妙な夢

ショー・ケン

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妙な夢

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ある男性Aさんが大学生のころ、ある雑居ビルにある漫画喫茶にバイトの面接に行ったときの事、店長が妙なことをいう。
「君、幽霊とか見えるタイプじゃないよね?」
「え?ここって何かでるんですか」
「いや……そういうわけじゃないんだけど……」
「見えませんけど」
 面接は終わり無事採用になり、気になってといつめると
「まあ、ちょっと、勤めてみればわかるよ“彼女”には困っていてね」

翌々日から働くことに、“彼女”というのが気になって、同じシフトに入りすぐに仲良くなった男の同僚にきくと
「女の幽霊?聞いたことないね、ああ、そうか君は知らないんだ……店長のやつまた適当な説明したんでしょ……ここにはね、幽霊より怖いものがいるんだよ」
 詳しくきくとここに一週間に1度バイトでくる高校生少女が霊感少女で、別に仕事に障りがないのであまりかまわないでいるが、店長に霊感がどうなのでこうしろとか、他のバイトや社員に一度お祓いにいってもらえ、場所を紹介するから、といったり、本人も暗い感じで、怪しい宗教にでも入っているのではないかという噂があったりする。
「ふーん、じゃあ、まあ会わないようにシフトきをつけますね」
「そうね、そうすればいいよ」
 しかしある程度月日が過ぎるとそういう訳にもいかなくなる、というのもAさんは貧乏大学生で、大学の予定がない時間はほとんどバイトに明け暮れていたのだった。

そしてついにその時がきた、つまり“彼女”と同じシフトにはいったのだった。しかし聞いていた印象と違ってテキパキ働くし、クールな感じのショートヘアだし、たしかに仕事の合間にはぼーっと床を見て暗い感じはしたが、自分のシフトが終わるまでは、特段めだったことはなく、むしろかわいい子だなあと思った。しかし自分がシフトをおわったときに彼女に呼び止められこう言われた。
「Aさん、あなた何かついてますよ、きっと困るだろうから、いい拝み屋紹介しますよ、知り合いなんですけど、私、今日ずっとうつむいてたのも、あなたに悪いものがついているからで」
(なるほどこうきたか……知り合いに宗教のつてがあって勧誘しているのかもしれないなあ)
 そう思いその日は家に帰った。

しかしその日から夢をみた。奇妙な夢で自分があのバイト先の店内でガス栓に細工し全開にしてひをつけ、放火する夢だ。
(どういう事だ)
 ただの夢で最初は気にしていなかったが、段々とそれはひどくなっていった。眠るとほぼ毎回その夢をみるし、いつの間にかふとした瞬間に瞬時に眠りその光景を見る事が多くなった。おかげで眠ることをさけ、また日常の疲れがたまっていた。そんなある日、少女と同じシフトに入り、そろそろ店じまいといった時間帯のころだった。
(これをこうして)
 Aさんは本人が気づかないうちに、夢のなかと同じことをしていた。別に悪意すらもたず、ただ自分が普段する業務と同じようなものだと思い込んでそうしていた。ガス栓にてをかけた瞬間、後ろから叫び声が聞こえた。
「危ない!!やめて!!」
 うしろからがっと腕をつかまれ、はっと我に返った。とめてくれたのは例の霊感少女だった。
「う、すまない、最近妙なんだ、妙な夢をみて……」
 少女に説明すると、少女は奇妙な顔もせず聞いてくれた。
「だれも信じないし、あなたも信じてくれないとおもったからだまっているけれど、この漫画喫茶に勤めに来る人は、だいたい何かをつれてくる“呼ばれて”くるのだと思う、ここは、いわゆる“霊道”霊のパワースポットみたいなものだと思う、私はなるべく見ないようにしているけれど、あなたの後ろにもあなたを使って悪さをしようとする霊がついている、あなた自身はいい人だし、私もこれ以上の事があってはこまる、あなたについている霊は、ここにきて恐ろしいほど力をつけた……あなた、火事の現場をみて、哀れに思ったことはない?」
「うーん」
 Aさんは頭を悩ませた。だが、あった、小学生のころ友人の宅が燃えて、一家全員が死んだときに、焼け跡にかけつけて、涙をながして
「かわいそう」
 とおもったのだ。
「そう、その時ね、私は見えるけど対処はできないから、いい”拝み屋”紹介するから」
 そこにいたってもAさんが渋っていると、少女はいった。
「私のバイト代から特別にだすから、そんなに高くない……それでいいでしょ?」
 そういわれ、しぶしぶお祓いにいく、休みの日に、言われた場所にいく、どこにでもいそうな中年女性に奇妙なお経のようなものでお祓いをうけると不思議と体がかるくなったという。

 それからは、奇妙な目に合う事がなくなった。すべてが終わった後にAさんは例の霊感少女に尋ねた。
「どうして、ここに幽霊がでるという噂がないのに、君だけはここで幽霊をみるんだ?」
「私もわからないけれど、幽霊は何も場所にとどまって悪さをするものばかりじゃない、ここは、悪意のもった幽霊とそれに取りつかれた人を集めてしまう場所みたいだから、そういう幽霊は取りついた対象にしか問題を起こさない、だから、ここにきたひとは“ここに幽霊はいない”と思っているのじゃないかしら」

 ある仕事終わりに彼女をさそって、このビルの過去をしらべないかというと彼女は承諾してくれた。二人でネット喫茶にはいり、調べてみた。その雑居ビルの2階、つまりその漫画喫茶は、事故物件で、入る店や会社に次々と不幸が訪れ、事故や事件にまきこまれ、すぐに撤退、死者もちらほら出ている事らしかったのだ。が、あの漫画喫茶ができてからは大した事件もおきていない。聞くとあの少女は、漫画喫茶が出来た当初からバイトに来ているらしい。

たしかにその霊感少女は幽霊を見ない人には少し厄介だったが、それでも幽霊を追い出したり、悪いものがついている人を追い払ったりする力は本物のようだ。そして少女のいう通り、もし彼女があの場所からいなくなれば、また恐ろしい幽霊が人に乗り移って悪さをするのだろうか。
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