幽体離脱

ショー・ケン

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幽体離脱

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 Aさんは少し前ある病院に入院していた。大学生で暇な時期だったので、時間がもったいないと思ったくらいだった。大学の階段を踏み外し、右足を骨折したのだった。

 よくその病室に友人たちと一緒にBさんという少女がきた。中のいい友人たちの中で一番からみのない子で、けれど噂ではAさんを好いているらしい。Aさんはもてるものの、女性に興味がないし、内気なBさんの事があまり好きではなかったので、いつも距離をおいていたのだ。さらにAさんがBさんを拒絶していたのは、Bさんが自称霊感もちだという事だったからだ。Aさんはオカルトを一切信じていなかった。

 あるとき珍しくBさんがひとりで、お見舞いにきたとき、突然奇妙なお経のかかれた木札のようなものを差し出されてこういわれた。
「あなた、幽体離脱しているでしょ?このままこの病院にいると嫌な目にあうわね」
「?」
 ふと、Aさんはその時突然思い出したことがあった。そう、ここ数日妙な夢をみるのだ。いつのまにか廊下をあるいていて、それが2階であったり3階であったり階数は関係ないのだが、病室にふと、入ると、あまり接点のない患者さんがいる。その患者さんとたわいのない話をするのだ。すると最後に患者さんは必ず。
「ありがとうね」
 と言って消える。

 そんな事が2,3度続いてきになったので、その部屋番号と患者さんのメモをとっておいて、看護師さんにちょうど昨日訪ねてみた。
「この患者さんって……」
「ん……?何のメモ、ああ、そうね、最近なくなったわね、でもあなた、どうして亡くなった方のメモをしているの?大学の研究?」

 右足を骨折しているし、松葉づえをつかえば歩けるが、わざわざ人の生き死になど見に行かないし、だいたいは本を読んで過ごしていたために、Aさんは現実では、この部屋の中を覗いたこともない。大体失礼だとおもったし。だが部屋番号も名前もあてて、夢に出てきた人が死ぬ。そこでAさんは思った。

【もしかして僕のせいじゃ―】

 ふと、自分が思った事をBさんに言い当てられた。Bさんはいつもよりは明確に、しかし、それでも恥ずかしそうにその木札を渡した。
「心配しないで、あなたにそんな力ないから……むしろ……詳しくは説明しないわ、だってあなた、私の事を疑っているでしょ?私があなたに好意を持っているっていう噂、あれ嘘よ」
 そういい放つと、Bさんは踵を返してかえっていった。Aさんは疑問だった。
(どうして他の入院患者ではなく、自分に渡すのか?)

(妙なやつだな)
 と窓辺をみていると、4人相部屋ということもあり、ちょうど前の入院患者の“沙織”ちゃんが声をかけてきた。かわいい子で、同い年。心臓の病気らしいが詳しい事はしらなかった。ほか二人の入院患者は皆年寄で会話が難しいこともあり、沙織ちゃんはよく、Aさんに話しかけにきたのだ。病気というわりには、元気な子だった。

「うーん」
 Aさんは沙織ちゃんを見つめる。かわいらしく、丸顔で上品な顔立ち。それに何より性格がいい。あまり女性には興味がなかったが、友達としてかかわったとしても気分がいい子だった。
「なんか変なもの渡されちゃってさ」
「ん?あら、これお札じゃない、しかもこれは護符よ」
「ああ、何ならこれあげるよ」
「え?いいの?」
「うん、まあ信じてないしさ」
 そういうと沙織ちゃんは喜んで自分のベッドに戻って、しばらくうきうきとしているようだった。

