VR没入

ショー・ケン

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VR没入

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 ある女。自分が別人であったような気がしつつも、日常を過ごす、あるオフィスで平凡な社員として働き、業務を終え、家に帰る。退屈なのだが、どこか退屈差を感じない。それはまるで日常がゲームのような気がするからだ。そもそも自分は男であった気もするし、年齢さえ違った気がする。

 また別のある男、人助けが趣味で、老人を見つけては声をかけて、喧嘩をみつけたら仲裁し、酔っ払いを見つけたら介抱する。なぜ自分がそれほど聖人なのかは思い出せないが、それはいわば、この認識のずれ、自分がなにものでもない何か、ゲームを操っているような感覚のなかにいて、現実そのものがコンピューターグラフィックで形勢されているようなそんな気がしていた。そして自分はもともと女だったような、性別が違う気がしていた。

 二人に共通するのは奇妙な首輪がついていることだ。時折声がしたり、外そうとすると強烈に痛みが走るし、悪い事をしようとしてもそうだ。彼らはお互いがどういう関係であるかを知らないまま日常を暮らし過ごしていた。なぜなら痛みより楽しさのほうがすごいし、自分はかつて、ひどい暮らしをしていたような記憶があるのに今は、環境にも人に恵まれているからだ。

 それもそのはずだ。これは“メタバースを介した囚人監視プロジェクト”である。メタバースを利用し、囚人同士の意識をいれかえ、体の操作を入れ替える。この国では以前から刑期をおえた元犯罪者の雇用が問題化しており、その改善計画の一間として、一種の記憶の消去と、メタバースを介した人体操作実験、かつ操作する肉体の入れ替え、いわば、人間の精神の入れ替えの実験が行われた。これはあらゆる研究の集大成としての”善人化”実験であった。

 民間の刑務所の実験であったし、人権に対する批判も多かったが、この二人は、同意してこの実験に参加していた。この二人ともスラムで育った元恋人であり、長年付き添った友であった。しかし、お互いを恨みあうようになって、愛が憎悪に変わりお互いに殺し屋を雇っては相手を殺そうとしたが、ボディーガードをやとっていたのでボディーガードが殺された、互いは殺されないまま、その罪状で逮捕されたのだ。

 彼らが実験に参加する前に彼らはいっていた。
「俺たちの過去にはどうしようもない憎悪や、生まれに対しての怒りがある、これさえ忘れる事ができたなら、他人として生まれ変われるのなら、それで心を入れ替えられる気がした」
 男は、両親から虐待をされており、女はそもそも孤児であったし、幼いころから教会の神父にいたずらをされており、その強烈な怒りは常にだれかに向いていた。それが最終的にお互いに向いたのは皮肉な事である。

 実験に参加した企業にもいいデータにもなる、そして意識を入れ替えること自体はこの時代タブーとされていたが、大したコストはかからなかった。"他人の人生を歩む""過去の苦痛を忘れる"ただ、それだけで彼らは順風満帆な暮らしをおくっていたが、最終的に記憶は彼らに戻される、その結果、彼らが心を入れ替えるか、もしくは古い記憶にすがるのか……実験結果はまだ先の事である。

 ただ、この実験を監視するネットカルチャー、SNSやその進化系のコミュニティを形成する人々はいうのである。
「現実こそ、最高のゲームだ、それが生まれながらにわからないなんて、哀れな人間だ」
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