タイプライター

ショー・ケン

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「過去にとべば、今より楽に生きられるはずだ」
 そう考えたのは、タイムマシンが開発された未来の男。細々と売れない作家をしていた。しかし、心の中に迷いがあった。それはタイムマシンで過去を改変する事は重罪だからだ。タイムマシンへの旅行は莫大なお金を払い、過去に干渉しない方法を用いおこなわれる。
“流行るべきものは、流行るべくしてはやる”
 幼いころに父をなくした男は、その父の言葉を信じていた。孤児として育てられ、引き取られたと聞いていたが詳しい事はわからない。父は自分の出生についての謎を隠したがっていた。さらに父の蔵書は、古くてさらに、変わったものばかりでその影響で男は奇妙で古臭い趣味のある創作ばかりをしていた。
“流行るべきものは流行るべくしてはやる”
 父の言葉に対する違和感は、成長するにつれて大きくなっていった。ならば時代が違う自分の感性はいつまでも評価されないではないか。


 しかしある時、男の前にある老人が現れていった。
「お前は過去に飛ぶべきだ、必ず後悔はしない」
 老人は警官に追われ、その場で射殺された。だが、同情も、恐ろしさも感じなかった。

 彼は意を決した。なぜなら彼の過去には何もなかったからだ。凡庸な作家として創作をし、ほとんど売れもしないのに地味に生き延びてきた。そんな人生に退屈をしていたのだ。

 彼は過去へ飛ぶことにした。もちろん違法な方法で、タイムマシンにアクセスし、次元を超越した。その先で、彼は本を執筆した。彼は過去の作品の傾向や需要はよくわかっていた。というよりも、彼自身自分の作品を《古い》と感じていたくらいだ。彼の作品は飛ぶように売れた。

 彼が作家として売れ始めたあるとき彼の前に警察官が現れた。あの時老人を殺した警察官の格好によくにていた。彼は死を覚悟した。警察官は右手をあげて、いった。
「あなたの行いは、この次元では“肯定”されます」
 警察官が手をあげたのは、この次元式の敬礼だという。時空局の警察官だと名乗った。
「どういう事だ?」
 話を聞くと、この次元では、老人のいた世界では許されなかった次元旅行が許されているらしい。つまるところ老人は、何の因果か、普通はありえない別次元の過去に飛んでいたのだ。


 妻もでき、子供を一人授かり、裕福な家庭をつくった。だが、彼はそれでも満足ができなかった。何かが足りない、何かが……そうだ。自分にはなかった素養が、彼に備わって欲しい。子供が生まれて育てて、初めて気が付いた。
(もしこの子が、小さなころから、未来の創作物にふれていたら、きっと自分のように苦労をしない人生が歩めるのではないか)
 だが中々踏み出せずにいた。タイムマシンは、あと折り返し一回しか使えない。

 だが子供が、成長するにつれ、子供が自分ににて、様々な素養が古臭く、センスがない事に気づき、彼は、決心する。未来へ飛んだのだ。そして未来の本を買いあさった。そして、タイムマシンに戻ろうとしたその時、タイムマシンが大勢の警察官に取り囲まれている事に気づいた。時空局の警官だった。
「あんたはここでは犯罪者だ、いますぐ手を止めろ」
 男はそこで気づいた。自分は元居た次元の未来に来てしまったのだ。裕福だったとはいえ、男が飛んだ過去には、タイムマシンがない。焦って、子供を思うあまりこんな事をしてしまったことを後悔した。だが、男は、手の中にリモコンがあることを思い出した。何も自分ごと送ることはない。そう決心し、リモコンを操作した。タイムマシンは過去へ飛んだ。男は喜んで、警官から逃げた。

 その逃げた先で、過去の自分をみた。そして同じ言葉を投げかける。
「お前は過去に飛ぶべきだ、必ず後悔はしない」
 そして射殺される。男はすでに年老いていた。なにせ、はじめに生まれた子供は事故で死に、その後、長らくたってからようやく子供ができたのだった。

 男は満足な顔で死んでいった。これで、ようやく“順風満帆な人生を歩む”人生を一つ作る事ができた。

 その後、警察官たちがやってきて、ボソボソとしゃべっている。
「まったく、不運な男だねえ」
「まさか、自分自身が、自分自身をつくった事に気づかないなんて、要するに彼は……これで過去に未来の荷物を……たくさんの創作物を送るが、それでも、彼の才能が花開くことがなかった、センスがなかったのだ、そして年老いて花開くものの、自分と同じ人生を歩ませまいとして生まれた子供が、自分自身だと気づかずに死んでいくなんて、哀れな人生だねえ」
 そして、スーツをきた男が現れ、いった。
「ああ、苦労した……彼の前に君たちを送り“彼のとんだ次元が別次元”と信じさせ、未来を変えないようにしたのはな、ああ、今度が初めての事だ」
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