狂喜の創作

ショー・ケン

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狂喜の創作ムーブメント

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 ある著名な作家Aが、作家が集まり、ファンと触れ合うイベントで公然とある先輩作家Bに罵りと批判を受けた。
「お前は売上の事しか考えなくなった」
とか
「クリエイター精神を見失った」
とかである。彼が反論するとBはいった。
「お前は、本当に書きたいものを書いているのか、それを受け入れるファンを大事にしているか、作家は売上じゃない、質のいいファンさえいればいいしその大小ではない」
 周囲の作家がフォローに入るがヒートアップする。イベントが終わり。Aは仲間から慰めをうけた。
「あなたが彼より売れているから嫉妬しているだけだ」
「あなたは十分やっているし、売れてからも変わっていないわ」
 それでも、Aにはくやしさと悲しさが残り、蓄積していった。まだ新人で無名の頃に色々助けてくれたのが先輩作家Bだったからだ。

 しばらくして、Aは路線を変えた。もともと売れなかった彼の初期作品のスタンスにもどった。しかし人気は依然ほどではない。しかし、生活できないほどではなかった。先輩作家Bはこの状況を喜んだ。このB作家は、自分より愚かな創作をする人間、その愚かさを理解、指摘できる作風をもつ近しい人間、つまりAの下手な作品からイマジネーションを刺激され、オマージュをして、そのネタを使いよりよい創作をしようとたくらんでいた。この作家が売れるようになって、自分の才能を見失っていたのだ。実際たくらみは成功した。
(これで俺のモチベーションと、プライドが保たれる、奴が人気が出て以降は奴にとられていた地位、俺はもう一度、この業界のトップに躍り出る)
 だが彼には謎だった。
(しかしどうして、こんなにあいつの初期の駄作的スタンスに人気がでるのだろう
 それもそうだ。彼が初期スタンスの悪さを指摘し、商業作家としての。プロとしての目線を学習させた本人なのだから。

 同時期、ある刑事が、人間の失踪事件について調べていた。失踪の多いその大国で失踪した人間をいちいち入念に調べるものは少ないが、その刑事はそうだった。ある共通点―Aの周辺人物、というよりそのファンが失踪している。そして最近Aも失踪。その共通点を調べていくとある事がわかった。
「彼らはAに心酔していこう、失踪している」
 おまけに、Aは彼らの失踪以後、ファンからの様々な入金が減っている。ネット上で彼が展開したサブスクライブやら、プレゼントなど、売上も減っている。それはそうだろう。刑事は考えた。
「彼はファンを拉致して生活費を稼いでいるのではないかと」
 それでも奇妙だったのは、彼の人気自体は衰えず、ファンからの人気や、SNSなどの人気も右肩上りだったということだ、それは最早、彼の人気を裏付けし、その界隈でのムーブメントになっていた。最近彼はSNSでこんな事をよくつぶやいている。
「受け入れてくれる人間がいれば、僕はどんなものさえ創作にできる、これまでになく、僕の創作はすべてが順調だ、何をしても受け入れてくれるファンができたから」

 やがて刑事はある闇ルートで、情報屋から情報をえた。その最中に何者かに命を狙われ胸を打ち抜かれ2か月ほど入院したがそれでも熱心にAの本性をおった。なぜ彼にそれほど執着したか。1年前に他界した息子がAのファンだったからだ。
「間違いがあるなら、正さなければならない」
 そして、一つの確信となる情報をえた。Aはその頃は違法であった、脳右派、脳内神経伝達物質の同期―メタバースや機械端末等を介した脳内状態のシンクロ―をする端末を購入したというのだ。

 そして、かつてAが失踪する前に彼の使っていたIPアドレスなどとサーバーを警察の権限を利用して調べると、ある事がわかった。彼は購入したその機器を使っていたし、まずネットを介して2度実験され、その後は音沙汰がない。刑事は勘づいた。
「まずネットを介して実験、その後は失踪したファンを囲って実験を行っている」
 やがてファンなどになりすまし、彼の情報を探っているとある山奥に隠れているという事がわかった。そして時折SNSを使っていることがわかり、また令状をとり、大規模な捜索隊をつくった。捜索隊とともに山中へ。

