拝み屋の子

ショー・ケン

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拝み屋の子

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ある20代の青年、葬式に参列するように頼まれた。稼業をつごうか、それとも今のサラリーマンの仕事を続けようか迷っていた。

母は、祖母から拝み屋の仕事を引き継いだ。それが今では稼業、たまに手伝いをたのまれる、稼ぎはいいらしい。そんな母だが当初は乗り気ではなかったという。水商売が失敗して、再婚しようとしていた男に振られてからは何もかもやる気をなくして、拝み屋の仕事さえも“本当に困っている人間”を“直に見なければ”やる気がでないという。

(まあ、そんな母が選んだ仕事、その末になくなった人間の葬式、疑ることもないだろう、一応、仕事の内容はくわしく聞かされなかったが)

時計を見ながら、葬式が終わるのをまった。なにせこのあと、故人の家族に霊障が絶えないというので除霊を頼まれているのだ。ほとんど霊力もなく、見せかけだけの除霊、母親ではないが彼はやる気がなかった。

そんなこんなで式が進む、彼はいつのまにか寝入っており、葬式は終盤にかかっているようだった。周囲を見渡すとほとんどの人が帰っており、あたりを見渡すと自分と自分の後ろ、パイプ椅子の並びの奥の棺が搬入できるほどの大きな開き扉の出口付近に、故人と同じくらいの年齢だろうか、小ぎれいな老齢の夫人が立ってハンカチで顔を覆っていた。

「ふむ、これは休憩か、どういう段取りなのだろう」
 みると檀上には、まだ棺があり、その上に故人の写真、がある。が、どこかから声がする気がした。初めは、自分のすぐ後ろから声がした気がした。
「あけてくれぇ、棺ヲ……開けてくれェ」
 やがて、その声が前方からする事がわかると、がたがたと棺が揺れているのを察し、戦々恐々としていた。後ろをみるとご婦人は相変わらずハンカチで顔を覆っている。
(自分だけが見ているのか……) 
 やがて……身動きが取れずにいると徐々におかしなものが姿を出してきた。故人の写真の背後、そのフチ……丁度写真のひとみ付近をがっしりとつかんだ手だ。
「ヒィッ……」
 やがて、のっそりと後ろ、背中をこちらに向た白装束の人間があらわれ、写真にそうようにして手足をうごかして、関節があらぬ方向に捻じ曲がる。その体が真横になったとき、瞬間的にぐるり、と首を動かした。
「うわあ!!」
 パーマをかけたふくよかな老婆。故人その人である。写真よりも恐ろしい形相で、髪の毛を振り乱して、あまりのことに青年が声を上げた。
「ふわっ!!」
と同時に背後の女性も声を上げた。
「ヒィ……」
 老婆は棺を見下ろしながら声を発する。
「カワイソウに、私……死んだのね」
 老婆は髪を振り乱しながら手足をがむしゃらに、地べたをはう昆虫のような動きをする。一通りぐるぐると写真の上を這いまわった後、やがてその天辺で会場全体を睨め付ける。次にソレは献花やら祭壇の物陰に隠れたり現れたりしながら、やがて焼香などが並ぶ台の上にたつ、やがて、それらの台の上で匂いをかぐと、
「イィイイイイイッ」
 とうなりながら蹴とばした。そこでようやく気付いたが、四つん這いでありながら苦のない姿勢、女性の手足は異常に長かった。
 「あっ……」
 焼香は転がり、地面におちひっくり返った。もしこの場に彼女が見えないものがいれば、ただそれが落ちてひっくり返ったように感じるだろう。やがて、昆虫が天をあおぐように奇妙な動きでよつんばいになり、苦悶の表情をみせると、大きな吐息とともに大きく呪詛のような言葉をはいた。それは、青年にはよくわかる。母がおしえてくれた“口にしてはいけない言葉”の一つだ。
「ウヌナヌウヌアヌ~」
 その言葉を周囲にはいた後、老婆は一瞬青年のほうをじっと見つめた。
(やばい、ばれている……こんな、こんな人の葬式に参列しろだなんて、母さん何を考えているんだ)
 プルプルと震える青年。老婆はやがてたちあがり翻って入れられた生前好きだっただろう青い衣類を羽織る。ゆっくりと周囲をぐるぐるみわたす、真っ黒な目に、青い肌。カサカサと気持ちの悪い動きでよつんばいであゆみだし、参列者の席を手前側に進みだす、あまりの事で、ずっとみてもいられないので青年はめをとじてはあけを繰り返す、まるで子供の遊びのだるまさんが転んだのように、開けるたびに少しずつ、それはこちらに近づいてきた。しかし老婆は目がよく見えないのか、匂いを頼りに何かを探しているようだった。
「ナ……オン……ナ」
 やがて5度目に目を開けたとき、老婆ははあはあと息をはきながら、まるでゾンビのように、青年のすぐよこにいた。それも青年に覆いかぶさるように、青年の座る椅子の背もたれに手をかけ天を仰いでいる。青年は混乱した。
―自分はほとんど霊力はないはずなのに、はっきり見えている―
 その事実に震えた。だがこういう時は見えないふりをするのが一番だと母から聞いていたののでそうすることにした。大きくなると息、そのたびに青年は戦々恐々とした、周囲を見渡す老婆。
「ここに……人はいないのかあ、気配はするのだが、見られていルような」
 老婆は青年に手を伸ばすが、老婆の手は青年をすり抜けるばかり、しばらくしてあきらめたように、やがて、老婆は次に後ろの出口付近、ご婦人のほうへむかい、やがて立ち上がり、時折
「ア……ア」
 といいながら近づき、ついに彼女の直ぐ傍、真横にきてべったりと出入口のとびらにはりついた時、驚嘆の声をあげた。
「アアアアア!!イャアアアアア!!!」
 まるで獲物を見つけた虫のように両手をひろげ、威嚇するように四つん這いから二足で立ち上がる。
「ここに、だれかいるだろう?はっきりは見えない、目玉を地獄で燃やされたから」
 やがて老婆は呪詛のようなものをなげかけようとする、大きく口をあけ、よだれをたらし、真っ黒な目をかっぴらいた。青年は自分だけ助かってはいけない、ご婦人の事を忘れていたと思い至る。老婆の口はご婦人の耳元へ近づきながらその言葉を並べ立てようとした。
「ウヌ……」
 咄嗟に危ない!!と思った青年は、大声でお経をとなえた。
「はんにゃ~はらみたー」
 ある魔除けの札をその老人に無言で手渡しした。ご婦人はおびえながらそれを何かを察したようにそれを受け取る。
「ありがとう!!」
 その瞬間、悪霊の老婆は目標を見失ったようにきょろきょろと周囲を見渡し、こういった。
「いない、いなくなった、きのせいか……奴め、奴のような気がシタ、あの妬ましい、こざかしいメギツネ」
 やがて青年は自分もその魔除けの札をバッグから取り出し大事に抱えた。しばらく老婆は周囲をすごい形相で見渡していたが諦めるとまたもや葬儀の檀上の写真の背後へとカサカサと地面をはいながらもどっていった。

