オートロック

ショー・ケン

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オートロック

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 男は成金だった。何にでも鍵をかける。その頃には主流のデータにも、データ化した自分の記憶にも、何にでも。それもこれも両親のせいだと彼はおもっていた。小さなころから、こういわれてきたのだ。
「人を信用するな、簡単に、私たち夫婦のように不幸になるぞ、心に鍵をかけ、別人を演じろ」
 両親は喧嘩が絶えなかった。そして心をやんでいた。あいにくそんな家庭環境にあっても男は両親のようにはならないと思い奮起して、いい大学をでて、いい会社に就職して、まだ30代というのに企業して、大成功を収めた。
 だが反対の気持ちもあった。それが本当の幸せなのかということだ。両親はいがみ合っていたし、そう、そもそも両親がいきていたころ、一度だけ悪い成績をとったことがあるのだが、こういわれたのだ。
「お前は、お前の価値はこんなものか」
 その時男は、両親が世間一般の、個人の人格をないがしろにする親と同じに見えた。裏返せばその言葉は“おまえの価値など成績にしかない”と言われたのだと思っていた。

 つらい孤独な学生時代や、いじめを経て、やがて、男は順風満帆な風の中で、ついに好きな女性をみつけた。敏腕女社長で、しかし心のどこかに暗さをもっているような、やさしさと弱さの両面を持つ女だった。なんでもうまくいったし、何をしていても楽しく幸せだった。あの時までは。

「お願い、私と結婚して」
「え……」
 その時、男はとまどった。この女性の事は信じていたが、信じられないのは自分のほうだった。俺は、結婚して幸せになれるのか、いや、彼女をしあわせにできるのか、自分こそ暴力は振るわれなかったが、かれの父は母に暴力をふるった。その恐怖がよみがえり。両親の不幸せに考えを巡らせた。そしていった。
「悪い、考えさせてくれ」
 女性は、恐ろしく悲しい顔をして、顔を背けて、部屋をでていった。 
「そう……」
 たったそれだけを言い残して。

 女性がさったあと、男の人生は狂いはじめた。会社は成長をとめ行き詰まり、ついには経営破綻。女とも結婚どころか、音信普通になったため、男は遺書などさまざまな身辺整理を終えると、練炭自殺を試みた。しかし、死にきれなかった。死にきれずないていると、電話がかかってきた。
「もしもし、俺だ」
 その声でわかった。親友だ。
「おまえ、ひどく落ち込んでいるだろう、何か不味い事でも考えているのではないかとふと感じてな」
 男はそのころには、両親とおなじく頑固者、自殺しようとした事実をひたかくしにした。しかし、唯一無二で、親友できる芸術家の親友にいわれた。
「君も無意味に鍵をかけてきたわけじゃないだろう、過去にむかえばなにかがみえるだろう、どうだい“あの鍵”をあけてみないかい」
 その鍵というのは、両親の部屋にあった頭蓋骨状のストレージ。デジタルデータ記憶装置だ。両親が死んだあと、彼はそれを大事にしていたし、そのデータの解読の暗号も遺書にかかれていた。だが彼は、怖くて開けられなかったのだ。
「俺も立ち会おう」
 というので二人で、両親の死後そのままにしてあった、別荘として使っているかつての実家にいき、二人でそのストレージの暗号をといたのだった。男は覚悟をきめたが内心ドキドキだった。そもそも男の“何にでも鍵をかけるクセ”はこの遺産から始まったといっても過言ではない。社会人になったとたん、死んだ両親、実は自分が原因ではないかという恐れもあった。

 ストレージをPCに接続する、まずフォルダにデータ。そこには、まずあるビデオメッセージが同封されていた。フォルダ名は“息子へ”
 そしてそれをダブルクリックする。映像が始まる。
「いままですまなかった、我が息子よ」
 そこには仲良さそうに座る二人の夫婦がいた。いままで男がみたことがないほど、だきあいながら、いちゃいちゃしている。そして、つらつらと二人の現状がかたられた、かつてレストランを経営していたが、経営でだまされて二人とも鬱になり、人間不信になり人間を疑うことを進めて育ててしまったことの後悔。結婚旅行の時からの二人の幸せよりいつか生まれてくる彼の幸せを願っていたこと、そして旅行やら、出費をおさえためた貯金が、ある場所に隠されていること。そして、自分たちはいつもきみにさえ心をとじていたし、人を信じるなといっていたが、いつしか、心を開けるものがあらわれたら、“心の鍵をあけるように”と。そして二人はキスをすると、映像はそこで終わった。

 男は、同時に自分の機械化した脳に、ロックしてあった記憶を取り戻そうとした。男は両親の死後、無理に封印して、記憶をデータに移し替え、抹消していたが、その記憶は確かにあった。鬱と明るい時(そう状態)を繰り返すため、不安定な両親だったが、よく遊園地にいったり、外食にいったり、ピクニックにいったりしていた。両親がなくなり一人で生きていかなければいけなくなった時男は、強くなるために、その記憶を抹消し、心の奥底に封じていたのだ。

 男は嗚咽をした。恋人のことは、ときすでにおそしだったが、両親の残した資金はいくらでも使いようがあった。それから親友の助けもあり、彼と一緒に起業しまた、その企業は発展していった。
 そして私生活のほうも、あの時自然消滅してわかれた彼女とはどうにもならなかったが、彼女に似た素晴らしい女性を探しつづけ、やがて高齢になり、そうした女性をみつけると、やがて死ぬまでしあわせにくらしたという。そしてその死がやってきたころ。その財産の半分を愛するひとに、その財産の半分を恵まれない子供への寄付としたという。
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