると、いら立ってどうにもできなくなる。私生活、友人との関係もそうだった。彼には彼を気遣うものも多かった。彼はお金にはおおらかだったから。それでも、彼は究極にまでタスクを整理したかった。妙な物音、匂い、変なタイミングの話しかけや用事のいいつけ、自分より頭の悪いタスクの介入……etc。
 そうして男は決心した。
「またな」
「元気でね」
「私たちの子孫によろしくね」
 男は、友人や職場にことわりをいれて、仕事やら何やらをほっぽりだし整理して、皆と別れを告げることにした。昨今話題のコールドスリープだ。体や体の一部を冷凍し、未来の技術で解凍し、蘇生をしてもらうもの。その国の福祉制度では、どうしても現実に耐えきれなかったとき未来にその身を託すという事で、追い詰められた人間のある種の“安楽死精度”に近いものとして推奨されていた。その分、お金の負担はそこそこかかるが。
 男は安心して眠りについた。未来でなら、なるべく干渉を受けずにすむ。

 そして男は、未来の地におりたった。元居た世界から100年後だった。
「あの」
 直立するカプセル男からおりたったはまずおどろいた。男を起こしたもの、コールドスリープ企業の従業員がほとんど男に説明をせずに、何かノート型の端末をみて、マニュアルを渡してどこぞに消えた。
「なるほど、これはいいぞ」
 そして街行くとその風景もまったくすぐれたものだった。人々はほとんど会話などしない、他人に干渉しない。それでも、男は施設で渡されたノート型の携帯端末で自分の個人情報が登録されていることと、それにより、生活の心配はすべて、国から支給されるこの端末を通して国の機関とやりとりできることをしった。最悪の場合、保護もうけられる。男は安心して仕事を探して、好い職場を探した。そこは全く優れた人間しかいない企業で、あとからきくとその職場の職員ほとんどがロボットだったらしいがそれでも男はそのような事は一切気にしなかった。

 だが彼は気にしなくても周囲は気にしていた。彼の住むアパートの住民、職場の人、近所の人。彼のだす音、匂い、無駄に話しかけられることを。この時代、彼のいた時代より衛生状況が異常なほど高く、人々のマナーも異常に高かったのだ。彼は、この未来がとても人間関係が希薄なものだとしっていたが、それが便利な端末によるものだろうとおもっていた。だが違うのだ。彼は明らかに人に、ロボットに避けられている。その理由が、しばらくしてわかった。
「なんてことだ……」
 創作活動が、一切すすまず、下手な絵しか描けない。かつ仕事の成績もとても悪いものになっている。彼は、悩みに悩み、悩みすぎて不眠症になったが、それでも悩みどうにかその頭で原因をつきとめた。
「ああ、そうか、俺には“ノイズ”無駄だと思っていた人間関係や友人が介入する事、無駄に思えたタスクが実は必要だったのだ、思えば彼らが介入するたびに、俺はいいインスピレーションやアイデアに恵まれたのだ」
 だが気づいた時には遅かった。個人主義であり、人との関係が希薄なその時代において、彼が人と関わろうとしても人は避けていく一方で、どれだけ工夫しようとも、人との距離は縮まらなかったのだ。恋人をつくろうとしても、友人をつくろうとしても、彼らにはすでにそういう人がおり、彼の事を必要としない。彼は絶望した。そして今更後悔した。彼らも、自分が邪険にしたかれらも、もしやこんな気持ちだったのかもしれない。男は芸術にすがった。いつかこの自省の想いを現した芸術を見て、自分を救ってくれる人が現れるはず。しかしそれはいつまでも現れず、男はどんどんと年をとっていった。


 実は、彼の親戚の子孫、友人の子孫などは生きていた。だが、彼と関わることをきらった。しかし、それでも男にかかわろうとするものはいなかった。そもそも、未来に行く以前の話にもどるが、彼は確かに優秀だがハラスメントがすごかった。といっても目に見えたものではない。彼が口にする独り言に皆が皆気を使っていたのだ。彼は自分の独り言に気が付いていなかったが、知らずにハラスメントを行って周囲から本心では嫌われていた。
「ああ、腹立つ、ノロマ野郎め」
「なんか、ちょっと匂うな」
「偉そうに俺様に文句をいいやがって」
「不細工な野郎だ、心も体もな」
「音を出さずに歩けないのか、まるで人間の形をしたハエだな」
 ほんのわずかに気に食わないことがあるだけでそうだった。だから友人や彼の子孫などは彼と関わろうとしないのだ。つまり悪評だけが受け継がれていたため。
「あの男は、人と関わると、その人間と関係者の関係をめちゃくちゃに破壊してしまう男なのだ」
 としてその時代には、そういう男だとして子孫たちに有名だったのだ。
「まあ、触らぬ神にたたりなしだ」
 そうして初めから彼らは彼と関わらなかったため、老衰で孤独死するまで、彼は生涯一人だったという。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...