悪臭

ショー・ケン

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悪臭

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 Aさんはある時から“幽霊”を見るようになってこまっていた。それは、同僚の幽霊だった。アラフォーを迎えるAさんの同僚のBさんは、彼女が幽霊をみるようになった数週間前になくなっていた。汗の匂いが臭くふとっていて、会社でも嫌われ者だったが、Aさんだけは、彼にも優しく接していた。彼の匂いは、彼自身工夫していてもどうにもならないものだと、知っていたのだ。なぜならAさんこそが、色々な方法や病院を相談しても、改善できなかったのだから。彼は“いじめを受けていた小学生の頃から、これがひどくなった”といっていた。霊能者いわく“霊的なにおい”だといわれたとか。

 Aさんは幽霊などは信じていなかったが、彼の“におい”が彼が死んだ以後、いたるところで感じられて、Bさんの事をいやになっていた。それどころじゃなく、何より一番いやだったのは、彼が夢にでてきて、ニコニコ笑うのだ。別に、親しいといっても、仲のいい友人といったレベルではなく、職場の気が合う同僚というくらい。正直、彼から好意があったとしても、どうにもならないだろう。

 何せ彼は自殺をしたらしいのだ。なぜ、私のところに現れるのか、Aさんはそれが疑問だった。
 通勤駅のホーム、会社の中、人込みでの歩道でそれはふいに感じられた。ただの匂いだし、もし耐えられなくなったら、お祓いにいこうとおもっていた。

 しかし、ある時からそれは耐えがたいものとなっていった。職場では、匂いが強くあらわれたとき、その方向をみると同僚が、首を抑えて倒れたり、通勤中、ふと強いにおいを感じたときに、となりのひとが線路にとびだして、恐ろしいものを目撃したり、“匂い”は徐々につよくなっていった。

 恐怖に耐えかねたAさんはとある霊媒師に相談を持ち掛けた。そこそこ高額の依頼になったが、背に腹話変えられない。霊媒師は、高級マンションの一室に居を構え、その一室で、仕事をしているようだった。奥の畳の一室にまねかれ、お祓いをされた。ものの10分でおわり、霊媒師はいった。
「邪なるものはすべて遠ざけられた、あなたに不幸は訪れぬだろう」
 ほっとして、家に帰る。

 チャットアプリで連絡がきていた。
「Cさん、食道ガンだって、初期だからなんとかなりそうだけど、大変ねえ」
 このCさんというのは、職場で喉をおさえて倒れた人である。匂いに耐えかねて喉を抑えたのかと思ったが違うのだろうか、しかしAさんは確信していた。“Bさんは死神になったのだ”。なぜならCさんは、Bさんをひどく嫌い、悪口をいったり、妙な根も葉もないうわさを流していたからだ。

 翌日、忙しい仕事を終えた。隣の席だったBさんがいない生活にもなれた。あの匂いは一切感じなかった。人込みの中、高層ビルのたちならぶ街を横切る。そして、ふと感じた。
“あの匂いだ”
 これまで一切その方向から感じたことはなかった。つまり、背後である。Aさんはかっとなり、幽霊でも関係ない、いい加減にしてほしいとひとこと叫ぼうとした。足を止めふりかえる。
「い!!!……」
 その瞬間である。背後、つまり進行方向ですさまじい音がした。
《ドサッ》
 振り返ると、人が倒れている。上をみあげる。人はいない、高層ビル。どう考えても、飛び降り自殺である。

「きゃああああ!!!」

 さんざんな目にあった。そして、家に帰った。落ち込みながら、スマホをいじっている。チャットアプリでのBさんとのやりとりがあった。
「僕は人を恨まない、それに、Aさんには感謝している」

 Bさんは悪い上司がついていて、時折パワハラのような目にもあっていた。Aさんは、何もできなかった。それにCさんの事もそうだ。けれど、今日の出来事はなんだったろう。あの時、飛び降り自殺が行われる直前、“におい”は自分を引き留めた。Aさんは誤解をしていたのだと思った。

「彼は嫌われていたけれど、決して人を恨んだりしなかった、優しく誠実な人だったし、死んでもいい人だったのね」

 その日の夜、Bさんがニコニコした顔で夢にでてきた。誤解していた事を謝ると、彼は頭をかきながら、光の中に消えていったのだった。

 翌日から、Aさんは特殊な能力に目覚めた。幽霊こそ見えないものの“ある匂い”をかぐときに“危機”を見極められるようになったのだ。誰かの“死”の予感である。それは柑橘系の香り、AさんがBさんに進めた消臭効果のある香水の匂いなのだった。Bさんは、せめてものお礼にとこの特殊能力をAさんに渡したのだろう、とAさんは笑った。
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