割り込み禁止

ショー・ケン

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 男は一貫して優れたタスク処理能力をもっていた、しかしマルチタスクは苦手だったので、男はあらゆるタスクを整理したかった。仕事、趣味、友人関係。つまり、男の望むように。だが周囲はそんな男のわがままを最後まで聞いていた。男にはある種の魅力があったのは確かだったから。彼が本気をだすと、すさまじい集中力と才能と知恵を発揮した。

 しかしそれでも、中年になると男の心のわがままは度が過ぎていた。ちょっとしたことでひとのする事なすことが気になる。音、匂い、話しかけられること、まぬけな人間の介入。偉そうで仕事のできない上司。そうした時に趣味である副業の絵画の創作に支障が出たりもする。仕事だってそうだ。彼は一流のサラリーマンであったが、少しても他人に下手な干渉をうけると、いら立ってどうにもできなくなる。私生活、友人との関係もそうだった。彼には彼を気遣うものも多かった。彼はお金にはおおらかだったから。それでも、彼は究極にまでタスクを整理したかった。妙な物音、匂い、変なタイミングの話しかけや用事のいいつけ、自分より頭の悪いタスクの介入……etc。
 そうして男は決心した。
「またな」
「元気でね」
「私たちの子孫によろしくね」
 男は、友人や職場にことわりをいれて、仕事やら何やらをほっぽりだし整理して、皆と別れを告げることにした。昨今話題のコールドスリープだ。体や体の一部を冷凍し、未来の技術で解凍し、蘇生をしてもらうもの。その国の福祉制度では、どうしても現実に耐えきれなかったとき未来にその身を託すという事で、追い詰められた人間のある種の“安楽死精度”に近いものとして推奨されていた。その分、お金の負担はそこそこかかるが。
 男は安心して眠りについた。未来でなら、なるべく干渉を受けずにすむ。

 そして男は、未来の地におりたった。元居た世界から100年後だった。
「あの」
 直立するカプセル男からおりたったはまずおどろいた。男を起こしたもの、コールドスリープ企業の従業員がほとんど男に説明をせずに、何かノート型の端末をみて、マニュアルを渡してどこぞに消えた。
「なるほど、これはいいぞ」
 そして街行くとその風景もまったくすぐれたものだった。人々はほとんど会話などしない、他人に干渉しない。それでも、男は施設で渡されたノート型の携帯端末で自分の個人情報が登録されていることと、それにより、生活の心配はすべて、国から支給されるこの端末を通して国の機関とやりとりできることをしった。最悪の場合、保護もうけられる。男は安心して仕事を探して、好い職場を探した。そこは全く優れた人間しかいない企業で、あとからきくとその職場の職員ほとんどがロボットだったらしいがそれでも男はそのような事は一切気にしなかった。

 だが彼は気にしなくても周囲は気にしていた。彼の住むアパートの住民、職場の人、近所の人。彼のだす音、匂い、無駄に話しかけられることを。この時代、彼のいた時代より衛生状況が異常なほど高く、人々のマナーも異常に高かったのだ。彼は、この未来がとても人間関係が希薄なものだとしっていたが、それが便利な端末によるものだろうとおもっていた。だが違うのだ。彼は明らかに人に、ロボットに避けられている。その理由が、しばらくしてわかった。
「なんてことだ……」
 創作活動が、一切すすまず、下手な絵しか描けない。かつ仕事の成績もとても悪いものになっている。彼は、悩みに悩み、悩みすぎて不眠症になったが、それでも悩みどうにかその頭で原因をつきとめた。
「ああ、そうか、俺には“ノイズ”無駄だと思っていた人間関係や友人が介入する事、無駄に思えたタスクが実は必要だったのだ、思えば彼らが介入するたびに、俺はいいインスピレーションやアイデアに恵まれたのだ」
 だが気づいた時には遅かった。個人主義であり、人との関係が希薄なその時代において、彼が人と関わろうとしても人は避けていく一方で、どれだけ工夫しようとも、人との距離は縮まらなかったのだ。恋人をつくろうとしても、友人をつくろうとしても、彼らにはすでにそういう人がおり、彼の事を必要としない。彼は絶望した。そして今更後悔した。彼らも、自分が邪険にしたかれらも、もしやこんな気持ちだったのかもしれない。男は芸術にすがった。いつかこの自省の想いを現した芸術を見て、自分を救ってくれる人が現れるはず。しかしそれはいつまでも現れず、男はどんどんと年をとっていった。


 実は、彼の親戚の子孫、友人の子孫などは生きていた。だが、彼と関わることをきらった。しかし、それでも男にかかわろうとするものはいなかった。そもそも、未来に行く以前の話にもどるが、彼は確かに優秀だがハラスメントがすごかった。といっても目に見えたものではない。彼が口にする独り言に皆が皆気を使っていたのだ。彼は自分の独り言に気が付いていなかったが、知らずにハラスメントを行って周囲から本心では嫌われていた。
「ああ、腹立つ、ノロマ野郎め」
「なんか、ちょっと匂うな」
「偉そうに俺様に文句をいいやがって」
「不細工な野郎だ、心も体もな」
「音を出さずに歩けないのか、まるで人間の形をしたハエだな」
 ほんのわずかに気に食わないことがあるだけでそうだった。だから友人や彼の子孫などは彼と関わろうとしないのだ。つまり悪評だけが受け継がれていたため。
「あの男は、人と関わると、その人間と関係者の関係をめちゃくちゃに破壊してしまう男なのだ」
 としてその時代には、そういう男だとして子孫たちに有名だったのだ。
「まあ、触らぬ神にたたりなしだ」
 そうして初めから彼らは彼と関わらなかったため、老衰で孤独死するまで、彼は生涯一人だったという。
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