リフレッシュ

ショー・ケン

文字の大きさ
1 / 1

リフレッシュ

しおりを挟む
 なんだか近頃体の重いAさん。それに関連して以前別れた元カノBさんの事がきになる。なにせこの間自殺未遂をしたというし、友人にしつこく自分の居場所を聞いたり、精神的に落ち込んでいて、ほとんど引きこもりのようになっているらしい。

 Aさんにも後ろめたい部分はあったのだ。職場で酒によってタクシーで帰宅したその日、その日にその勢いで別れてほしいといってしまった。だが、以前から彼女は自分にもったいないとおもっていたし、それが心の重荷でもあった。

 しかし、彼女は自分を思い続け、何か生霊のようなものを飛ばしてきているのだろうか。あるとき困り果てたAさんは、霊媒師に相談した。以前お世話になった人で、Aさんの顔をみるなり
「えらくひさしぶりね、ひどくやつれちゃって」
 と心配してくれた。

 すぐに“憑いている霊を払うから”という霊媒師、しかし、一筋縄ではいかないといった。
「ふむ、明後日空いてる?あなたと彼女の思いでの場所があるでしょ?」
「あ、ええ」
「そこで落ち合いましょう」
「はあ」
 そういって立ち去ろうとすると、霊媒師は一言。
「あなたはこれでいいのね、霊さえ払う事ができれば」
 と、Aさんは答えた。
「彼女に未練がなくなるほうがいいでしょう」

 やがて翌々日、地元で有名な夜景も見える山の上の展望台にAさんはきていた。霊媒師もきていて、その背後にAさんは驚くべき人の影をみた。
「うっ」
 そこには、別れた元カノであるBさんがいたのだ。
「心配しないで、これは、霊魂だから」
 と元カノを紹介する霊媒師。なら、まあいいか、と納得した。

 霊媒師はAさんとBさんを引き合わせると、何か祈祷のようなものとお経のようなものを唱え始めた、二人は自然とお互いを見つめあった。
 そして、Bさんが言葉を放つ。
「ねえ、あなた、本当に……あの時の言葉は、本心なの?」
「あの時って?」
「別れの時よ、私を突き放したでしょう……」
「それは……」
 霊媒師は、まるで二人の霊魂がとりついたように二人の言葉を復唱していた、そしてある時、霊媒師が叫ぶ。
「迷える霊魂よ、悔いを話たまえ、心残りを話したまえ」
 するとすっとAさんの心は軽くなった。このお祓い自体、本当はBさんと会いたかったための口実であったのかもしれない。あの時、あの夜Aさんは、何かの衝撃で、苦しみで、あんなことを言ってしまったような気がした。
「私は、あなたといつまでも一緒になろうとしたの、それでも、私には友人がいて、とめてくれた……私、あなたに執着して、どうにか、あなたの気持ちさえわかればって」
「俺は……いつも僕は君にもったいないと思っていた、あの時、何か重要な事がおきて、君に別れを告げなければいけないと思って」
 霊媒師が、叫んだ。
「霊魂よ、己の体を見なさい!!」
 周囲を見渡すAさん、Bさんの体に異変はない、自分の腹部をみる、そこは奇妙に凹んで、何かの部品がくいこんでいた。急激に痛みが走る。
「う、ううっ……」
 あの夜の映像がフラッシュバックする。飲み会のあとタクシーに乗り込んだ彼、うとうととしていると、ふと運転手もまた、うとうととしている事にきがついた。呼びかけようとした瞬間、タクシーは突然運転を誤り、がけ下に転落し、車は地面につっこみ大破、運転手とAさんは帰らぬ人になった。

 そこでAさんはすべてを理解した。その事故の直後、かろうじて意識のあったAさんはBさんに電話をした。
「俺と別れてくれ……俺を忘れてくれ」
 Bさんをみる、彼女は泣いていた。彼女に手を伸ばす。
「ああ、俺こそが幽霊だったのだ、酔っぱらって帰って別れをつげたというのは、俺の中での勘違いだ、なぜならすでにあの時には……ならば俺の未練とはあの時、きつい言い方で別れを告げてしまった事だったのか」
 Bさんは霊媒師にいう。
「あの人は、ここにいますか、あの人は、自由になれましたか?あの時、確かに私に電話をかけてくれた彼は、警察がいうにはその時刻にはすでに死んでいたって、きっと私に何か、不満があって、それで死ぬ間際に別れを告げたんじゃないかって、私ずっと悩んでいて……」
 霊媒師は答えた。
「あなたにかけた最後の言葉が別れだったことを悔やんでいます、ありがとう、楽しかった、と、伝えられず息絶えたのだと」
 Bさんは涙を流した。霊媒師が
「あの人は、あなたが嫌いになったんじゃない、ただ、もう未来がない自分の事を忘れてほしかったんですよ」
 と伝えると、Aさんはそれを聞いて笑って成仏したのだった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...