 やがて、山小屋をみつけた刑事が、皆をあつめ、軽快しながらそこへ入ることにした。中からは異常な湿気、機械端末のケーブル類や、医療器具やチューブ、手術器具などが、がさがさと音がする。
「だれだ!!」
「ひいぃい!!」
 玄関直ぐ傍の一室そこには、手足を縛られた片腕がサイボーグの男がいた。
「お前は?」
「闇医者だ!!闇医者のバルドー!!よく来てくれた、この悪夢から解放してくれ!!」
「奴は、失踪した彼らはどこへ!!」
「最奥の部屋だ、部屋の敷居をこわして巨大な部屋がある」
 いわれた通りに進むと匂いや、湿気がひどくなり、やがてAのもとにたどり着いた刑事そこで驚愕した。
「な、何だこれは……」
捜索隊のだれもが驚愕した。

 そこにはチューブや機械につなげられた人間が、20人ほど椅子にすわって意識をうしなっており、VRに使うヘッドマウントディスプレイにもにたものを頭につけていた、それと向き合うように同じ様子のAがいた。無理やりAのそれを外そうとすると、闇医者バルドーがとめ、正しい手順でそれを解いた。

 やがて現実にもどってきたAに、刑事は尋ねる。
「ここで、怪しい宗教をやっていたのか?」
 Aはいった。
「いいや、”創作”をつづけてきたのさ、そして定期的に発表してきた、彼らは、僕のファンだ、裏切ることなど絶対にない、もっとも、強制的にファンをつくったのだけどね、もともと僕や、創作が好きだった人間に"プロの感覚を感じさせてやる"といった誘った……」 
 吐き気を催す刑事。
「人が人のファンになる理由がわかるかい、特に創作系はこういうファンが多い、要は”自分にもこんな作品がつくれるかも”そう思わせることが重要なんだ、Bにある時公然の場で批判されてやっと気づいた、僕はそれをするべきなんだ」
 刑事はきづいた。この脳をケーブルで接続された者たちは全員”彼の創作”にかかわるプロセス、そこで流れる神経伝達物質―、微弱な脳波、もしくは思考回路そのもの―を共有しているのだと。
「こんな事をしなくても……」
 Aは刑事に向かっていった。
「お前や素人にわかるわけがない!!俺がプロになって苦労してえた能力は逆に、素人の創作の考えや、素人考えのアイデアから余計に遠ざかるものだった、それは蓄積された知識だったし、消すことのできない記憶……だがその苦痛は色濃くなった、あの日Bが公然とそれを否定した、それ以降俺は……創作ができなくなり、素人の考えもわからなくなった、だから、彼らと一緒に創作するようになった、彼らはこれに同意したんだよ、この楽園に一緒に生きて、ともに創作をしようということに!!」
 刑事がうろたえていると、Aはいった。
「最も、彼らには"創作プロセス"の全てはおしえない、ただ快楽を与えているだけだがね」
「きさまああああ!!」
 ぶちぎれながら突進する刑事、拳銃を構え、トリガーに手をかけた。
《ドチュン!!!》
 が、その弾丸は、彼のペンダント―息子のペンダントにはじかれ宙を舞った。
「くっ、なぜ殺さない」
「息子のおかげだな……」
「何をいっている?」
「息子はお前の完全なファンだった、息子は友人に、小難しいお前の創作の何がすばらしいかを語って聞かせたよ、それが事実か正しいかは関係なく、息子たちの間でお前はヒーローになった、彼らは彼らの世界をつくっていた」
「だからどうした、それはよくある話じゃないか」
「息子は去年他界した、お前のつくった世界にいくといってな、最後の最後まで病室で、他人にお前の作品をすすめた、お前はお前の作った世界のすばらしささえ、信じぬくことができなかったのか、息子の創作こそ、お前のこの腐った創作の何倍も素晴らしい、天国に行った息子にお前が悪魔だったという事をしらさなければならないとは……」
「俺の創作が間違っていたとでも、俺はBに言われた通り"作家は売上じゃない、質のいいファンさえいればいいしその大小ではない"ここにいれば、俺は作品を発表せずとも彼らに認められ、彼らもまた、半端な創作意欲を満たせられるのだ」
 一瞬刑事は彼を哀れに想い、息子の姿を思い浮かべ、拳銃をしまった。
刑事はいった。
「いいか?俺は創作のあれこれはわからない、けれど俺の息子は言うと思う、お前の今の創作を愛しているわけでも、今のお前を愛しているわけでもないと」
 するとAは泣きながら笑いいった。
「じゃあ、どうすればよかったんだ……」

 その後Aは逮捕された。終身刑に近い刑期。Bも作家として不振が続くようになり作家業を引退。刑事はいまだに刑務所にいるAと手紙のやり取りを続け、更生の手助けをしているという。
「……」
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