半端需要

ショー・ケン

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半端需要

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 何をやってもうまくいかない男、何をやっても中途半端な自分自身にうんざりしている。仕事も友人関係も彼女との関係も半端なところまでいくが、あと一歩のところで、すべておじゃんになってしまう。
「どうしたものか、それに近頃不況だし、科学技術が発展してAIが仕事を奪う危険まである」
 男の不安は的中し、ある時会社を首になった。男はあきらめて、人生に絶望し、自殺することをきめた。首をくくるために森にはいり、ロープを用意して今まさに手をかけようとした瞬間に電話がなった。
「なんですか?」
「転職情報サイトです、わが社に登録されている○○さんですか?」
「ええ、そうですが、僕に求人なんて来るはずが……」
「いえいえ、あなたはとても人気なんですよ、一度わが社にいらしてください、様々な企業からお声がけがありますので」
 そして男はその会社の本社に行くと確かにさまざまな企業からオファーがあるようだ。男は尋ねる。
「どうして私のような成績も才能も、運もないやつがこれほど人気になったんですか?何か裏があるのでは?」
「めっそうもございません」
 男が根掘り葉掘り聞きだすと、対に折れた社員が経緯を話してくれた。
「昨今AIなどの技術が発展して、なんとか法で縛りをもうけているのですがその都合によって、空白の求人が生まれたのです、人間にも、AIにも嫌われるようななんでもない仕事、それがもっとも不安定な領域だということで、あなたの言う方に求人が集まっているのですよ、給料が少なくても文句もいわないあなたのような人に」
 男は、悪口を言われている自覚はあったが、それでも、満足した。
「俺にも、生きる場所があるのだな」
 そうして男は生涯、不安定ながらもいくつかの会社の末端の従業員として労働を全うしたという。
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