 しばしの静寂。しばらくして、葬儀屋がこちらを覗きに来たが、青年は、あの老婆の事を思い出してプルプルと震えた。恐ろしかった。そして思い出す、老婆はご婦人の事ががみえなくなったあと、一瞬こちらに気づき、こちらを向いて何かを言いかけていたような……。何ていっていたか……せが……、せがれ……??青年をひどくにらみつけていた事は思い出せる。

 青年が立ち上がろうとした瞬間。その後ろで、ご婦人が大きな声をあげた。
「ああよかった!!やったわ!!あはははは!!あなたも見た?聞いた?あの女、呪いの罰をうけたのだわ、あの女やっぱり私を呪っていたのだわ、そして、呪い返しは成功したのだわ!!」
 その時青年はようやく気付いた。そのご婦人を最近、母に依頼をしに来た事があり見かけたことがあると、反対にこの葬式の故人を見たことはない。そのご婦人がハンカチを顔で覆っていたのは、泣いていたのではなく、笑をこらえていたこと。気づかなかったが、青年が老婆を見つけ悲鳴をあげたとき、それと同時に笑っているような声の震えがあった。母は呪い返しもできる。母は日頃“本当に困っている人の依頼しかうけない”と仕事がうまくいったかどうか探らせるために自分をこの葬式に参列させたのだと。だがしかしこの夫人は本当に困っていたのだろうか、笑いながら喜んでいるのを見ると、もしやとは思うがこの夫人が自分を呪うように何かを仕向けたのではないか、母は本当に依頼を吟味できたのだろうかと青年は疑うのだった。
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