不幸の手紙

ショー・ケン

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不幸の手紙

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Aさんは自分の陰気な性格を自覚している。
学生時代から、自分より見た目や性格、才能や知識が優れている人間を見ると不幸になればいいとどこかで嫉妬したりしていた。

だからありとあらゆる方法を試したのだそうだ。藁人形、呪文、蟲毒等々、様々に試したがどれも効果はなかった。退屈だったが、まあ人生それほどうまくいかないとおもっていたし、どこかでもしこれがうまくいったら自分がまずい方向に進んでしまう事も理解していた。

ある時から、自分はいじめられるようになった。ものを隠されたり盗まれたり、無視されたり、ひどい時には、クラス全員から正面むかって悪口をいわれたり、どういう事かと思っていたが、どうやら、誰かが自分が他人を呪っているのを言いふらしたらしい。

もう、それならば一層ということで、Aさんは不幸の手紙を書くことにした、そこには自分の自殺することと遺書とをおりまぜて、しかし、なかなか自殺に踏み切れなかったある日、Aさんは気づいた。ぴたり、といじめがなくなっていることに。どういう事だ?自分はまだ、死んでいないのに。

もともと仲が良かった友人に話しかけるともとのように話しかけてくれた、それから数か月普通の学園生活が戻り、その友人にわけを聞いた。友人はあっさりと答えてくれた。
“あんたの不幸の手紙、効果あったのよ”
その手紙をもらって人に渡さなかった人がものを盗まれたとか事故にあったとか、家族や親類が不幸にあったとか、それであんたをいじめるのをやめたのよ。

Aさんはほっとして、それからは満足いく学生生活をすごすようになった。

卒業からしばらくして、社会人となったAさんは久しぶりの同窓会で、例の話題をだした。一瞬くらい雰囲気になった友人たちだったが、友人の一人がある事を教えてくれた。
“不幸の手紙……本当はね、不幸なんてなかったんだ、むしろいじめをやめて、手紙を期間内に回した人間は幸福なことばかりあった、そういうジンクスというかまじないみたいになってね……だからあんた、実は守り神ってあだ名がついていたのよ”

どうやら、それをきっかけに、ピリピリしていた雰囲気は変わったのだ。もともとAさんを標的にしたいじめは3年で受験が近かったことによるストレスだったと皆自覚していて、どこかで、それを理解していた。だからこそ、そのひとつのきっかけでいじめはぴたりとやんだ。まじないでもなんでも、受験に成功したいという意思もあったのだという。

そしてみんなは謝った。いい気分でAさんは帰ったが、帰り道、一人になったAさんは、にやりと笑った。

実は同窓会で言われた事は、すでにAさんは何となく感づいていた、それも学生時代にだ。

 その時に彼女は学んだのだ、人間不信になるのではなく、人間の本性にきづいた。自分の様に人を呪う人間も、いじめる人間も、快楽さえあれば人間は快楽に従うとわかった。

 彼女の本性は変わらなかった。人を呪いやすく、陰気な性格だ。自分が不幸を望むと、逆の事がおこるとわかり、この方法で、社会人になっても、職場で嫌な人間を自分の手中に収めるため、何度となく呪い、呪いをほのめかし、呪いの結果得られた幸福によって人が自分の言う事を聞くことを、完全に把握していたのだった。

そんな彼女を、人は“聖人”という。たまたま、そういうふるまいをできるようになった。いまも人を呪い続けている悪女だと知らずに。

いわく人間は、誰でも善にも悪にも転がりやすい。もっとも重要なのは、彼らが敵を探すとき、集団に隠れて、彼らと同じになりすますことだ。という。遺書をしたためた彼女が不幸の手紙にかいた事は“ほとんどの人間が自分と同じ悪意をもつのに、自分がそれを証拠がわかる形で残した事にたいして、自分を呪う”という文言だった。



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