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芸術志向ロボット
しおりを挟むあるロボットがスクラップから再構築され、芸術品として披露された。だがそのロボットが優れていたのは、彼自身が芸術品のような形状をしていながら、しかし、彼自身が芸術の絵画を描く事の出来ることだった。
『あなたの目には濁りはないわ』
すぐに芸術家の師匠ができた。彼はその女性に従事した。美しい女性だったが、とても年配の女性だった。絵画の実を愛して、いつも作業着をきて、後ろ髪を結っていた。ロボットには一つ欠点があった。彼には口がないのだ。それによって彼は彼の本心をいつも、人に伝えることができなかった。師匠はすぐにそれに気づいていた。ロボットはそのことで人にバカにされたがいつも師匠が手助けをしてくれていた。ある日、彼の製作者が彼に口をつけると言ってくれたが、師匠は拒んでばかりだった。なぜだろう。と彼は思い続けていた。
ある日、彼は初めて自分の意思で、決心をした。製作者のもとへ一人で尋ねて、口を作ってもらったのだった。その頃最先端の技術で、シリコン製の口を手に入れたかれはよろこんだ。これで人にバカにされずにすむ、私が愛する人々に。そこから彼の画風は変わったのだった。
(いつも師匠に対して罪悪感があった、それは彼女に守られすぎていたからだ)
彼の画風は人気を博した。個展に人は増えたが、師匠はそれを悲しい目でみているだけだった。自分もその理由に気づいていた。その絵画群は評価されていたが、自分の中に宿るものを明確に人に伝えるための絵ではなかった。
(……何かがたりない、人間の欠点を何か満たすような燃え上がるような情熱が)
彼はずいぶん絵画について悩んだ。彼自身についても、悩んだのだった。彼の“改造”は正しかったのか。
その後、苦悶の理由に苦しみつつも、ロボットは一つの心当たりをみつけ、一つの決心をしたのだった。夜中、師匠のすぐそばに近寄り、彼女に本心をうちあけた。
『先生、あなたは親友でもあり、家族のようでもあり、ずっと一緒にいてほしい存在、一番身近でいてほしい存在です、この感情を何というかはわからないが、愛が一番近いと思う』
師匠に対する愛情を口にすると師匠は口をつぐんだ。
『私はもう老いたから』
『老いとは何でしょうか』
『そうか、お前にはまだその学習が足りなかったか』
師匠は悲しそうな顔をしていった。
『わたしはもうすぐ、動けなくなる、その手も足も体も、使えなくなるのだ』
その時ロボットは気づいた。近頃自分の書いていた絵に力が宿らなかったのは、自分に口が付いたから問題だったのだと。自分は常にこの口を使えないことで周囲からバカにされていたが、自分は自分の弱さは実は強みだったのだと、人間の弱さ、強さ、そしてもろさを手助けしたいという思いを言葉にだせないからこそ、表現に変えていたのだと。その日から彼は、寡黙な仕事人に戻った。師匠はまた自分を見直してくれるようになった。ロボットはいまだにそれが失恋だという事を理解できずに、ただ、絵を描くのだった。
やがて彼女が寿命を迎え息を引き取るときに、ようやく彼は老いを理解し、老いという弱さを抱える師匠、それでも自分に優しく接してくれた師匠こそを愛していたのだと理解した。彼はかつての作風をとりもどした。もしそれで喜んでくれる人がごく少数だとしても、そのためにこそ絵を描いた。
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