 その夜。Aさんはいつものごとく夢をみた。廊下をあるいており、前には知らない老人が、歩行器をつかって歩いている。
「~孫ににとるでなあ~にぁるあり」
 前後の文脈は聞き取れないが、何か自分の事を気に入っているらしい、ふりかえりながらAさんを手招いて、やがて隅の部屋の前までくると、老人は中をゆびさした。
 その先で、まったく同じ姿かたちの老人がいた。後ろを振り返ると、今までいた老人は姿を消している。老人は自分をてまねきしながら、こういった。
「“なあ、一緒にいきましょうや”」
 その時ふと、Bさんにもらった札の事を思い出した。そう。あの時疑問だったのだ。なぜ、自分に札を渡したのか。

「ふんふふんふん」
 そんな時に、廊下から妙な歌声がきこえた。看護師だろうか?聞き覚えのある声のようだた。

 それとのと同時に、老人をよくみると、老人もまた幽体離脱のような状態になっていた。ベッドによこたわりあおむけに寝ている老人と、上体をおこして手をこまねいている老人。ベッドに横たわっている老人は明らかにもう、死人のような顔をしていた。

「ひぃ……」
 と尻もちをついた。いつのまにか部屋の中に少しはいっており、転んだままじたばたしながら部屋からでようとすると、いつのまにか老人ははうようにして自分の足首をつかんでいた。
「放して、放してくれ、放して!!」
「なぜじゃ、お前だけが、わしをみつけた、孫にまで見捨てられたわしを、だがお前は、孫にようにとる、いこう、地獄、いこう」
 そういって、老人は皺皺の手を自分の頬にのばした。顔を上げたその顔には、真っ黒な深淵がのぞくのみ、目がなかった。
「ひぃいい!!」
「どうしたいのじゃ、どうしたいのじゃ?お前が、札を手放したのだ、お前が、自分から……」
「!!!」
「どうしたいのじゃ、どうしたいのじゃ……」
 ふと、Aさんは喉にてをあてる、老人の手が首を絞め、声がでない。頑張って声をだそうと自分の手で老人の手を振りほどこうとする、が、やはり声はでない。諦めつつ、しかし最後の力を振り絞ってAさんは、心の中で叫んだ。
《生きたい!!!》
 
 その瞬間だった。
「ふんふふんふふん」
 丁度、女性が傍を通りかかった。老人はその女性が通りかかると同時に、魂だけがふっとひるんで、煙のようにどこかに消えてしまった。 

「はっ!!!」
 バタバタとする声で目が覚める。看護師たちが慌ただしく廊下を行き来している、起き上がり、部屋から出てその一人に、尋ねた。
「どうしたんです?」
「401の患者さん、なくなったんです」
 そう、その部屋とは、先ほどまでAさんが夢で捕らわれていた部屋だったのだ。廊下の奥をみる、そこには、沙織さんが、手を振りながらこっちを見ていた。


 Aさんは興奮しながら、その日はあまり眠れなかった。あの木札は効果があったのだ。そして、沙織さんが運よく自分の傍を通りかかったため、自分は一命をとりとめた。それよりなにより……自分が見ていた“幽体離脱”あれはひょっとすると、自分が原因で人が死んだというよりは、自分が魂だけで浮遊しているところを、死んで魂だけになった患者たちが道連れにしようとしたのではないか、そういう想像が浮かんだ。


 朝目が覚めると、Bさんがひょこっと顔を出した。朝いちばんできたらしく、食事もまだだったが、こっそりと、ハンバーガーを差し入れてくれた。
「キミが昨夜みたもの、君の立てた仮説は、ほぼ真実だね……」
 そしてBさんは、驚愕の事実をAさんに教える。AさんとBさんは二人で、沙織さんのベッドに向かった。その様子をみても、Aさんは暫く現実を受け入れることができず、看護婦を呼び止めて確認した。
「え?そうですよ、そのベッドはしばらく空いてます、珍しいんですけど」
 どうやら、初めから沙織さんという女性はいなかったようだ。前に入院していた患者も老人で、それ以前となると……それ以上聞く気にはならなかった。ただ向かいの席のあいている彼女がいたはずのベッドの上には、Bさんからもらった、お札が置いてあったらしい。
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