目覚め

ショー・ケン

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目覚め

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―幽霊は血に濡れると本性を現す―

少年は夢をみていた。夢のなかだけど現実とどこか違うこと、夢であることを実感できる夢だ。

彼の意識は危うくなった時の事をおぼえていた。廃墟の中、髪の長い暗い女にだきつかれている、腹部から血がながれている、何かがささっている。それは鉄骨のようにみえた、
(まさかここまでするなんて)

彼女は、幼馴染だった。幼馴染の彼女は、昔は明るかったがいじめが原因で暗くなり、化粧やアクセサリ類まで地味で目立たないものになっていった。いわく、これでいじめられないのだという。

そのせいか自分は彼女を遠ざけるようになった。昔は仲が良く、彼女が自分を好きだという風のうわさも耳にしたが。

そういえば、こうなるまえ、彼女は俺をよくつけまわしていた。彼女はおっちょこちょいで、転んだり、何かにぶつかったりするたびに俺は、幼馴染なじみだからといって彼女を介抱した。
(やさしくしないで)
 彼女は俺がそうするたびにそんな事をいったっけ。

それで、どうしてこうなったんだっけ?

 そう、ツインテールで金髪の、近隣の高校のギャルのA子ちゃんと付き合い始めて3か月、彼女が廃墟にいこうといいだして俺たちは廃墟にでかけた。その廃墟で、俺はあいつとであったんだ。あいつはいっていた。
(私……夢にでる……気を付けて……夢にでたら、夢を侵し、本当の人間であったように見せかける)
 意味不明な事をいっていた。どういう事なんだろう彼女が、本当は存在しなかったという事か?
「○○ちゃん」
 ふと、起き上がる。夢からさめたようだ。病院のベッドで、A子ちゃんが自分を見ろしている。A子ちゃんとは、電車で出会った。A子ちゃんが初めに話しかけてきてくれて、彼氏に振られたとかいうのを慰めてから、それからなんだかんだ仲良くなった。
「どうして僕に話しかけたの?」
「あなた、優しそうだったから」
(優しくしないで、という幼馴染とは、大違いだ)

 彼女と過ごした日々はとても楽しかった。彼女からもらったプレゼントは今も胸に飾ってある。ペンダントだ。十字架があしらってある。ロケットがついている。

 彼女は、僕をベッドからおこして、外に出ようという。周囲を両親や見知った友人が取り囲んでいてそれを了承する。
「どうして?」
「ここにはあの女がくるから、女がくるまえにここから遠ざからないと……、忘れたの?もうあなたが目を覚ましてから三日たったわ」
「確かに……でも、そこまでする?あくまで彼女は幼馴染で……」
「幼馴染だなんて嘘なんだよ、あの女はあなたの夢に現れ、あの廃墟にあらわれ、あなたをのろっていた……、彼女は初めから存在なんてしない、だから早く除霊しないと、もう予約してあるから、お寺に向かおう……」
「でも……」

 迷っていると、窓のそとに彼女―幼馴染の姿がみえた。
「○○ちゃん」
「うわあ!!」
 そこは窓の二階だ。そんな場所の窓から姿を見せるなんて、異常だ。いつもの暗く恐ろしい長髪で自分をみている。思えば彼女が自分をストーカーするようになったのは……彼女と付き合い始めてからだ。
「はやく!!」
 少年は、A子ちゃんのてをつかんでその扉をあけようとした。その瞬間。
「優しくしないで!!」
 そう背後から叫ばれた。何か、その言葉に違和感がある。よくみると幼馴染は窓をわって、血だらけになりながらそこに倒れている。
「助けなきゃ」
「だめ!!優しくしないで!!」
 A子が叫ぶ、そうだ……違和感があるこの言葉。幼馴染に昔言われた事があった。いつだっけ、その言葉が、深い意味を持つような……。
「優しくしないで」
 そうだ。A子に話しかけたのは自分だった。よく考えれば、自分から。でもどうして?かわいそうにみえたのだろうか。彼女は、少し異常だったから。でも何が、異常だったのだろう。
「○○君、自分のためを思わないとだめだよ、優しくしないで」
 という幼馴染。
「○○君、そいつは死人よ、優しくしないで」
 ふと、迷ったが、少年は幼馴染の方に飛び込んでいった。
「君のためを思うなら、優しくするべきじゃなかった」 
 そうして彼女―A子に自分のペンダントをみせた。ロケットが開く、赤い血がかかったそれは、二人の写真ではなく、彼女と、見知らぬ男の顔が映っていた。

 A子は気が動転したように騒ぎ出す。そしてその化粧がはがれ、半身に骸が姿を現す。
「くそ!!こんな、どうしてわかったの」
「昔、幼馴染にいわれたんだ“血は幽霊の本当の姿を見せる”って」
「私、飛び降りで死んだのよ、電車にぶつかって……一生一緒に行ってくれるって言った人が、簡単に浮気して、私、クラスのカースト上位で彼は大したことないのに、男なんて、本当信じられない」
「かわいそうに」
「それよ!!それが幽霊を呼び寄せる、自業自得だわ、どうせあんたも」
「俺は……思い出したんだ」
「何を?」
「俺もあの日、飛び降りようとしていた、高校生活はうまくいっていたのに、あるとき先輩にいじめられている友人を見つけて助けたら今度は俺が、友人は―皆みてみぬふりをした、いじめはエスカレートして、あの時君を見たときおもったんだ“同じだ”絶望した目をしているって」
「じゃあ、私に救いを求めたのね、幽霊である私に、本当は幽霊だとわかっていて」
「でも、だって、それくらいしか救いがないじゃないか……もっと辛い人間にやさしくくらいしか、もう、逃げ場がなかったんだ」
「あっそ、じゃあ、これからはちゃんと自分を大切にね、まだ生きてるんだから、あんたは生きる理由がある、まだ幼馴染のことを気にかけているんだから」

 ふと、目を開ける。そこは本当に病院だった。そこには、あの髪の長い幼馴染と、家族が自分を見つめていた。家族から説明された。あの時廃墟に一人で、鉄骨に腹部をつきさされる形でねむっていたのだと、警察もきて説明を求められた。うまく説明はできなかった。なぜ飛び降りした女子高生の遺留品を自分が首から下げていたのか、という事、幼馴染だけが、理解してくれた。
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