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崖の上のマネキン
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サスペンスドラマの撮影で、刑事が犯人を追い詰める。何度も反復した筋書きだ。そのあとも順調に撮影は進むはずだった。
だがスタンバイ中の刑事役の俳優が、運ばれてきた犯人役の(犯人役と同じ衣装をきた)マネキンをみると、ふと、目が合った気がした。
「なんで僕ばっかり……」
その人形そんな声が聞こえた気がした。かと思いきや意識は突然かわった。
「!?」
なぜか自分が撮影スタッフに抱きかかえられていた。刑事役の自分も確かにスタンバイをしている。幽体離脱のような状態だ。自分がこちらを見てニヤリと笑った。ここにいる魂が本当の自分なら、あそこにいるのはだれだろうか。自分の体をみる、犯人役の人が着ている衣装にそっくりだ。それに自分の体の関節あらゆる部分に力が入らない。冷たいからだ、動かされるたびにみえる球体関節。自分は今、撮影用のマネキンになっているのだと気づいた。
撮影は続けられた。いつもはかんだりよく失敗する自分のセリフを流暢に話す自分。あんなのは自分ではない。そんな拒絶をしていても、時間はすぎていく、ついにその時がやってきた。撮影用のマネキン、自分がついに落とされる時だ。
犯人の撮影が終わる。追い詰められた犯人は罪を白状し、白状した苦痛に耐えきれずに崖から飛び降り自殺をするのだ。
「みんな、まってくれ、まってくれ!!」
そう叫んでも、スタッフに抱きかかえられた自分は、崖の直ぐ傍にもっていかれ、かつカメラもまた、がけ下に一台設置された。準備は万端。自分は何か方法がないかと考え自分の体に乗り移るために、自分に念じた。
「俺の魂を返せ、俺の魂をかえせ、俺の魂をかえせ」
プルプルと震え自分を見つめてくる刑事姿の自分。それでも時はやってきて、いよいよ落とされる時になった。自分はふと気づいた。そうだ。いつもの癖だ。頭の中で“人”と念じてそれを飲み込むイメージをする、それによっていつも撮影の緊張や混乱をごまかしているのだ。それを試してみよう。
「はいじゃあ、いきまーす」
時間が過ぎてしまった。だが遅すぎる事はない。崖の直ぐ近くにいるスタッフが自分を斜めにした。
「カット!!」
監督がよびかける。風がつよいのでスタッフはちからをこめてなげるようにいわれた。そしてその瞬間、私は刑事役の自分をみつめ、念じた。
「人、人、人!!!」
自分はがくがくとふるえており、やがてふとこちらを見た瞬間、体はいれかわった。・
「ぷはああ!!」
あまりにも大きな声で、監督たちはこちらをみた。
「○○さん!!どうしたんですか!!撮影中ですよ!」
笑いが起こる。ベテランだから許されたのだ。だが問題はそんな事じゃない。すぐさま崖を別のルートでかけおりて、マネキン人形をみた。ぼろぼろになっており、それは落下時に崖のあちこちにうちつけて、傷や凹凸のせいで、自分によく似ているようにみえた。
「こんな事を繰り返しているんだよ」
そんな声が、どこかから聞こえた気がした。
やがて監督が駆け下りてきていった。
「まさか、○○さん、自分がマネキンになったように感じたとか?」
「え、ええ、それをなぜ?」
「ここで以前、そんな話をした人間が、事故にあい、崖から落ちて両足を切断することになったんです……いわくをあまり信じていないが、あなたの様子は尋常じゃない、中止しましょう」
やがて、そのドラマは別のクライマックスが差し替えられた。サスペンスドラマで用いられるその崖には、いくつも、何度も殺されたマネキンの念が知らず知らずこもっているのかもしれない。
だがスタンバイ中の刑事役の俳優が、運ばれてきた犯人役の(犯人役と同じ衣装をきた)マネキンをみると、ふと、目が合った気がした。
「なんで僕ばっかり……」
その人形そんな声が聞こえた気がした。かと思いきや意識は突然かわった。
「!?」
なぜか自分が撮影スタッフに抱きかかえられていた。刑事役の自分も確かにスタンバイをしている。幽体離脱のような状態だ。自分がこちらを見てニヤリと笑った。ここにいる魂が本当の自分なら、あそこにいるのはだれだろうか。自分の体をみる、犯人役の人が着ている衣装にそっくりだ。それに自分の体の関節あらゆる部分に力が入らない。冷たいからだ、動かされるたびにみえる球体関節。自分は今、撮影用のマネキンになっているのだと気づいた。
撮影は続けられた。いつもはかんだりよく失敗する自分のセリフを流暢に話す自分。あんなのは自分ではない。そんな拒絶をしていても、時間はすぎていく、ついにその時がやってきた。撮影用のマネキン、自分がついに落とされる時だ。
犯人の撮影が終わる。追い詰められた犯人は罪を白状し、白状した苦痛に耐えきれずに崖から飛び降り自殺をするのだ。
「みんな、まってくれ、まってくれ!!」
そう叫んでも、スタッフに抱きかかえられた自分は、崖の直ぐ傍にもっていかれ、かつカメラもまた、がけ下に一台設置された。準備は万端。自分は何か方法がないかと考え自分の体に乗り移るために、自分に念じた。
「俺の魂を返せ、俺の魂をかえせ、俺の魂をかえせ」
プルプルと震え自分を見つめてくる刑事姿の自分。それでも時はやってきて、いよいよ落とされる時になった。自分はふと気づいた。そうだ。いつもの癖だ。頭の中で“人”と念じてそれを飲み込むイメージをする、それによっていつも撮影の緊張や混乱をごまかしているのだ。それを試してみよう。
「はいじゃあ、いきまーす」
時間が過ぎてしまった。だが遅すぎる事はない。崖の直ぐ近くにいるスタッフが自分を斜めにした。
「カット!!」
監督がよびかける。風がつよいのでスタッフはちからをこめてなげるようにいわれた。そしてその瞬間、私は刑事役の自分をみつめ、念じた。
「人、人、人!!!」
自分はがくがくとふるえており、やがてふとこちらを見た瞬間、体はいれかわった。・
「ぷはああ!!」
あまりにも大きな声で、監督たちはこちらをみた。
「○○さん!!どうしたんですか!!撮影中ですよ!」
笑いが起こる。ベテランだから許されたのだ。だが問題はそんな事じゃない。すぐさま崖を別のルートでかけおりて、マネキン人形をみた。ぼろぼろになっており、それは落下時に崖のあちこちにうちつけて、傷や凹凸のせいで、自分によく似ているようにみえた。
「こんな事を繰り返しているんだよ」
そんな声が、どこかから聞こえた気がした。
やがて監督が駆け下りてきていった。
「まさか、○○さん、自分がマネキンになったように感じたとか?」
「え、ええ、それをなぜ?」
「ここで以前、そんな話をした人間が、事故にあい、崖から落ちて両足を切断することになったんです……いわくをあまり信じていないが、あなたの様子は尋常じゃない、中止しましょう」
やがて、そのドラマは別のクライマックスが差し替えられた。サスペンスドラマで用いられるその崖には、いくつも、何度も殺されたマネキンの念が知らず知らずこもっているのかもしれない。
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