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育成ゲーム
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ある記者。行きつけの飲み屋で、こんな与太話を盗み聞いた。一つとなりの席で男たちが話していたのだ。
「俺バーチャル配信者やってたよ」
「へえ、そうなの、いつ?」
「20年前」
60代くらいの初老の男性。相手も同い年くらい、二人組。
「ふう」
もうそれが珍しい時代ではない、誰でもメタバースに入ることができ、誰でも配信ができる時代だ。アバターも多種多様なものが無料配布されている。記者はため息をついた。だが話の続きが奇妙だった。
「視聴者なんていなかった、はなからそれが問題だったわけじゃないように思えるね」
「じゃあなんでやってたの?」
「さあ、なんでって、まあ、支払いがよかったからな、そのバイト」
「バイトでやってたの!?ちょっと、ヤバイ話なんじゃないの?詐欺とか」
「いや、ごく単純な事さ、カップルをつくって、そこで夫婦ごっこをしろって」
「夫婦ねえ、どこから金がでてるんだか」
少し酒をのむと、男は続ける。
「いやなあ、なんかアバターの赤ん坊を育てろって、育成ゲームだって、ただ夫婦の振りをして、赤ん坊を笑わすだけでいいんだ、だが、一人の赤ん坊じゃなかった、それにこっちも複数人じゃなかったし、入れ代わり立ち代わりでいろんな赤ん坊の世話をするんだ、そこそこ楽しかったよ」
「なるほどなあ、富豪のいたずらかなあ、それで金がもらえるんならいい話なんじゃないの」
「ああ、だが、妙にリアルな赤ん坊だったな、ただなくだけだったし、ホラ、赤ん坊は無関心が一番ストレスがたまるって聞いたことないか?……それでさ、こんな話もある、中世にあるローマ皇帝によって実験が行われたそうなんだ、50人ほどの赤ん坊を無関心のまま、ただ身の回り、衣食住の世話をするだけで、言葉を話しかけたり、目を合わせたりせずに、育てる実験をしたんだ、そしてどんな言葉をしゃべるのかってね」
「で?」
「その子供たちは、一歳の誕生日を迎える前にすべて死んだんだって、もしかしたらあの赤ん坊たち、本物だったかも」
その数週間後にその事件の概要はわかった。記者が男に掛け合い入念に調べたところ、それはある施設で、人手を介さず赤ん坊を育成する実験が行われていたという事。赤ん坊たちに小型のヘッドマウントディスプレイをつけ、雇ったバイトたちにメタバースを介して、愛情を与える世話をしてもらう、身の回りの世話はアンドロイドたちにさせて育てる。確かにそれは富豪の実験だったが、世間一般には明るみにはならなかった。何しろ子供は育ち、被害者がいないのだ。
さらに驚くべきことは、件の赤ん坊が、すでに成人して立派に育っていることである。記者はこの一見で様々な資料を調べたが、施設に関する情報は全自動で動くアンドロイドがいたことと、それによって赤ん坊が育てられたこと以外にでてこなかった。
全てが明らかになったあと記者は思った。
「けれど、そんな大金持ちなどいるのだろうか、この実験自体も限定的なものだし、もしかして国家ぐるみの……少子化に嘆くこの国で、もしかしてその改善策でも……」
そういえば、出生率が高い先進国は、結婚しないで子供を産む事もできるし、子供を育てる環境を充実させていると聞く、だがこの国は……若者を支援しないし、子育ての支援なんてほぼしてこなかった。若者に負担を押し付けるばかりだ。そんな事をするだろうか?記者はそれ以上考えるのをやめた。
その後、皮肉にも記者は新しい事実を知ることとなった。だがそれは世間に公表しなかった。つまり、ある時期に子供を産んだ富豪たちが一斉に“育児放棄”をして、効率的な子育てのために、件の施設を作ったという事だった。
「俺バーチャル配信者やってたよ」
「へえ、そうなの、いつ?」
「20年前」
60代くらいの初老の男性。相手も同い年くらい、二人組。
「ふう」
もうそれが珍しい時代ではない、誰でもメタバースに入ることができ、誰でも配信ができる時代だ。アバターも多種多様なものが無料配布されている。記者はため息をついた。だが話の続きが奇妙だった。
「視聴者なんていなかった、はなからそれが問題だったわけじゃないように思えるね」
「じゃあなんでやってたの?」
「さあ、なんでって、まあ、支払いがよかったからな、そのバイト」
「バイトでやってたの!?ちょっと、ヤバイ話なんじゃないの?詐欺とか」
「いや、ごく単純な事さ、カップルをつくって、そこで夫婦ごっこをしろって」
「夫婦ねえ、どこから金がでてるんだか」
少し酒をのむと、男は続ける。
「いやなあ、なんかアバターの赤ん坊を育てろって、育成ゲームだって、ただ夫婦の振りをして、赤ん坊を笑わすだけでいいんだ、だが、一人の赤ん坊じゃなかった、それにこっちも複数人じゃなかったし、入れ代わり立ち代わりでいろんな赤ん坊の世話をするんだ、そこそこ楽しかったよ」
「なるほどなあ、富豪のいたずらかなあ、それで金がもらえるんならいい話なんじゃないの」
「ああ、だが、妙にリアルな赤ん坊だったな、ただなくだけだったし、ホラ、赤ん坊は無関心が一番ストレスがたまるって聞いたことないか?……それでさ、こんな話もある、中世にあるローマ皇帝によって実験が行われたそうなんだ、50人ほどの赤ん坊を無関心のまま、ただ身の回り、衣食住の世話をするだけで、言葉を話しかけたり、目を合わせたりせずに、育てる実験をしたんだ、そしてどんな言葉をしゃべるのかってね」
「で?」
「その子供たちは、一歳の誕生日を迎える前にすべて死んだんだって、もしかしたらあの赤ん坊たち、本物だったかも」
その数週間後にその事件の概要はわかった。記者が男に掛け合い入念に調べたところ、それはある施設で、人手を介さず赤ん坊を育成する実験が行われていたという事。赤ん坊たちに小型のヘッドマウントディスプレイをつけ、雇ったバイトたちにメタバースを介して、愛情を与える世話をしてもらう、身の回りの世話はアンドロイドたちにさせて育てる。確かにそれは富豪の実験だったが、世間一般には明るみにはならなかった。何しろ子供は育ち、被害者がいないのだ。
さらに驚くべきことは、件の赤ん坊が、すでに成人して立派に育っていることである。記者はこの一見で様々な資料を調べたが、施設に関する情報は全自動で動くアンドロイドがいたことと、それによって赤ん坊が育てられたこと以外にでてこなかった。
全てが明らかになったあと記者は思った。
「けれど、そんな大金持ちなどいるのだろうか、この実験自体も限定的なものだし、もしかして国家ぐるみの……少子化に嘆くこの国で、もしかしてその改善策でも……」
そういえば、出生率が高い先進国は、結婚しないで子供を産む事もできるし、子供を育てる環境を充実させていると聞く、だがこの国は……若者を支援しないし、子育ての支援なんてほぼしてこなかった。若者に負担を押し付けるばかりだ。そんな事をするだろうか?記者はそれ以上考えるのをやめた。
その後、皮肉にも記者は新しい事実を知ることとなった。だがそれは世間に公表しなかった。つまり、ある時期に子供を産んだ富豪たちが一斉に“育児放棄”をして、効率的な子育てのために、件の施設を作ったという事だった。
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